第88話~訓練最終日~
大規模訓練場の地獄の窯もさすがに生誕祭の間は閉めていた。
さすがに神聖な祭りの間は誰も仕事をしたがらなかったからだ。
だが、生誕祭が終われば話は別だ。
生誕祭が終わると、早速地獄の訓練が再開される。
訓練期間は1か月の予定なので、残り1週間ほど。
そろそろ仕上げて、冒険者として送り出せるようにしないといけない。
だから、今日から特別なイベントを用意した。
「お前ら、休みの間に腑抜けになったりしていないだろうな?腑抜けになっているようなら、今から鍛え直してやる。覚悟しろ!」
「はい」
「よい返事だ。それと先にお前らに言っておく。今日から一週間、お前らのためにゲストを呼んでいる。このノースフォートレスの町が誇るBランク冒険者グループの皆さんだ。どうぞ」
俺の紹介と同時に何組かの冒険者グループが入ってきた。
「俺は『漆黒の戦士』のリーダーのフォックスだ。今日はホルストに頼まれて、お前たちの指導に来た。今日はよろしく頼む」
全員を代表してフォックスが挨拶をする。
今日呼んだのは、俺の知り合いの冒険者グループのやつらだ。
というのも、俺とリネットの指導だけだと内容に偏りが出ないかと危惧したからだ。
だから、第三者的な目線で新人たちの訓練の内容を見てもらおうと思って、知り合い連中に頼んで、こうして講習に出てもらったのだ。
「よし、それでは今から訓練を始める。ここに班分けを書いた紙がある。これに従って各班に分かれて冒険者の皆さんに指導を受けてくれ」
「はい」
こうして1週間の仕上げの訓練は始まった。
★★★
「おらあ、さっさと立てや!俺がモンスターだったら待ってくれてねえぞ!」
「はい」
フォックスが模擬戦で倒れた訓練生を怒鳴りつけている。
以前だったらこうやって倒された訓練生はしばらく身動きが取れなかったものだが、訓練を通じて多少タフになったのか、すぐに立ち上がるとフォックスに再び立ち向かっていく。
「よし、いい根性だ!かかって来い!」
「行きます」
カン、カン。
再び激しい模擬戦が再開される。
あのひよっこどもがここまで立派になるなんて。
俺はそれを見て胸がいっぱいになりそうだった。
思わず涙が出そうになるが、今は訓練中だ。
それにまだ訓練は一週間ほど残っている。
もっと、頑張らなければな。
俺はそう固く誓うのだった。
★★★
その日の昼はフォックスたちと飯を食った。
大規模訓練場の食堂で、訓練生たちと同じメニューを食べた。
訓練で腹が減ったのか、皆たくさん食べた。
食事が終わると、談笑する。
「この前、仕事で南のサウスブリッジタウンに行ったんだ。どうも近くにオークが集落を作ったみたいでよ。その討伐さ」
「モンスターの集落?最近そういうの多いですね」
「ああ、各地に集落や砦ができているらしいからな」
「そうなんですか」
「ああ、それでオークの集落なんだが、オークだけあって子だくさんでな。結構数がいたんだ。60匹くらいかな。3チーム10人で挑んだが、結構大変だったぜ」
からからとフォックスが笑う。
「でも、大量のオークの肉と集落に置いてあった財宝や食料、武器が手に入ったから、いい稼ぎになったぜ」
「それはよかったですね」
「ああ、本当にな」
そこまで言うと、フォックスは喋りつかれたのか、一度話を止め、お茶を飲む。
お茶を飲むとまた別の話をし始める。
こいつは案外おしゃべりな男なのだ。
「ところで、ドラゴンのよお。北のエラール山脈に最近現れたというレジェンドドラゴンの噂を聞いたか」
「レジェンドドラゴン?ですか」
「ああ、何でもエラール山脈に生息するドラゴンたちのボスで、『エラール山脈の覇者』とか、呼ばれているらしい」
「「『エラール山脈の覇者』ですか。すごい二つ名ですね。で、それが何かしたんですか」
「ああ、実はレジェンドドラゴンは長いこと姿を隠していたんだが、最近また現れてな。レジェンドドラゴンの骨や牙で作られたお守りは子供の成長を助けてくれるという言い伝えがあって、貴族連中の間では宝石よりも高く取引されていてな。それ目当てに都のSランク冒険者パーティーが討伐に出かけたんだが、命からがら逃げ帰ってきたそうだ」
俺たちと同じSランクパーティーか。
確か王都でも数組しかいなかったはずだが、それがあっさりやられるとは、もしかしてレジェンドドラゴンてすごく強いのか。
それより、今フォックスがすごく気になることを言った。
「レジェンドドラゴンのお守りが子供のお守りになるって本当ですか」
「ああ、本当だぞ」
「そうか」
これはいいことを聞いた。
そういうことなら、生まれてくる子供のためにもレジェンドドラゴンを狩ってこようと思った。
★★★
訓練も残すところ1日となった。
前衛職コースと魔法使いコースの全員を練兵場に集める。
全員が訓練当初と比べ、冒険者らしい精悍な顔つきになっている。
結構なことだと思う。
ここに全員を集めたのは、最後に全員に訓練の成果を披露してもらうためだ。
具体的には、前衛職連中にはトーナメント形式の模擬戦を、魔法職には覚えた魔法を実際に的めがけて打ってもらう予定だ。
訓練最終日というだけあって、ギルドマスターのダンパさんも様子を見に来たりしている。
ダンパさんは訓練所の創設に尽力していたから、今日この日を楽しみにしていたことだと思う。
よく見てもらわねば。節にそう思う。
「お前ら、よく今まで地獄に耐えてきた。この生き地獄を耐え抜いたお前らはもう立派に冒険者として通用すると思う。後は油断なくやれば、冒険者として十分やって行けるだろう」
俺は一度全員の顔を見回す。
「さて、それでは最後にお前らに今までの成果を披露している。今日はギルドマスターのダンパさんもいらっしゃっている。恥ずかしくないように全力を尽くせ!」
「はい」
★★★
模擬戦は順調に進み、もう決勝戦だ。
「たー」
「やー」
最後まで残ったのは、オーガスという男の剣士とメイアという女の戦士だった。
二人とも訓練生の中では筋がよく、訓練を通じて随分と成長したと思う。
「今だ」
メイアがオーガスの一瞬の隙を突いて、その剣をたたき落とす。
「それまで」
勝負が決まったので試合を止める。
「お前ら、よくやった。いい試合だったぞ」
「「ありがとうございます」」
「この調子でやれば、冒険者として十分にやっていけるぞ。だから、これからも精進を怠るなよ」
二人をほめたたえた俺は最後に全員を集合させる。
「これにて、訓練終了だ。今までいろいろ言ってきたが、最後はシンプルに言う。よく訓練に耐えた。君たちの人生に幸あらんことを!」
「教官殿!」
俺の最後の演説が終わると、生徒たちが俺やリネット、フォックスたちに近寄ってもみくちゃにくる。
皆、涙を流している。
苦しい訓練をやり遂げ、嬉しいのだろうし、充実感もあるのだろう。
とても尊い涙だ。
「先生、ありがとうございます」
見ると、エリカたちの生徒たちも涙を流してエリカやヴィクトリアにしがみついている。
「みなさん、よく頑張りましたね」
「すごく魔法上手になりましたね」
それにつられてエリカとヴィクトリアも涙を流している。
それを見ていると、俺も何だか物悲しくなってきた。
「お前らあ、元気でやれよお」
最後は俺も涙を流しながらそう叫ぶのだった。
これにて、第1期生の訓練は無事終了した。
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