第110話~ヒッグスタウンへの旅2、天空の塔~

「それじゃあ、銀ちゃんやってみなさい」

「はい、エリカ様。行きます。『鬼火』」


 逃げ惑うゴブリンに対して、銀が妖術を放つ。

 ボワッと揺らめく炎が空中に出現し、たどたどしい感じではあるが、逃げるゴブリンの1匹に迫っていく。


 ボン。


「うぎゃあああ」


 炎がゴブリンに着弾すると、ゴブリンはたちまち火に包まれ黒焦げになる。


「やりました。エリカ様」

「よく、頑張りましたね、銀ちゃん。これなら戦闘でも通用するレベルですよ」

「ありがとうございます」


 エリカに褒められた銀がうれしそうにニコニコ笑う。


 銀が今使ったのは、妖術という魔法によく似た術だ。

 狐特有の術で、魔法と術式が異なるが魔力を使うという点で共通している。

 だから、うちに来て以来、エリカがずっと魔力操作の訓練を銀にしてやっていたのだった。

 おかげで、家に来たときは弱弱しかった銀の妖術も、今でもゴブリンくらいなら簡単に倒せるほどになったのである。


 ところで、なぜ俺たちがゴブリンと戦っているかというと。


「旦那様、近くにゴブリンの群れが潜んでいます」


 ずばり、街道を進んでいたら森に潜んでいたゴブリンの群れに襲われそうになったからだ。


「ほう、ゴブリンか。何匹くらいいる?」

「50匹くらいですね」

「50か。結構いるな」


 普通ゴブリンが襲い掛かってくるといっても10匹もいないことの方が多いのだが……。

 ちょっと違和感を感じたが、来るものは仕方ない。


「さっさと片付けるぞ」

「「「「はい」」」」


 こうして俺たちはゴブリンとの戦闘に入り、あっさり壊滅させた後、数匹だけ逃し、銀の妖術の練習台にしたというわけだ。


「しかし、大したことはないとはいえ、ゴブリン50匹は多かったな」


 戦いが終わった後で、俺はそう感想を漏らす。

 俺たちだからこそ、50匹のゴブリンといえどもあっさりと始末できるわけだが、もし、これが少人数の旅人だったら。小規模な商人の荷馬車だったら。

 そう考えるとゾッとする。

 どう考えてもそういう人たちが襲われtら、全滅しているはずだからだ。


「最近、魔物が増えていると聞き及びます。やはり古代神の復活と関係があるのでしょうか?」

「それはわからないな。ただ、俺たちにできることは目の前に来る魔物は撃ち滅ぼし、できるだけ早く神聖同盟とやらの野望を打ち砕くだけさ」


 世界は広い。

 俺たちがいくら強くても世界中の魔物を殺し尽くすことなどできない。

 だったら、やれることをやるだけだ。


「さて、それはともかく、天空の塔へ観光に行くか。ここからならもう少しだ」

「「「「はい」」」」


 こうして俺たちは旅を再開させるのだった。


★★★


 ゴブリンの群れと戦闘してから5日後。


「ここが『シエルの町』か」


 俺たちは『天空の塔』があるという『シエルの町』に着いた。


「うーん、噂通りすごく大きいですね」


 ヴィクトリアが塔を見上げて思わず感嘆する。

 それくらい塔はでかかった。


 何せまだ町の中に入っていないにもかかわらず、町の外から見ているだけでもこの圧倒的な威圧感なのだ。

 すぐ側から見たら、どんなだろうと思う。


「では、早速行ってみるとするか」


 俺たちは塔の上からの景観を堪能するため、天空の塔へと向かった。


★★★


「もうワタクシはダメです。みなさん、お元気で」


 天空の塔の中頃まで登ったところでヴィクトリアがそう泣き言を吐く。


「私もそろそろ辛いです」

「銀も」


 ヴィクトリアどころかエリカと銀も辛そうだ。

 平気なのは体力バカの俺とリネットくらいのものだった。


 そもそもこの塔は思った以上にすごかった。


「これは……確かに評判になるだけのことはあるな」


 町の中に入り、塔のすぐ側まで行き、上を見上げると上の方がよくわからなったくらいだ。


「お1人様、入場料は銅貨20枚となっております」


 受付のお姉さんに入場料を払って中へ入る。

 入る時にお姉さんに俺は聞いた。


「この塔って、何メートルくらいの高さ何ですか?」

「70メートルです」


 70メートルか。

