第90話~レジェンドドラゴンの巣~

翌朝。


 テントを片付けた俺たちはドラゴン狩りへと出発した。

 寝不足でちょっと眠いがこのくらいなら問題なかった。


 3人で山中を歩いて行く。

 エラール山脈は北部砦の北にあるので寒く、まだ雪が所々に残っていた。

 その残雪の間を俺たちは縫うように進んで行く。


「お、ドラゴンだ」


 しばらく歩いているとドラゴンの群れを発見した。


「ひい、ふう、みい……3匹か」


 ドラゴンは全部で3匹いた。

 ちょうど食事中だったようで、大きな熊を3匹で争うように食っていた。


「うわあ、グロテスクですね」


 ヴィクトリアがその光景を見て思わず口を押える。

 確かにこの光景は気味が悪い。


 だが、この状況はチャンスでもある。


「確認するが、あれはレジェンドドラゴンではないな」

「違うだろうね。レジェンドドラゴンには大きくて立派な翼と、頭に4本の角があるらしいから、外見的な特徴がまるで一致しないね」

「だったら、向こうは隙だらけだし、遠慮なく狩って売り払うとするか」


 以前にも何度か売ったことがあるがドラゴンは人気商品だ。

 肉は非常においしくて高級食材として高値で取引されるし、牙や皮や骨は武器や防具の材料として重宝される。

 現に、ドラゴンの角で作られた魔法の杖は魔法使いの間で人気だし、ドラゴンの皮を何枚も重ねて作ったドラゴンメイルは鉄の鎧よりも頑丈で、屈強な戦士たちの間で大人気で、王国の重装甲兵団の上級兵士の標準装備だったりする。


