第64話~真の入り口、ガーゴイル戦~

「ここは、ダンジョンの外でしょうか」


 エリカのつぶやきで俺は現実に引き戻される。


 気が付くと、俺たちはダンジョンの外?にいた。

 青い空がどこまでも広がっているのが見え、草原には秋の草花が生い茂っている。


 だが、何か変な気もする。


「見てください、ホルストさん。ダンジョンが、ダンジョンが……」


 いち早く異常に気が付いたのはヴィクトリアだった。

 ダンジョンを指さし何か言っている。


 俺もダンジョンを見た。


「なんか白くなっているな」


 魔力を帯びて青く輝いていたはずのダンジョンが、大理石本来の色、白色に戻っていた。

 奇怪な話だが、これでよくわかった。


「つまり、ここが真の入り口というわけか」


 俺は剣を構え気合を入れ直す。

 女性陣も俺の言葉を聞いて分かったのだろう。各々武器を構える。


「さあ、行くぞ」


 俺たちは、いざ真のダンジョンへ入ろうとした。

 その時。


★★★


 その時、ダンジョンの入り口横に置かれてあるガーゴイル像の目が怪しく光った。


「旦那様!」

「ああ」


 いち早くガーゴイル像の異変に気が付いたエリカが声をかけると、全員が一斉に身構える。


 それと同時にガーゴイル像が動き出す。

 ゆっくりと立ち上がり、まるで自分の動作を確かめるかのように体を少しずつ動かしていく。


「グルル」


 最後に360度、首を1回転させると背中の翼を大きく広げる。

 そして大きく翼をはためかせ、台座から飛び立つと、ゆっくりとこちらへ迫ってくる。


「『天火』」


 開始早々魔法を1発ぶっ放す。

 ゴオオオオ。

 グレンの豪華がガーゴイルを包む。


「効いてない?」


 だが『天火』の魔法はガーゴイルに効果はなく、ガーゴイルは炎の中を悠々と進んで来る。


「旦那様、ガーゴイルには魔法攻撃は効果がありませんよ。それどころか逆に魔法を吸収してしまいます」

「マジか」

「ええ。物理攻撃しか基本効果がないです。魔法で効果があるのはこういうのだけです」


 エリカはそう言うと杖を構える。


「『石槍』」


 エリカが魔法を唱えると、石の槍が出現し、ガーゴイルに襲い掛かる。

 ガーゴイルに通じる魔法。それはこのようにほかの物質を生成し、それを相手にぶつけるという類の魔法で合った。


  ドッカーン。

 石の槍が派手な音を立ててガーゴイルにぶつかる。ぶつかった石の槍が粉々になる。


「これでは、ダメですか」


 だが石の槍をぶつけたくらいではあまりガーゴイルにダメージは与えられなかったようだ。

 わずかに表面に傷がついただけの様である。


「では、これならばどうですか。『金剛槍』」


 エリカが魔法を唱えると、今度は金剛石の槍が出現する。

 金剛石、すなわちダイヤだ。オリハルコンやアダマンタイトほどではないが固い鉱石だ。

 光輝いてきれいなので宝石とされて珍重されたりもするが、この魔法で作った金剛石は時間経過で消えてしまうのでその用途には使えない。あくまで攻撃用の魔法なのだ。


 スパッ。

 今度の魔法は先程のより効果があった。


 ガーゴイルの肩を貫き、根元から右腕を切り飛ばす。

 腕を切り飛ばされたガーゴイルが驚き、思わず自分の切り飛ばされた腕を見つめている。


「やったか」


 俺たちはダメージを与えられたことに喜んだ。

 だが、それも束の間。


「シャアアア」


 ガーゴイルは自分の切り飛ばされた腕を拾うと自分の肩口まで持って行く。

 すると、ボワボワという奇妙な音とともに腕が元通りくっついてしまった。


「なんてことだ。奴は不死身なのか?」

「申し訳ありません、旦那様」


 俺がガーゴイルが復活する様に愕然としていると、エリカがなぜか沈痛な面持ちで謝ってきた。


「私、失念しておりました。ガーゴイルとかゴーレムとか魔力で動く人工的な魔物には核コアがあり、それを破壊しない限り動きを止めることはありません」

「核?それって、リッチの時みたいなやつか」

「はい、そうです」

「ということは、魔力感知で?」

「はい、魔力感知で場所の特定ができます。実はもう調べました。左胸の所。人間で言うと、心臓の部分にあります」


 なるほど。俺はガーゴイルを見た。


 さっきまで隙だらけだったガーゴイルは今度は左腕を構え核の辺りを防御している。

