第102話~王国武術大会番外戦、VSグレートデビル①~

「我が名はグレートデビル。新しき神々に反逆せし、偉大なる悪魔なり。人間ども。よくもわが企みを邪魔してくれたな。その礼として、この場にいる人間は皆殺しにしてくれよう」


 突然現れた悪魔は、グレートデビルと名乗り、人間たちの虐殺を宣言した。

 それを見た俺は、当然俺のところに最初に向かってくるものだとばかり思い、身構えたのだが、グレートデビルは意外な方向へ向かった。


「国王よ、覚悟せよ!」


 なんと国王陛下の方へ向かっていったのだ。

 国王殺害を宣告されて護衛の騎士たちが慌てるのが見える。


 それにしてもなぜ国王なのだろうか。

 そういえば、ここに国王がいるということは優勝者は国王と謁見するとか言う予定だったのでは?

 となると、オンブルが優勝した場合、奴は国王と謁見していたはずで、そうなると奴の狙いというのは……国王暗殺か!


「『神強化』」


 俺は急いで自分に魔法を使う。

 もう武術大会は終わっているから遠慮なく使える。


「『重力操作』」


 自分を強化し終えた俺は、空を飛んで一気にグレートデビルに近づく。


「うおりゃあああ」


 今まさに国王に魔の手を伸ばそうとしていたグレートデビルに一撃を加えてやる。


「ぐお」


 俺の奇襲でグレートデビルが吹き飛び、無残に地面にたたきつけられる。

 地面にたたきつけられたダメージが思ったより大きかったのか、グレートデビルは地面の上で動けないでいる。


 それを見届けた俺は国王陛下に近づいていく。


「国王陛下、ご無事ですか?」

「ああ、そなたのおかげで余は無事だ。礼を言うぞ」

「おほめいただき、ありがとうございます」

「そなたは確か大会の優勝者だな。これから、どうするつもりだ」

「もちろん、あの化け物を退治してまいります。私が戦っている間は、私の仲間に陛下のことを守らせますので、ご安心ください」


 そう言うと、俺は胸のペンダントに語り掛ける。


「エリカ、聞こえるか」

「はい、旦那様。聞こえております」

「いいか、俺が今からそこに転移門を開くから、お前たちはこっちに来て国王陛下を守ってくれ」

「畏まりました」


 エリカたちにそうやって指示を出した俺は。


「『空間操作』」


 すぐに目の前に転移門を作る。


「旦那様」


 転移門を作るとすぐにエリカたちが出てきた。

 見ると、全員すでに完全武装している。

 さすがエリカたちだ。手際が良い。


 さらに。


「ホルストさん、これを」


 ヴィクトリアが預けていた俺の装備を渡してきた。


 これはありがたい。

 ヴィクトリアもたまには気が利くことをするじゃないか。

 俺は急いで武装を変更する。


 ……よしできた。次は。


「それでは、国王陛下。私の仲間が陛下をお守りしますので避難してください」


 しかし、国王は俺の呼びかけに対して首を横に振る。


「何を言う。これでも余はこの国の国王である。あのような邪悪を前にして、余が真っ先に逃げる真似などできようか」


 さすが一国を治める国王だ。良い心がけだ。


「それじゃあ、エリカ。そういうことだから、俺が戦っている間、国王陛下を守ってくれ」

「畏まりました」


 エリカたちに任せておけば国王陛下は大丈夫だろう。


 となると、後は観客たちだ。


★★★


「エリカ。『拡声』の魔法をかけてくれ」

「はい」


 エリカに『拡声』の魔をかけてもらった俺は、観客席にいるフォックスたちに声をかける。


「フォックスさんたち、俺がこいつを押さえておきますので、そっちは観客たちを非難させてください」


 俺の呼びかけにフォックスたちが手を振って応えるのが見えた。

 フォックスたちは俺の依頼を受けると、すぐさま分散して避難誘導を始める。さすがは一流の冒険者たちである。

行動が早くて助かる。


 それを見届けた俺は観客にも呼び掛ける。


「観客の皆さん。今から悪魔との戦いが始まります。ここは危険ですのですぐに避難してください。ただし、慌てず落ち着いて。みなさんの安全は今手配した一流の冒険者チームが引き受けますから、安心して避難してください」