 しかし、ドラゴンは強くて狩るのが難しい。

 毎年、幾人もの冒険者が返り討ちにあって命を落としている。

 だが、だからこそ、より希少性があるのだ。

 故に狩れる機会があるのなら積極的に狩って、お金にしておきたいところだ。

 これから子供も生まれることだし、お金はいくらでも必要だろうからね。


「俺が2、リネットが1でいいか」

「ああ、それでいいよ」

「それじゃあ、空中から一気に攻撃を仕掛けますよ」

「了解だ」

「後、ヴィクトリアは万が一に備えてリネットに『光の加護』の魔法を使ってブレス耐性を付与してくれ」

「ラジャーです」

「よし、作戦開始だ」


 作戦が決まるとすぐに行動に移した。


「『光の加護』」


 まず、ヴィクトリアにリネットに魔法をかけてもらう。


「『重力操作』」


 そして、リネットとともに空中に飛ぶと、風下からドラゴンたちに接近する。


「ふ、のんきなものだ」


 背後を取られているにもかかわらず、ドラゴンたちは俺たちの接近に全く気が付いておらず、相変わらず食事を続けている。


「それじゃ、リネット行くぞ!」

「おお」


 俺たちは一気に上空から降下する。


 ドス。ザン。

 上空から奇襲攻撃を仕掛けた俺たちは一気にドラゴンの首を切り飛ばす。

 あっという間に2体のドラゴンの首が胴体と離れ離れになる。


 さすがオリハルコン製の武器。ドラゴンと言えどもたやすく倒せてしまった。

 多分、殺されたドラゴンは自分たちが死んだことさえも気が付いていないのだろう。

 切られた後も目をキョロキョロさせ困惑した表情をしている。

 まあ、それも束の間のことで、すぐに動かなくなったが。


 残る1体のドラゴンも何が起こったかわからず、固まってしまっている。


「おらあ」


 そこへリネットが盾を使ってドラゴンの頭を殴りつける。

 ゴンとでかい音がしたかと思うと、ドラゴンは目を回して気絶してしまった。

 さすがのドラゴンと言えど、頭を思い切り打つと気絶するらしかった。


「抵抗できないのを攻撃するのは気が引けるが、起きられても面倒だから、死んでもらおうか」


 動けなくなったドラゴンの脳天へ,俺が愛剣クリーガでとどめの一撃を入れると、ドラゴンは死んだ。


「よし、それじゃあ、ヴィクトリア、回収しろ」

「ラジャーです」


 後はヴィクトリアにドラゴンを回収させて、俺たちは再び山中を進み始めるのだった。


★★★


「しかし、いないよね」


 ドラゴンを倒した後3時間ほど山中をさまよったが、レジェンドドラゴンは見つからなかった。

 まあ、そこら辺をホイホイうろついているとも限らないし、見つからないのは当然の結果である。


「でも、このまま当てもなく探すというのもなあ」


 このまま探し回ってもレジェンドドラゴンが見つかる可能性は低い。

 さて、どうしようかと考えていると。


「ホルストさん、こういう時こそあれですよ」

「あれ?」

「そうです。あれです」

「あれって何のことだい?ヴィクトリアちゃん」

「狐さんですよ。狐さん」

「「あ」」


 そうか。その手があったか。

 お前時々いいこと思いつくな。


 さて、方針も決まったことだし、早速狐を呼び出すことにするか。


★★★


「手前はこの辺りの狐の長で青と申します」


 狐たちに声をかけると30分ほどで集まってきた。

 ここの狐は大所帯のようで、50匹ほどが集まってきた。


「ホルストだ。よろしく頼む」


 土下座しながら挨拶してくる長に俺も自己紹介する。


「それで、本日はどういったご用件でしょうか」

「実は俺たちはレジェンドドラゴンを探している。何か知らないか」

「レジェンドドラゴンですか。もちろん、存じておりますよ」


 マジか。

 これで、探す手間が省けそうだ。

 本当、白狐から授かったこの能力は非常に役に立つ。

 白狐には本当感謝しかない。


「それで、レジェンドドラゴンはどこにいるんだ」

「このエラール山脈の中心付近に一つ大きな洞窟がありまして、そこに棲んでおります」

「ほお、そうなのか」

「はい、よければご案内できますが」

「ああ、頼むよ」

「承知いたしました。それではついてきてください」


 ということで、俺たちは狐の長について行き、レジェンドドラゴンの所へ行くことになった。


★★★


 それから1時間ほどで目的地の洞窟に着いた。


「あちらでございます」


 狐の言う方を見ると、確かに洞窟があった。


「心なしか、禍々しい感じがしますね」


 ヴィクトリアが洞窟を一目見て呟く。


「アタシもゾッとするよ。何だかやばい雰囲気がビンビン伝わってくるね」


 リネットもヴィクトリアと同意見のようだ。

 俺も二人の言うことに賛成だ。

 俺も洞窟の中に凶悪な魔物気配を感じて、さっきから緊張しっぱなしだからだ。


 ということで、ここにレジェンドドラゴンがいるので間違いないと思う。


「ありがとうな」


 俺は狐の長にお礼を言う。


「いえ、いえ。この程度大したことではございません」

「そんなことはないよ。こんな危険な場所までよく俺たちを案内してくれて、感謝しかないよ。気を付けて帰ってくれよな。そうだ、ヴィクトリア。いつものやつを出せ」

「ラジャーです」


 そうやって、ヴィクトリアに指示して出させたのは。


「稲荷ずしだ。みんなで食べてくれ」


 稲荷ずしだった。今日の狐たちはたくさんいたので2箱出した。

 俺たちは希望の遺跡以来、こうやって狐たちにお世話になった時のために常時稲荷ずしをストックしている。

 何せ、狐たちときたら稲荷ずしを見ると、目の色を変えて喜ぶからな。


 希望の遺跡にいた狐も入口の所にいた狐もそうだった。

 あ、ツッコまれる前に先に言っておくと、入り口の所の狐たちには渡しそびれていたので、後で渡しに行ったからな。


「これは、どうもありがとうございます」


 案の定、ここの長も満面の笑みで稲荷ずしを受け取るのだった。


「それでは、皆様、ごきげんよう」

「「「ありがとう」」」


 こうして俺たちは狐の長と別れた。

 さて。


「これから、どうすべきかな」


 俺は洞窟を見ながらこれからのことを考えるのであった。

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