第89話~エラール山脈の覇者を求めて~
大規模訓練所の1期生の訓練が終了して数日後。
俺とヴィクトリアとリネットの3人は、北部砦のさらに北にあるエラール山脈にやってきた。
もちろん、フォックスに聞いたこの地に棲むという凶悪なレジェンドドラゴンを討伐するためだ。
「エリカちゃんに嘘ついて来ちゃったけど、大丈夫なのかい?」
「多分……大丈夫だと思う」
「うわー、滅茶苦茶大丈夫でなさそうな喋り方ですね。今回、一応、ワタクシたちも手伝いますけど、エリカさんが怒った時は一人で怒られてくださいね」
今回はレジェンドドラゴンの討伐が主任務なわけだが、討伐してもエリカに怒られる可能性が大いにあった。
なぜなら、今回、エリカに嘘をついて出て来たからだ。
「ギルドから緊急依頼が入ったから、数日帰ってこないよ」
本当は緊急依頼など入っていないにもかかわらず、嘘をついて出てきたのだ。
理由は、3人でレジェンドドラゴンを討伐するとなると、さすがに危険だから、エリカが反対すると思ったからだ。
それでも、俺がレジェンドドラゴンを討伐したいと思ったのは、レジェンドドラゴンの角や骨で作ったお守りを持つ子は元気に育つという言い伝えを聞いたからだ。
俺は出産に関してエリカにも子供にも何もしてやれない。
俺にはそれが歯がゆくて堪らない。
だからせめてもの気持ちとして、レジェンドドラゴンを討伐してそれでお守りを作って、子供に送ってやろうとしたわけだ。
ただ、俺の目標はそれだけでない。
「どうせなら、レジェンドドラゴンの頭のはく製を作って家にでも飾っておくか」
だって、そっちの方が生まれてきた子供に、お父さんお前のためにこれを倒したんだよと自慢できるからだ。
「そんなことしたら、エリカさん、絶対怒ると思いますよ」
ヴィクトリアが俺の考えに疑問を呈するが、俺の考えは揺るがない。
「そんなことはない。エリカだって子供のためなら、絶対喜ぶはずさ」
「そうでしょうか」
多分……大丈夫だ。一抹の不安を覚えながらも俺は自分の考えを押し通すことにした。
★★★
「今日はここでキャンプを張る」
今日はエラール山脈の山中でキャンプをすることにする。
「行くぞ!『天土』」
俺は魔法を使って固い岩を成形し、地面を平らにする。
さらに。
「『天風』」
最近覚えた魔法で、キャンプ地周辺の地理を吹き飛ばしきれいにする。
『天風』は風を操る魔法で、このように風を吹かせたり、エリカの『風刃』のように真空の刃を作り出すこともできる。
ちなみに今の俺の魔法リストはこんな感じだ。
『神属性魔法』
『神強化+1』
『天火+1』
『天凍+1』
『天雷+1』
『天爆+1』
『天土+1』
『天風』
『重力操作』
『魔法合成』
『地脈操作』
『空間操作』
希望の遺跡から帰って半年以上が経った。
あれから頑張って練習して、『天土』の熟練度が+1になり、『天風』の魔法も覚えた。
ただ、一つもプラス2にはなっていない。どうやら熟練度を2にするのhかなり難しいようだ。
それに『魔法合成』もあれから使えていない。
ヴィクトリアによると。
「『魔法合成』は使用条件が厳しいみたいですよ。多分、+2同士じゃないと使えないみたいです」
とのことなので、今のところは熟練度の上昇待ちというところだ。
あと、『重力操作』と『空間操作』も積極的に使っている割には熟練度が上がらない。
どうもこれらは俺には原理の理解が難しい力を使っているので、俺にはなかなか熟練度を上げにくいらしかった。
さて、整地した後はテントを張る。
「ヴィクトリア、テントを張る時はもっとしっかり杭を打ち込めよ。風で飛ばされないようにな」
「ラジャーです」
「リネットはもうちょっとそっちを持っていてくれ。その方がテントを張りやすいから」
「了解だ」
こうやって3人で協力すると、あっという間にテントを張ることができた。
「さて、ではまずは」
テントの中に入った俺はまず夜に備えてランタンに明かりをつける。
普通なら炎の魔法を使って明かりを灯すのだが、俺は最近これを特殊なやり方でやっている。
「『重力操作』」
何と『重力操作』の魔法を使って火をつけているのだ。