 ちょうど『悪魔出現』という異常事態を観客が理解し始めて、場内がパニックになり始めていたので、俺の指示は的確だったらしい。

 腕に自信のある冒険者チームが総出で観客の避難誘導を始めたので、観客たちも我先に逃げ出すということもなく整然と避難している。


 うん、フォックスたちに頼んでよかった。

 さて、準備も済んだし、奴を始末しに行くか。


「ホルストさん」


 と、ここでヴィクトリアが俺に声をかけてくる。


「ホルストさん、ああ見えてもあいつは強力な悪魔ですよ。ワタクシの力はいりませんか?」

「ああ、頼む」


 うん、ここは神意召喚を使うべきか。

 そう返事をした俺は手を差し出した。

 ヴィクトリアがいつものように手を握って神意召喚を使ってくると思ったからだ。


 だが、俺の予想に反して。


「えい」


 俺の腕にしがみついてきた。

 これには俺も思わずドキッとした。

 焦ってしどろもどろに言う。


「お前、何を……」

「こっちのほうが神意召喚の成功率が高いことが最近判明したんです。だから、これからはこれで行きます」


 最近て、いつのことだよ。お前、最近神意召喚なんか使ってないじゃないか。

 そうツッコもうとしたがやめておいた。

 反論の根拠がないからだ。


 そもそも、神意召喚の使い方はいまだ不明だ。とりあえずピンチの時にしか使えないことは間違いなさそうだが、他の条件はよくわからない。

 だから、ヴィクトリアにうまく反論するだけの理由がないのだった。


「わかった。お前の好きにしろ」

「はい、そうさせてもらいます」


 ヴィクトリアは目を閉じると、ぶつぶつと何かつぶやいた。

 すると俺の体が一瞬光る。


『シンイショウカンプログラムヲキドウシマス』


 そして、いつもの声が聞こえ、神意召喚が発動する。


「それでは行ってくる」


 準備を終えた俺は、グレートデビルとの戦いに赴くのだった。


★★★


 まず俺は自分の魔法リストを確認する。


『神属性魔法』

『神強化+2』

『天火+2』

『天凍+2』

『天雷+2』

『天爆+2』

『天土+2』

『天風+2』

『重力操作+2』

『魔法合成+1』

『地脈操作+1』

『空間操作+1』


 頑張って練習した甲斐があったのか、『天風』と『重力操作』の熟練度が上がっている。

 俺は思わずニンマリする。

 これで一つ戦術の幅が広がった。


 魔法のリストを確認した俺は周囲を確認する。

 観客席を見ると、すでに観客の半分以上がすでに退避を完了していた。

 さすがフォックスたちだ。こういうちょっと変わった以来でもそつなくこなしてくれる。


 最後に後ろを確認すると。


「『魔法障壁』」

「『防御結界』」


 エリカとヴィクトリアが魔法で防御を固めていた。

 さらに。


「『光の矢』」

「『精霊召喚 炎の精霊』」


 エリカとヴィクトリアが覚えたての魔法で敵が攻撃してきた時に備えている。


 『光の矢』はエリカが最近覚えた魔法で、『魔法使いの記憶』の中にあった魔法だ。

 光の矢で相手を攻撃する魔法だ。アンデッドや悪魔に有効なので今回使用したのだろう。

 また、この魔法は出現させたまま待機させることもできるので、不測の事態への備えにもばっちりなのだ。


 『精霊召喚』はヴィクトリアが覚えた魔法で、『僧侶の記憶』の中にあった魔法だ。

 文字通り精霊を呼び出す魔法で、複数の種類の精霊を呼び出すことができるが、今回は炎の精霊を呼び出し敵の攻撃に備えているようだった。


「よし、大丈夫そうだな」


 周囲の状況を確認した俺はグレートデビルの上空に到達する。

 上空からグレートデビルの様子を確認すると、奴はちょうど奇襲のダメージから回復し、立ち上がったところだった。


「ぐおおお」


 奴は俺の姿を確認するとそうやって威嚇してきた。


「ふん、かかってこい」


 それに対して、俺も手をひらひら振って挑発してやる。

 さあ、いよいよグレートデビルとの決戦が始まる。

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