第101話~王国武術大会決勝戦、VS謎の剣士~

 準決勝終了後は、観客席でエリカたちと昼食を食べた。

 昼食中、みんなが俺に声をかけてくる。


「旦那様、あと1回勝てば優勝ですね」

「ホルストさん、ファイトです」

「何、優勝候補筆頭でさえホルスト君には歯が立たなかったんだ。もう優勝間違いなしだろう」

「ホルスト様、頑張ってくださいね。ほら、ホルスターちゃんも手を振って応援してますよ」


 見ると、確かにホルスターも銀に抱かれながら手を振っていた。

 赤子に意味が分かっているとは思えないが、


「あう、あう」


 と、口をもごもごさせながら、「父ちゃん、頑張って!」と応援しているようにも見えた。


 うん。さすがは俺とエリカの息子。賢いな。

 こんな赤子にまで応援されては、もう頑張るしかない。


「よし、みんな、俺頑張るからな」


 感動に打ち震えた俺はそう誓うのだった。


★★★


 とうとう決勝戦が始まった。

 決勝戦ともなると闘技場の様子がすごいことになっていた。

 観客席は立錐の余地もないほど人であふれていて、それに合わせて声援の量も物凄かった。


 観客席を見回すと、エリカたちの姿が見えた。

 みんな手を必死に手を振ってこちらを応援してくれている。


 エリカたちの他には、フォックスをはじめ知り合いの冒険者グループたちの姿もあった。


「ホルスト~、頑張れよ!」


 彼らも大声で応援してくれていた。


「あいつら」


 うれしくて、思わず涙が出そうになった。

 貴賓席の方を見ると。


「あれは、国王陛下かな」


 国王陛下らしき人物の姿も確認できた。

 とはいっても本当に国王陛下かどうかは知らないが。俺、顔知らないし。

 まあ、多分、今日は決勝ということで顔を出したのだと思う。


「両者、前へ」


 観客席を一通り見た俺は審判の指示で前へ出る。


「ホルスト・エレクトロンだ。よろしく頼む」

「オンブル……だ」


 いつも通り互いに名乗り合う。

 名乗った後、俺は相手を見る。


 相手は茶色の髪の中肉中背の普通の男だった。

 全体的に見ても戦えるような筋肉がついているようには全然見えなかったし、手とかを見ても、剣など一度も握ったことがないような柔らかそうな手をしていた。


 どうして、この人はここにいるのだろう。

 どうやって、決勝戦まで進んで来たのだろう。

 すごく場違いな印象を受ける相手だった。


 ただ。


 変な気配を感じる。

 相手からは変というか、何かこう不気味な存在感を感じるのだ。

 これは注意しておく必要があるな。

 そう考えた俺は、最初から『知覚拡大』の技を使うことにする。


 そして、この判断が正解だったとすぐに気が付くのである。


★★★


「始め!」


 試合が始まった。


「行くぞ!」 


 まず俺から仕掛けていく。

 奇をてらわずにまっすぐに仕掛けていく。

 当然、防御や反撃があるだろうと予想して攻撃したわけだが。


「?」


 相手は反撃も防御もしてこなかった。それどころか。


 ドスン。

 俺の攻撃が直撃する。

 そのまま相手が数メートル吹き飛び、地面に転がる。


 普通なら今のだけでも致命的で立ち上がったりできないものなのだが。

 ぬく。っと相手は立ち上がってきた。

 特に出血などもなく、けがを負ったようにも見えない。


 それどころか、俺のところに向かって来ようとしている。

 どう考えてもあり得ない話だ。


「やはりな」


 何でだ、とは思わなかった。

 意外な結果になることが予想できていたからだ。

 これは面倒なことになるかも。

 そう思わざるを得なかった。


★★★


 その後も俺は攻撃を続ける。

 攻撃をするたびにオンブルは吹き飛び、地面に倒れる。


 しかし、そのたびに何事もなかったかのように起き上がり立ち向かって来ようとする。

 いい加減に嫌になってきた。


 そして、それは俺が焦れて攻撃を一時中断したときに来た。


 何か来る!


 俺の『知覚拡大』に何かが引っ掛かった。

 背後から何かが近づいてくるのが感じられた。

 俺はとっさに飛んでそれをかわし、斬りつける。


「何をやっているんだ」


 観客席からそんな声が聞こえてくるが、無視する。

 一度かわした後も、見えない何かは襲い続けてきたが、俺はそれらをすべて撃退した。


 それを見て、オンブルが俺にしか聞こえないような小さな声で言う。


「やるではないか人間。この攻撃を避けたのはお前が初めてだ、褒めてやるぞ」


 その声を聞いた俺は背中に寒気を感じた。

 オンブルの声。それはおよそ人間のものではなかったからだ。


 こいつ、何かに憑かれている!


 そう感じた俺は急いで魔力感知を使う。

 こういう生物に憑く何かというのは、体のどこかに寄生し、そこから魔力を寄生先に張り巡らし、相手を支配すると聞く。

 だから、そこを攻撃すれば寄生先から引きはがせる。そう、エリカに教えてもらったことがある。


 あった。


 魔力探知で丹念に探すと、オンブルの背中に邪悪な魔力が集まっている部分があった。

 ほんのわずかな魔力しか感じないので、普通の魔法使いならわからないレベルだと思う。

 目標が定まったので、そこを狙うことにする。


「『忍び足』」


 気配を消し、一気に背後に接近する。

 幸い、俺の見立てではオンブルを支配している何かは、何かを支配するのは不得意らしく、オンブルを満足に動かせていない。だからこそ、見えない何かで攻撃してたのだ。


 予想通り、俺の攻撃はうまくいった。

 魔力の集中している背中の1点に、うまく一撃を入れることができた。


「ぎゃあああああ」


 オンブルが絶叫をあげ、その場に倒れ伏す。

 同時に邪悪な気配も消える。

 それを確認して、俺は審判に声をかける。


「おい、こいつ気絶したみたいだぞ」

「うむ」


 俺の声を受け、審判が確認する。


「確かに、オンブルは気絶している。これにて、ホルストの勝利を宣言する。武術大会優勝は、ホルスト・エレクトロンである」


 審判が俺の優勝を宣言すると、ドッと闘技場に歓声が沸き起こる。

 俺はそれに手を振って応える。


 これで終わりか。

 手を振りながら、俺がホッとしたのも束の間。


★★★


「おのれ、許さんぞ」


 俺が手を振っていると、場内にそんな声が響き渡る。

 それは闘技場にいた人全員に聞こえたようで、場内がざわめき立つ。


「上だ!」


 誰かが空中を指さす。

 そこには黒い霧のようなものが集まってきていた。


「ぐおおおお」


 そして、その黒い霧から何かが生まれた。


 それは山羊の角、黒い翼、先の尖った尻尾、獣のような体毛に包まれた怪物だった。

 怪物はいわゆる悪魔と呼ばれる存在の外見をしていた。


 それを見て、俺は剣を構え直す。


 さあ、武術大会番外戦の開幕だ。

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