 さらに防御魔法を使ったのだろう。ガーゴイルの体を淡い光が包んでいる。


 多分、先程エリカの一撃を受けて俺たちに自分を破壊する力があるのを悟られたのだと思う。

 これで、だいぶ倒しにくくなった。


 エリカがさっき謝ったのは、自分の軽率な攻撃が相手を警戒させてしまったことを謝ったのだ。


「エリカ、気にするな。俺たちはパーティーだ。一人が失敗してもみんなで取り返せばいい。一緒にこいつを倒そう」


 俺の言葉にヴィクトリアとリネットさんも頷く。


「はい、みなさん、ありがとうございます」


 エリカはぺこりと頭を下げた。いつの間にか沈痛だった顔が笑顔になっている。


 そうだ。それでいい。

 俺たちはパーティーだ。辛いことも楽しいことも一緒に味わうべきだ。


「よし、行くぞ」


 俺たちは再びガーゴイルと向かい合った。


★★★


「『神強化』」


 とりあえず強化魔法をかけた。

 自分の体と防具にかけた。武器には使っていない。


 ガーゴイルは魔法を吸収するということなので、武器への使用を控えたのだった。


「『防御強化』、『筋力強化』、『敏捷強化』」


 俺の後ろではエリカが防御魔法と肉体強化魔法をかけている。

 もちろん、俺同様、武器に属性を付与したりはしない。


 さて、こちらの準備が整ったので戦闘再開だ。


 ガーゴイルの方も先程エリカが与えた傷が癒えたようで準備万端なようだ。


「グオオオオ」


 雄たけびまで上げこちらを威嚇してくる。


「行くぞ!」


 俺たちは突撃を敢行する。

 先頭に立つのは俺とリネットさんだ。


 エリカとヴィクトリアには支援と回復に回ってもらう。

 エリカには余裕があれば、『石槍』か『金剛槍』の魔法も使ってもらうことにする。


「うおおおお」


 まず俺が一気に距離を詰める。

 ガーゴイルに十分近づいたところで力いっぱい剣を振り下ろす。


 ガチン。


 金属が固いものに当たった時の音がする。どうやらガーゴイルに攻撃を受け止められてしまったようだ。

 だが、俺たちの攻撃はこれで終わりではない。


「とりゃあああ」


 今度は時間差でリネットさんが攻撃を仕掛ける。

 ミスリル製の両手斧による強烈な一撃だ。


 グサッ。

 切断とまではいかなかったが、斧がガーゴイルの腕に半分ほど食い込む。


 いい一撃だった。これでガーゴイルに大きな隙が生まれた。

 俺はすかさずガーゴイルの背中に回り込む。


 そして剣を一閃する。

 スパッと、ガーゴイルの片翼が切断される。


 片翼を切り落とされたガーゴイルは大きくバランスを崩す。


「今だ!『重力操作』」


 俺は残ったガーゴイルの片翼を掴むと一気に上空へと飛び上がる。


「あばよ」


 そして、掴んでいたガーゴイルの翼を離すと、思い切り地面へ蹴り飛ばす。


 ビューンと、ガーゴイルはすさまじい勢いで地面へと突っ込んで行き、最後はドゴンという大きな音とともに地面に激突する。


 衝突の衝撃で大ダメージを負ったのだろう。ガーゴイルがほとんど動かなくなる。


「リネットさん、今です」

「おうよ」


 倒れたガーゴイルの核へ向けてリネットさんが思い切り大斧を振り下ろす。


 パリン。

 ガラスが割れるような音とともに大斧がガーゴイルの装甲を破壊し、核に食い込む。


「エリカ!『金剛槍』を俺に」

「はい。旦那様。『金剛槍』」


 エリカが魔法を唱えると、金剛槍が俺の目の前に出現する。

 俺はそれを手に取り、上空から一気にガーゴイルの核めがけて突撃する。


 パリリン。

 リネットさんのおかげで壊れかけていた核が完全に崩壊する。


「ぐもも」


 短い悲鳴を残してガーゴイルは活動を停止させた。

 俺たちの完全勝利だった。


★★★


「それでは、入るぞ」

「「「えい、えい、おー」」」


 俺の掛け声に女性陣が応えてくれる。


 ガーゴイルを倒した後小休止を取った俺たちは、いよいよ『希望の遺跡・真の入り口』へ乗り込むことにした。


「これから先、何が俺たちを待ち構えているか不明だ。みんな、気合を入れ直せ!」

「「「はい」」」


 こうして気合を入れ直した俺たちは再びダンジョンは挑むのだった。

 まだ、ダンジョン攻略までの道のりは長い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る