 故郷のヒッグスタウンの時計塔の倍以上の高さだな。

 なるほど、見上げると首が痛くなるはずだ。


 中に入ると、1階部分はカフェスペースになっており、大勢の人がいて、のんびりとした雰囲気だった。


 しかし、塔を登っていくと同時に雰囲気は一変した。


「どんどん、人が少なくなってきましたね」


 ヴィクトリアの言う通り塔を登るにつれ人が少なくなっていき、塔を半分登るころには俺たち以外の観光客の姿が見えなくなっていた。

 そして、残った俺たちでさえも泣き言を言う者が出る始末である。


「しょうがない」


 俺はもう一度周囲に人がいないことを確認する。


「お前ら、もうちょっと俺に寄れ」


 俺は疲れ果てているヴィクトリアたちに声をかけ、俺の近くに来るように促す。


「「「「はい」」」」


 ヴィクトリアたちが側に寄ってくる。

 なぜか全然疲れていないリネットまで寄ってきたが、細かいことは気にしないことにする。


「『重力操作』」


 俺以外の全員が数10センチ、中に浮く。

 そして、俺が階段を登るとともに、彼女たちも一緒に上層へと登っていく。

 つまりは、このまま魔法で上まで連れて行ってやるつもりなのだ。


「それでは、行くぞ。途中で段差に引っかからないように注意するんだぞ」

「「「「はい」」」」


 こうして俺たちは、再び最上階を目指して歩み始めたのだった。


★★★


「うわあ、すごくきれいです」

「うむ、最高だな」

「これはステキですね。ほら、ホルスターも見てみなさい」

「ばぶう」

「すごく遠くまで見えます。銀はこんな高いところに来たのは初めてです」


 ようやく最上階に着いた。途端に女性陣が活発に行動し、大はしゃぎする。

 お前ら、リネット以外はさっきまで死にそうな顔だったのに。……本当、現金なやつらだ。

 まあ、そういうところもかわいいけどね。


 女性たちにつられて俺も外の景色を眺めてみる。


「うほお。これはすごいな」


 塔の最上階からの眺めは、それは絶景と呼ぶにふさわしいものだった。

 ここ『シエラの町』の周囲は平原地帯なのだが、この塔の上からならば周囲を一望できた。

 テレスコープなどを併用すればもっと遠くまで見渡せるだろう。

 どうやら、この塔が監視のために作られたというのは本当らしかった。


「それでは、少し休憩してから帰りましょうか」


 一通り景色を堪能した後は、食事休憩だ。

 最上階にはいくつかベンチが設置してあるので、それに座って食べる。


「今日はホットドッグですよ」


 今日の昼食はホットドッグだった。

 このホットドッグはエリカのお手製で、ヴィクトリアの収納リングに入れてある分だ。

 ヴィクトリアの収納リングの中なら物が腐らないので、本当便利だ。


「うまい」


 俺はホットドッグをむさぼるように食う。

 エリカのホットドッグはマスタードがよく利いていて、ちょっと辛いが、これが甘いジュースとよく合い、一緒に食うととてもうまいのだ。


 俺以外のみんなも疲れてお腹が空いたのだろう。

 よく食べている。


 昼食後は30分ほどのんびりして過ごし、そして。


「さあ、景色も見たことだし帰るか」


 ということで、塔を降りた。


★★★


 その日は『シエラの町』の宿屋に泊まった。


「これは明日、絶対に筋肉痛になりますね」


 と、ヴィクトリアが主張するので、2泊していくことにした。

 部屋割りは、俺・エリカ・ホルスターの3人と、ヴィクトリア・リネット・銀の3人で、2部屋だ。


 夕ご飯を食べた後は、お風呂に入り、少しのんびりした後、部屋で寝ることにした。


「ようやくホルスター眠りましたよ」


 エリカがホルスターを寝かしつけた後は大人の時間だ。


「旦那様、どうぞ」


 久しぶりに子供を作らない子作りをする。


「旦那様、私、幸せです」

「俺もだ」


 そうやって何回か子作りを楽しんだ後、エリカが俺の腕に抱きついてきて言う。


「この幸せがずっと続きますように」


 本当。そうありたいものだ。俺も切にそう願う。

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