第63話~希望の遺跡、10階層、宮殿エリア~

「お、でかい建物だな」


 10階層に降りると、目の前に大きな建物がドカンと構えてあった。

 9階層の階段から降りてすぐのところに門の跡があり、すぐに広い前庭、奥の建物と続いていた。


「前に見たフソウ皇国の宮殿みたいな構造ですね」


 そうここ10階層はまるで宮殿の様だった。

 建物も、外見だけ見ても、もともと豪華なものだったとわかる。

 このダンジョンの支配者がかつて暮らしていた。

 そう思えるような建物であった。


「それはともかく行くぞ」


 だが、ここが元々どんな場所だったかは俺たちには関係ない。

 俺たちはここへ『希望の遺跡・真の入り口』を求めてやってきたのだ。

 ならば、それを求めて先へ進むだけだ。


 俺たちは門を潜り抜けると前庭へと侵入した。

 前庭は広く、所々に円柱や銅像が置かれていて死角が多かった。


 俺たちはそこをエリカの探知魔法を使いながら慎重に進む。

 もちろん魔物の奇襲を警戒してのことだ。


 しかし、俺たちの予想に反して魔物の攻撃はなかった。

 それどころか、気配すらも感じられなかった。


「きっと凶悪な魔物が出てくると思っていたのに、、ちょっと拍子抜けだな」


 まあ、安全に先へ行けるのならそれに越したことはないので、遠慮なく俺たちは先へ行かせてもらう。

 そのようにして10分ほど歩くと、建物の入り口に到着した。


「では、開けるぞ」


 俺は扉に手を添え、体重をかける。

 ギギギという大きな音を立てながら、ゆっくりと扉が開いていく。


★★★


 扉を開けると、目の前には大きな階段があった。

 扉のすぐ目の前に少し広めの広間のような空間がありそれに続いて階段があるという感じだ。

 階段を上った先には通路が続いており、まだ奥がありそうな感じだ。


「とりあえず、1階から探すか」


 俺たちは階段を上がらず、大階段の横にある扉から入って、とりあえず1階を捜索することにする。


「ここは使用人の部屋とか、台所とか、そういうのが集まったスペースみたいだな」


 1階の捜索ではめぼしいものがなさそうな様子だった。

 食糧庫らしき場所を探せば、古いダンジョンなのだから当たり前なのだが、食料など無く、かつて食料が入っていたと思しき空箱しかなかったり、台所を探せばさび付いて物が切れなくなった包丁や腐ってボロボロになったまな板くらいしかなかったりした。


 それでも多少の収穫はあったりした。


「旦那様、これはいい物ですよ」


 エリカがリビングの食器棚でいい物を見つけた。


「これは古王国時代に作られたガラス製のグラスと、白磁の食器ですね」


 エリカが目を輝かせながら、嬉しそうに言う。

 俺にはこういう骨董品の価値はよくわからなかったが、エリカの顔を見るだけで何となくいい物だというのはわかった。


「そんなにすごいのか」


 俺はグラスを1本手に取ってみてみた。

 赤、青、黄色。様々な色のガラスで作られた細かい細工のグラスだった。

 確かにこれは作るのが大変そうだし、年代的なことも考慮すれば期待できそうだった。


「そうですね。1本あたり金貨10枚くらいはしますね」


 エリカがさらりと言うが、金貨10枚はすごいと思った。

 何せうちの家賃2年分近くをこれ1本売るだけで稼げるのだ。


「それはすごいな」


 金額を聞いて俺は思わず俺は顔をニンマリさせた。


 だが、俺のニンマリ顔を見たエリカは、くぎを刺すように自分の思いを主張してくる。


「言っておきますが、旦那様、このグラスは売らせませんよ」

「えっ、なんで?」

「いいグラスでお酒を飲むとお酒がおいしくなる。そう実家の父が言っていました。だから、私もこういうグラスでお酒を楽しんでみたいのです。ですから、これは私が使わせてもらいます。よろしいですね?」

