閑話休題11~淑女協定改定~

これはホルストたちが『希望の遺跡』から帰ってきてすぐの頃の話だ。


「それでは、これから淑女会の定例会合を始めます」


 ノースフォートレスの町のとあるカフェに、エリカ、ヴィクトリア、リネットの3人が集結していた。

 このカフェは最近ノースフォートレスの女性たちの間で話題になっているカフェで、イチゴパフェがとてもおいしいと評判で、それを求めて大勢の女性が集まってきていた。

イチゴパフェを3つください」


 当然のように3人もイチゴパフェを頼む。

 そして、待っている間に話し合いを始める。


「エリカさん、妊娠おめでとうございます」

「エリカちゃん、おめでとう」


 まず、エリカの妊娠の話題から入る。

 ヴィクトリアもリネットもエリカがずっと子供を欲しがっていたことを知っているので、エリカの妊娠を自分のことのように喜んでいた。


「みなさん、ありがとうございます」


 エリカも感極まったのか涙ぐんでいる。

 それを見て余程うれしいのだろうと二人は思った。


「頑張って産みますので協力してくださいね」

「「はい」」


 そんなことは言われるまでもないと思ったが、二人はエリカに協力することを誓うのだった。


「まあ、私の妊娠の話はこれくらいにして、本題に入りましょうか」


 前置きが終わったので、いよいよ、話が本題に入る。


「アリスタ様に立派な後継ぎが生まれると太鼓判を押してもらったことだし、本来なら、あなたたちにも旦那様との子作りを許可してもよいのですが、もう少し待ってもらっても構わないですよね?理由は言わなくてもわかるでしょう」

「はい、何せおばあ様に面倒ごとを押し付けられてしまいましたからね」

「だね。そちらを先に片付けないと、おちおち子供なんて産んでいられないしね」


 二人の発言を聞いてエリカがうんうん頷く。


「その通りです。私たちは古代神の復活阻止という使命を受けてしまいました。だから、その使命を何としてもやり遂げなければなりません。ただ、そうなるとどうしてもあなた方が子供を産むのが先になっています。それなのに、ワタシだけ先に子供を産んですみません」


 エリカはぺこりと頭を下げた。


「いや、謝る必要はないよ。アリスタ様の依頼を受けた時にはエリカちゃんはもう身ごもっていたんだから」

「そうですよ。ワタクシたちのことはお気になさらず、今は元気な子供を産むことだけを考えてください」

「みなさんありがとうございます」


 二人の温かい言葉を受けて、エリカはもう一度頭を下げる。


「それで、お詫びと言っては何ですが、お二方が旦那様にアタックするのをもっとバックアップしたいと思います」

「バックアップ……ですか」


 ヴィクトリアがため息混じりに言う。


「だって、うちの旦那様、お二人が結構頑張ってアピールしているのに、全然気持ちに気が付いていないではないですか。あまり、旦那様の悪口は言いたくないですが、さすがにちょっと鈍いと思います」

「そうだな。確かにホルスト君はアタシたちの気持ちに鈍すぎる」

「本当です。ホルストさん、鈍すぎです。どうして、こんなのでしょうか」

「まあ、旦那様は、人生で、私以外の女性に言い寄られたことがないと言ってましたし、友達とかもいなかったので、人の気持ちに疎い部分があるのです。だから、お二人の気持ちにもなかなか気が付かないのだと思います。だから、ここは一つ手を打ちましょう」

「どんな手ですか」

「毎年、春にクリント様の生誕祭があるでしょう?」

「おじい様の?生誕祭ですか」

「ああ、確かに毎年やっているね」


 クリント生誕祭とは、文字通りヴィクトリアの祖父で主神であるクリントの生誕を祝うお祭りである。

 主神の生誕を祝うお祭りだけあって毎年盛大に行われている。

 何せ、前夜祭、本祭、後夜祭と3日ほどかけて行われているのだ。

 それはここノースフォートレスも例外ではなく、祭りの間は近隣の町や村からも人々が集まって来て、それは賑やかだった。


「俗に、クリント様の生誕祭の時に育まれた男女の愛は実ると言います」

「「!」」

「その時に、私がアシストしますから、二人は旦那様に猛プッシュしなさい。ここが正念場ですよ」

「「はい」」

「ただし、旦那様がいきなり手を出してくれるとかまでは考えないこと。旦那様は真面目で手順は守る方なのです。私の時も結婚するまで手は出してきませんでしたしね。まあ、だから、今回、あなたたちも頑張って、自分のことをパーティーメンバーではなく、女性として意識させるようにするのですよ」

「はい、頑張ります」

「うん、やってみる」

「よろしい。では……」

「失礼します。ご注文のイチゴパフェをお持ちしました」


 と、ここで店員が注文したイチゴパフェを持ってきたので話が中断した。


「まあ、今日の所は堅苦しい話はこのくらいにしておきましょう。まだ生誕祭まで時間があることですし。さあ、折角なのでパフェを食べましょう」

「「はい」」


★★★


 3人はその後パフェを食べながら、たわいもないひと時を過ごした。


「エリカさんは、その、怖くなかったんですか」

「怖い?なにがですか」

「髪の毛ですよ。あんなに長かった髪をいきなりバッサリ短くするのって、ワタクシなら、怖くて堪らないと思うんです。だから、エリカさん、勇気があるなって」

「確かに、旦那様に最初にはさみを入れられたときはちょっとだけゾッとしましたが、これも旦那様のためだと思うと我慢できましたよ。まあ、ゾッとしたのはその時だけで、次に美容院で短くしてもらった時には大した感慨も沸きませんでしたね」


 エリカは本当に平気そうな顔で言う。


「そうなんですか」

「ええ。まあ、耳のすぐ横で髪の毛が切られる音がしたり、耳にはさみが当たる感触を味わったり、耳に毛先や空気が触れるのを感じたりというのは、初めて経験したので、新鮮な感じがしましたが、終わったらこんなものかと思いましたね」


 エリカは自分の短くなった髪を触りながら言う。


「でも、もうちょっと長いまま残すこともできたのに、もったいなくはなかったですか」

「別に。というか、本当は私はもっと短く、ベリーショートにしたかったのですよ。ですが、旦那様に止められたので、この髪型にしたのです」

「ベリーショート!そんなに」

「まあ、子供が生まれたら忙しくて髪の毛に構っていられませんからね。その覚悟を示すためにも短くしようと思ったのですが、ロングヘア好きの旦那様に止められてしまいました。エリカは長い方が可愛いって。また長くしてくれよって。だから、旦那様の我儘を聞いて、今後は旦那様のお気に召すように少し伸ばそうと思います」

「ホルストさんて意外と我儘なところがあるんですね」


 エリカがクスクスと笑う。


「だから、今度仕返ししてやろうと思います」

「仕返しかい?なにをするんだい?」

「ほら、次の子を産むときは3人一緒にとか言ってたでしょう?その時に旦那様には内緒で3人一斉に髪の毛を短くして、旦那様を驚かしてやりませんか」

「短くって……ベリーショートにするんですか」

「いいえ。そんなことしたら旦那様が失神しちゃいます。だから、今の私くらいの長さで十分だと思いますよ」

「それはいいですね。そのくらいの長さで構わないのなら、賛成ですね。ワタクシもホルストさんの驚く顔を見てみたいです」

「アタシもホルスト君はあまりわがままを言うべきではないと思う」

「では、決まりですね」


 3人のこのようなおしゃべりは夕方、食事時になるまで続くのであった。

 こうして、ノースフォートレスの町での一日は過ぎていく。

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