何でも重力には光を曲げてしまう力があり、これを重力レンズというらしい、これで光を集め、火を起こしているのだ。
これが中々難しく、最初は全然できなかったが、今はこの通り。
ポッ。
簡単に火をつけられるようになった。
ちなみにこのやり方はヴィクトリアに聞いた。
「えへへ、たまにはワタクシもいいことを言うと思いませんか」
あいつはそういう風に自慢していた。
まあ、確かにヴィクトリアはこういう雑学が豊富だ。その点は認めてやらねばなるまい。
実際、これは『重力操作』の練習にもなっていて、ありがたいしね。
明かりを確保した後は、食事の支度だ。
ヴィクトリアとリネットが食事の準備を始める。
材料を切り、携帯用の魔道コンロを出し、火をつけ調理する。
「今日は温かいスープを作りますからね」
「熱々のステーキも焼くから期待してくれ」
どうやら今日のメニューは暖かい料理のようだ。
もう春だというのに、テントの外は冬のように寒い。
だから、温かい食事は素直に嬉しかった。
「「召し上がれ」」
食事ができたので、二人が俺に差し出してきた。
「どれ、どれ」
早速口にする。
「このスープ、美味いじゃないか」
ヴィクトリアの作ったスープはちょっと辛口だったが、外が寒いせいでこのくらいの辛さの方が体が温まっていいとは思う。
「お前、料理が上手くなったな」
「えへへ、ありがとうございます」
俺が褒めると、ヴィクトリアはうれしそうに微笑んだ。
「リネットの焼いたステーキもうまいな」
リネットの焼いたステーキもおいしかった。
調味料の使い方が上手になったせいか味にムラがなく、肉の焼け方も均等だ。
ステーキはシンプルな料理だけにちょっとの差で味に差が出る。
だから、リネットの料理の腕もかなり上がっていると言える。
「本当かい?」
「ええ、とってもおいしいですよ」
「よかった。気に入ってもらえて」
リネットも褒められてうれしいようだ。
すごくいい笑顔になる。
そんな二人の笑顔を見ていると俺までほっこりしてくる気がする。
こうして、楽しい食事の時間は過ぎていくのであった。
★★★
食事が終わると、さっさと寝た。
寒い山中で起きていると、暖かいテントの中とはいえ、体力を消耗するからだ。
俺を中心に右にリネット、左にヴィクトリアと並んで寝る。
「おやすみ」
「「おやすみなさい」」
お休みの挨拶をすると、ゴロンと横になる。
寒い上に山道を歩いて疲れていることもあり、すぐに寝られるかと思いきや。
あれ、なんかドキドキして寝られない。
その原因はもちろん隣で寝ているヴィクトリアとリネットだ。
なんかものすごくくっついてきている気がする。
「おい、近すぎて眠りにくくないか」
「「寒いので、身を寄せ合った方が暖をとれるので、問題ありません」」
一応、近いんじゃないかと言ってはみたが、二人にはそう返されてしまった。
仕方ないので、このままの態勢で行くことにする。
そう言えばと、ふと気が付く。
こういう態勢で寝るのって初めてではないかと。
大体、今までパーティーで寝るときは俺とヴィクトリア・リネットの間にはエリカがいた。
だが、今はいない。
二人との間の壁がなくなったのだ。
しかも二人は俺にぴったり寄り添うように寝ている。
これは堪らない。二人から女の子のいい香りが漂ってきて俺の心を揺さぶる。
二人に対し欲情が湧き出てきて、気が狂いそうになる。
そう言えば、この前の生誕祭の時とか、最近この二人って妙に俺にべたべたしてくるような気がする。
もしかして俺に気があったりして。なんて思えたりする。
いやいや。この二人が俺にそんな気を起こすなんて考えられない。
この二人はいいパーティー仲間じゃないか。それだけの関係のはずだ。
でも、万が一ということもある。もし、そうなら。もういっそ思い切って……。
そこで、エリカの顔が浮かぶ。
いや、やはり、そういう考えはいけない。二人に手を出したらエリカに殺されてしまう。
俺は布団の中でエリカの顔を思い浮かべながら、必死で己を抑えるのだった。
結局この日はよく眠れず、少しうとうとしただけで、気がついたら朝になっていた。
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