第65話~希望の遺跡、裏1階層~

 希望の遺跡、真の入り口から入った第1階層。

 まあ、いちいち回りくどい言い方をするのも面倒だから、裏1階層と呼ぶことにしようと思う。


 その裏1階層は表の6階層と同じような遺跡エリアだった。


 ただ、表の6階層と異なるのは。


「あれは、レイスではないですか」


 ここがアンデッドモンスターの巣であることだ。


 エリカの言葉通り、遺跡に入ってしばらくすると、いきなりレイスの集団が襲ってきた。

 レイスはかつて魔法使いだった者が、死後魂だけの存在となり、魔物化した存在だと言われている。

 ゴーストの上位種で強力な魔法を使ってくる厄介な奴だ。


 まあ、以前に戦ったリッチほどの魔法は使って来ないが手ごわいことに変わりない。


「ふふふ、とうとうワタクシが活躍する時が来ましたね」


 レイスを目の前にしてヴィクトリアがえらく張り切っている。

 なぜなら、こいつにはあの魔法があるからだ。


「行きますよ。『聖光』」


 そう『聖光』の魔法である。


「うぎゃあああああ」


 ヴィクトリアの放った聖なる光に照らされて、文字通り、レイスたちが断末魔の叫びを残しながら溶けて行った。


 それは見事な早業であった。

 凶悪なはずのレイスを、魔法を使う暇さえ与えず、一発で昇天させたのだからさすがと言うべきでやる。


「やるじゃないか、ヴィクトリア」


 褒めてやると、ヴィクトリアはてくてくと寄って来て、


「ありがとうございます」


と、言いながら俺にしがみついてくる。そして、顔を上げて、物欲しげな表情で俺の顔をじっと見つめてきた。


「どうしたんだ」


 俺が何事かと思ってそう聞くと。


「ワタクシって、あまり攻撃面で活躍する時って少ないじゃないですか。だから、たまに活躍した時くらいはもっと褒めて欲しいかな、と思いまして」


 ヴィクトリアの言う通り、ヴィクトリアが攻撃という点で役に立つことは少ない。

 うちのパーティーでの彼女の立ち位置は、回復・防御だからだ。


 だから、たまに活躍したときくらいほめて欲しい気持ちもわかる。

 そういえば、小さい頃、魔法ができずに落ち込んでいた俺を剣術の先生が褒めてくれた時はすごく嬉しかった。


 ならば、俺も。


 俺はヴィクトリアを褒めてやることにした。


「よし、よし、よくやった」


 そう言いながら頭を撫でてやった。


「えへへ、気持ちいいです」


 ヴィクトリアはそれで満足したようで、飼い主にお腹をさすられている犬のような顔になって喜んでいる。

 この様子を見て反応したのがいた。


「アタシもガーゴイルの時に活躍したのに褒めてもらっていない」

「ヴィクトリアさんだけでなく、みんな活躍しているはずなのに、一人だけ褒めるのはズルいと思います」


 リネットさんとエリカだ。

 二人はヴィクトリアの後ろに立つとジト目で俺のことをじっと見てきた。


 ふう。仕方ないか。


「わかった。お前たちも褒めてやるからこっちへ来い」

「「はい」」


 二人はヴィクトリアの横から俺にくっついて来た。

 俺はそんな二人の頭をゆっくりと撫でてやった。


 二人がたちまちヴィクトリアと同じような顔をする。

 なんだかなあとは思ったが、それはそれ、かわいい女の子たちとスキンシップができて嬉しかった。


★★★


 希望の遺跡・裏1階層の攻略は順調に進んだ。


「『神強化』」

「『聖属性付与』」


 グールやハイゴーストなど、比較的弱めのアンデッドモンスターは聖属性を付与した俺とリネットさんの武器で始末した。


「『聖光』」


 そして、レイスやスペクターなどの強めのアンデッドは、ヴィクトリアが『聖光』の魔法で片づけて行った。


 そのように敵を排除しながらダンジョン攻略を進めて行ったわけだが、ここでは表の6階層ではできなかったこともできた。


「旦那様、この壁の奥に空間があるようですよ」

「そうか。では、リネットさんお願いします」

「ほい、来た」


 俺の指示で、リネットさんが思い切り壁をつるはしでたたくと、ガラガラと壁が崩れ、真っ黒な空間が出現する。


 俺たちが6階層でできなかったこと。

 そう、俺たちは遺跡の隠し部屋を発見したのだった。


 発見した隠し部屋は宝の山だった。


「これはすごいです。マジックポーションにハイマジックポーションにエクストラポーションまであります。これだけのポーションがあるなんて。金額に直すといくらになるか想像もできませんね」


