第100話~武術大会準決勝 VS剣聖の一番弟子

 武術大会最終日。

 朝早くから起きた俺は、早朝からイメージトレーニングにいそしんでいた。


「やはり、あの時はこうすればよかったかな」


 今はキングエイプと戦った時のことを思い返しながら、場面場面で自分の行動が正しかったのか振り返っている。


 ボードゲームのチェスには感想戦というのがある。

 試合終了後、あの時こういう手を打てばよかった、あっちの手の方がよかったと、選手同士で行う反省会のことである。


 今、まさに俺が行っていることだ。

 これを行うことで、いざという時に、適切な手が打てるように訓練しておくのだ。


 所詮考えるだけと馬鹿にされるかもしれないが、これが結構とっさの判断に有効なのだ。

 事前に複数の手を考え、その時に合わせて一番有効な手段を取る。

 戦いにおいて重要なことだ。


「ホルスト君、ご飯できたから食べなよ」


 イメージトレーニングに集中していると、リネットが食事の時間だと、呼びに来た。


「もうそんな時間か」


 本当、集中していると時間がたつのが速い。


「今、行くよ」


 俺は一言声をかけると、立ち上がり、ご飯を食べに行くのだった。


★★★


 準決勝の組み合わせ抽選を引いてきた。

 相手はゾンネという男だった。

 抽選を終えた俺は、また賭けの会場へ行ってみる。


「相変わらず人が多いな」


 賭けの受付スペースには昨日同様多くの群衆がいた。

 皆、あーだ、こーだ言いながら誰に賭けようか必死に考えている。


「ここで負けたら、1か月水だけ生活だ」


 とか、言っているやつもいる。


 それを聞いて俺は思う。

 生活に支障が出るくらいの金を賭けるなよ、と。

 うん。皆も賭け事はほどほどにね。


 俺が賭けの受付スペースに貼ってある張り紙を見るとこう書かれていた。


「準決勝第2試合。ホルスト対ゾンネ。ホルスト4倍。ゾンネ1.2倍か」


 結構倍率に差がついているな。

 そんなにゾンネとかいうやつは強いのか?

 そう思いながら賭けのスペースを離れると。


「よう、ドラゴンの」


 また、フォックスに出会った。

 なんだ?こいつとはここでよく会うけど、実はこいつも賭けに来ているのか?