 特にポーション類が充実しているらしく、それを見てエリカが興奮している。

 エリカは学校の授業でポーションの作成方法なども習ったはずだから、その価値の大きさに気づき、居ても立っても居られないようだ。


「ホルストさん、こっちも見てください。魔法のアイテムですよ」

「ほほう、これはすべて魔法の武具か。素晴らしいものだな」


 一方のヴィクトリアとリネットさんはというと、その他の品々に夢中だ。

 それに、どうもここにある品々は大半が何らかのマジックアイテム、もしくは魔力を帯びた武具で、非常に価値があるようだ。

 売ればかなりの金になるが、これだけの品がもう一度手に入るかは不明だ。

 そこで、4人で相談した結果、これ等の品々は売らずに置いておくことにして、俺たちで有効活用することにする。


「さて、お宝も手に入れたし、先へ進むか」


 こうしてお宝を手に入れた俺たちは、再びダンジョンの攻略を再開するのであった。


★★★


 裏1階層の攻略も佳境に入ってきた。


 かなり階層の奥まで進んだ。


「旦那様、あそこに何かあります」


 エリカが魔法で何かを見つけた。


「魔方陣?」


 近寄ってみると、そこには地面に魔方陣が描かれていた。


「これは転移魔方陣では?」


 エリカが魔方陣を見てそう判断する。

 転移魔方陣。すなわちどこかへ移動するための魔法陣である。


「困ったな」


 この階層を抜ける手掛かりになりそうなものを見つけたのはいいが、これではどこへ行くのかわからないのでうかつに使えない。

 どうしようか悩んでいると、リネットさんが魔方陣の横に何か書かれているのを見つけた。


「これって、神代文字ってやつじゃないのかい?」

「ヴィクトリア、読め」

「えーと、『The road yo the 2nd floor』、『2階層への道』って書いています」

「よし、決まりだ」


 俺たちは早速転移魔方陣へ入ろうとした。

 すると、突然魔方陣が光り出した。


 嫌な気配を感じた俺は、女性3人を抱きかかえ、とっさに地面に伏せた。


 俺たちが伏せた瞬間、魔方陣から飛び出した何かが俺たちがいたところを通過した。

 危ない所だった。もうちょっとで命を落とすかもしれないところだった。


 俺たちは気合を入れ直すと、立ち上がり武器を構え、目の前の敵と対峙する。


★★★


「レギオンですね」


 敵を見たエリカが呟く。


 レギオンはレイスやゴーストといった実態を持たない悪霊の群体が集まって1匹のアンデッドとして活動しているものだ。

 少しばかり削っても、すぐにほかの悪霊を吸収して回復するという特性も持ち、非常に頑丈で厄介な奴だが、俺たちも実力でここまで来た身。


 それにここはまだ1階層。手間取ってはいられない。


「一気に攻めることにする。

 というか、レギオンを倒す唯一の方法が回復される前に全部削りきるというやり方なので、それに従うとする。


「『神強化』」

「『聖属性付与』」


 武器に聖属性を付与した俺とリネットさんが次々にレギオンを切り裂き、斬り飛ばした部分を消滅させていく。


「『火球』」

「『聖光』」


 エリカとヴィクトリアも弱点魔法で攻撃してレギオンを削りにかかる。

 俺たち4人の攻撃を受け、レギオンがどんどん小さくなっていく。


 無論、レギオンもただ黙っているわけではない。


「『恐慌』、『闇の波動』」


 精神異常や府のエネルギーでダメージを与える魔法で攻撃してくる。

 だが、こちらにはヴィクトリアがいる。


「『精神鎮静』、『中治癒』」


 魔法を受けてもすぐに回復してくれる。

 こうして俺たちとレギオンの総力戦が展開されたのだった。


 しかし、それも長くは続かない。


「とどめです!『聖光』」


 十分に小さくなったレギオンにヴィクトリアがとどめの『聖光』の魔法を放つ。


「ぎゃあああ」


 断末魔の悲鳴とともにレギオンが消滅する。


「やったな」

「「「はい」」」


 こうして俺たちはレギオンを倒し、裏2階層への道を切り開いたのだった。


★★★


「少し休んでから行かないか」


 リネットさんがそう提案してきた。


 確かに俺たちはレギオン戦で結構消耗した。

 この先の階層でゆっくり休めるかどうかも不明だ。

 ということで、ここで少し休んでから行くことにした。


 手近な廃墟へ行き、休む準備をする。


「おやすみなさい」


 そして、疲れていたのですぐ寝た。

 ああ、いい夢が見られるといいな。

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