 まあ、フォックスなら賭けで身を持ち崩すこともないと思うが。


 それはそうと、会った以上は挨拶しておくか。


「どうも、フォックスさん」

「よお、準決勝に進んだんだってな。おめでとうよ」

「ありがとうございます」

「で、誰と戦うんだ」

「ゾンネという人ですね」

「ゾンネか。お前もあいつと戦うのか」

「お前も?」


 フォックスはコクリと頷く。


「そいつ、俺が予選で戦って負けたやつなんだ」

「そうだったんですか」

「で、後で知ったんだが、そいつ今回の優勝候補らしいぜ。何でも、剣聖の1番弟子という話だぜ」

「剣聖というとあの剣聖ですか」

「そうだ」


 剣聖ハンニバル・ヴァルムンク。

 この国で一番強いとされる剣士で、国王から剣聖の称号を賜っている人物だ。

 そんな人物の1番弟子ということはかなり強いのだろう。

 きっと、今までも楽勝で勝ち上がってきたに違いない。

 だからこそ、あの倍率だったのだろう。


「そんなわけで、相手は強いだろうが、俺の敵を討つと思って頑張ってくれよ」

「はい、頑張ります」


 それで、俺たちの会話は終了し、俺は試合会場へ向けて歩き始める。


★★★


「俺はホルスト・エレクトロンだ。よろしく頼む」

「拙者はゾンネ・エペと申す。よろしくお頼み申す」


 準決勝第2試合が始まった。

 いつものように互いに名乗り合い、握手を交わすと、互いに開始位置に着く。


「始め!」


 そして、試合が開始される。


 タン。

 まず、ゾンネが動く。


 剣を構え、まっすぐに俺へ突っ込んできて、剣を振り下ろしてくる。

 特に奇をてらった攻撃ではないが、速く力強い攻撃だ。

 それを連続で何度も俺にぶつけてくる。

 この俺も受け止めるだけで精一杯で、反撃できない。


 さすが剣聖の1番弟子という感じの攻撃だ。

 ただ、俺が防御を固めているのでゾンネもそれ以上のことはできない。


「やるな」


 俺の防御が固いと思ったのか、ゾンネは一旦引く。

 しかし、引いたかと思うとすぐに仕掛けてくる。


 右、いや左か。


 ゾンネの視線が右に向いていたので右を警戒していたら、ゾンネが左に仕掛けてきた。


「フェイントか」


 いわゆるフェイントと言われる攻撃だった。

 しかし、事前に気が付いたおかげで何とか防げた。


「ほう、これをしのぐとはやるな」


 俺に攻撃を防がれたゾンネは不敵な笑みを浮かべる。

 まるで、楽しんでいるかのようだ。


「ならばこれはどうだ」


 ゾンネの気配が突然消える。

 これは、『忍び足』?

 ゾンネの攻撃は紛れもなく『忍び足』だった。

 さらに。


「!」


 突然背後に不気味な感覚がする。

 俺は思わず背後を振り向く。

 俺の背後に強烈な攻撃が迫ってきていた。


「く」


 俺は何とかその攻撃を剣で防ぐが、強烈な斬撃を食らって、2,3メートル攻撃する。


「ほう。これも防ぐか。剣聖様に授かった必殺剣『暗器殺』を」

「なるほど、それがお前の切り札というわけか」

「そうだ。しかし、これを防ぐとはお前も中々だな」


 自分の必殺剣を防がれたというのにゾンネはうれしそうだ。

 それを見て、こいつは根っからの戦闘狂だなと思った。


 しかし、『忍び足』まで使ってくるとは。

 これは一筋縄ではいかないな。


 ならば、俺も奥の手を使わせてもらうとしよう。


★★★


 『神眼』

 『神強化』が+2になった状態で使える技だ。

 脳の知覚能力が非常に強化される技だ。


 俺はこれを通常時でも使えないかと研鑽してきた。

 その結果、会得したのが『知覚拡大』という技だ。

 『神眼』の下位互換ではあるが、『神強化』なしでも使えるのは大きい。

 それに、目の前の相手と戦うのにはこれで十分だ。


「まいる」


 今度はこちらから仕掛けていく。

 ガツンと一発打ち込んでやる。


 ゾンネはそれを軽く受け流し反撃してくる。

 正攻法にフェイント、先ほどの必殺技と色々と織り交ぜて攻撃してくる。

 その攻撃は先ほどよりも激しい。


 だが。


「?!」


 ゾンネの顔がゆがみ、表情から余裕が消えうせる。

 攻撃がすべてかわされている上。


 ビシ、バシ。

 俺の攻撃が次々にヒットしているからだ。


 これが『知覚拡大』の効果だ。

 一見隙がないように見えるゾンネの攻撃も『知覚拡大』を使えば丸裸にできる。実は隙が無いように見えるこいつの攻撃にも案外隙があるのが分かるのだ。

 そこを突いて攻撃してやると面白いように攻撃が当たっていく。


 今までここまで攻撃を当てられた経験がないのだろう。ゾンネの顔に焦りの色が見える。

 しかし、それでもゾンネの防御は固い。中々致命打を与えることができない。

 ここはもう一つの技を使うか。


 俺はそちらの準備に入る。


★★★


 『究極十字斬』

 これも『神強化』が+2でないと使えない技だ。


 俺は『神眼』同様、多少性能が落ちても通常時にこの技を使えないか模索してきた。

 その結果、編み出したのが。


「行くぞ!『十字斬』」


 この『十字斬』だ。

 威力は完全に『究極十字斬』の劣化版だが、キングエイプのような化け物でもない限りこれでも十分だ。


 バキン、ボキ。

 俺の放った『十字斬』は、ゾンネの剣をへし折り、盾を粉砕する。


「ぐはああ」


 その上で、ゾンネの皮の鎧を突き破り、ゾンネの胸に十字の傷を刻み込む。


 ドン。

 大きな音を立てて、ゾンネが地面に倒れ伏す。

 近づいて確認してみると、意識はないが生きてはいるようだった。


「審判、相手気絶したみたいだぞ」


 俺の言葉で審判が寄ってきて確認する。そして。


「勝者、ホルスト!」


 俺の勝利を宣言する。


「ワー、ワー」


 審判の宣言で場内が一斉に歓声に包まれる。


「みんな、ありがとう」


 俺が手を振って応えると、さらに歓声が大きくなる。

 俺はしばらくその歓声にこたえ続けた後、もう一度手を大きく振り、その場を後にした。

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