「でも」


 お酒を飲むのにこれを使う?さすがにもったいないだろう。

 俺はそう言いかけたが、そんな俺にエリカは俺を睨みつけながらもう一度言う。


「よろしいですね?」

「はい」


 エリカの有無を言わせぬ迫力に俺は口答えするのを止めることにした。

 ……よく考えたら、金貨数十枚の話だ。今の俺たちにはそこまでの金額ではない。

 夫婦喧嘩してまで欲しい金ではない。ここはエリカの言う通りにしようと思う。


 そんなわけで、リビングで結構いい物を見つけたわけだが、別の部屋ではこんなものを見つけたりもした。

 それは使用人用と思われる部屋でのことだ。


「なんだ、これは」


 タンスを開けていた俺はある1冊の本を見つけた。

 まだ残っていた衣服の間に隠されるように置いてあったその本は黒い表紙で何か辞典のような感じの

本で、重要なことが書かれているような気がした。


「『バニーコレクション』?何か魔法とか、古代の英知とかが書かれた本かな」


 本を見て興味が湧いた俺は早速開いてみた。

 そして、びっくりした。


「ウサ耳に、尻尾、網タイツだと!」


 本に描かれていたのは、魔法などの堅苦しい内容ではなく、煽情的な女性の姿絵だった。


 本に描かれた女性たちは、皆、体のラインが丸わかりで体を覆う面積が少ない服を着ていて、

ウサ耳付きのヘアバンド、ポンポンとした丸い尻尾を身に着けている。

 その上で、全員が全員、いやらしい目つきで男を欲情させるようなポーズをとっていた。

 中にはアレの最中ではないかというような男女の絵もあった。


「こんなものは見てはいけない」


 俺は慌てて本から目を話そうとするが、体は正直だ。

 誘惑という巨大な感情にはあらがえず、目を血走らせながらページをめくっていく。


「なにか、面白い本でも見つけたんですか?」


 だから、後ろから近づいてくるヴィクトリアのやつに全く気が付かず、ヒョイと本を取り上げられてしまった。


「あっ」


 気が付いた時にはすべてが遅かった。


「『バニーコレクション』?」

「何か面白い物でも見つかりましたか?」

「何かあったかい?」


 おまけに、ヴィクトリアに釣られてエリカとリネットさんまで集まってきてしまった。


「「「どれ、どれ」」」


 3人が本を開く。


 開くなり3人の目つきが鋭くなり、刺すように俺のことを見つめてくる。

 これは、マズい!本当にマズい!


「こ、これは違うんだ」


 慌てて言い訳をしようとするがもう手遅れだった。


「旦那様、これは何ですか」

「ホルストさん、いやらしいです」

「これはちょっとないかなあ」


 3人が3人とも俺のことを非難してくる。


 違う!違うんだあ!俺は本の中身を知らなかったんだ。


 そう言い訳しようとするが、それよりも先に彼女たちの妄想が広がっていく。


「旦那様、この本を先程から一生懸命見ていらしたようですが、まさか私たちがこのような恰好をしているのを想像していらしたのでは?汚らわしい!」

「ホルストさん、最低です!」

「ホルスト君、さすがにこの格好はちょっとダメだよ」

「だから、違うって!そんなつもりはないよ」

「「「男なら、言い訳無用!」」」


 バシ、バシ、バシ。


 俺は3人から1発ずつ頬にビンタをもらってしまった。


「「「これは、なんですか!」」」


 その後、更に本のあったタンスを調べられ、あろうことか、本に載っていた女性と同じ服装が発見されてしまい、ますます俺は怒られることになった。


「ごめんなさい。もう二度とこんなことはしません」


 最終的に土下座して謝ったら許してもらえたが、本当最悪だった。


★★★


 1階の探索が終わると2階へ移った。


 大階段を上がり、2階へ行くと、奥の方へ通路が続いているのが確認できた。

 俺たちは通路を進むことにした。


 途中控室らしい小部屋がいくつかあったが、開けて中を見てもホコリくらいしかなさそうだったので素通りした。

 通路を置くまで進むと大きな扉があった。


 だが、ちょうつがいが壊れているようで、両開きの扉の片方が外れて、地面に転がっていた。

 俺たちはその隙間から中へと侵入する。


「ここは、謁見の間かな?」


 ここはフソウ皇国で見た謁見の間にそっくりだった。

 奥にある玉座まで十分に距離があり、大人数が入ることができるように左右が広い。

 フソウ皇国で見た謁見の間そのままだった。


「しかし、ここにもめぼしいものはないな」


 見渡す限りではここにも大したものがなさそうだった。

 残念だが仕方ない。他をあたるかと俺が考えていると、ヴィクトリアがこんなことを提案してきた。


「ホルストさん、ここは玉座の後ろを調べませんか?」

「玉座の後ろ?」

「こういう場合はそこを調べるのが定番ですよ」


 どういう定番だよ!


 そう俺は思ったが、他に当てがあるわけでもないのでそこに行ってみることにする。

 玉座まで歩き、周囲を調べてみる。


「旦那様、ここに何か書かれてますよ」

「なに?」


 すると、玉座の後ろに何か文字が彫られているのをエリカが発見した。

 さすが俺の嫁。目敏い。


 早速見てみると。


「ダメだ。全然読めない」


 知らない文字で書かれていた。


「エリカ、お前はわかるか?」

「私にも読めませんが、上級学校の授業で見た記憶があります。確か、今だ解読されていない古代文字だったと思います」

「古代文字か」


 それは俺も聞いたことがある。

 確か人間が文明を築く前に使われていた文字だとか何だかという話だ。


 しかし、困ったことになった。せっかく手掛かりを見つけたというのに、よりにもよって意味が分からないとは。

 さて、どうしようかと思っていると、ヴィクトリアが名乗り出てきた。


「はい、は~い、ワタクシ、これ読めますよ」

「本当か?」

「本当です。ここに書いてあるのは『神代文字』といって、天界で使われている文字です。なのでワタクシならばっちりです」


 『神代文字』か。そういえば一応こいつも神様だったな。だったらこういうこともあるか。

 俺は早速何が書いてあるか聞いた。


「『Show the power of god』、『神の力を示せ』と書いていますね」

「ふむ」


 『神の力』か。どういう意味だろうか。

 このメンバーの中で神と言えばヴィクトリアだが、彼女が神の力を使えばいいのだろうか。


 いや、違う。


 俺は以前リネットさんが言っていたことを思い出す。

 ここは人間が神と交信するための遺跡だと。


 ならば、力を示すのは人間でなければならないはずだ。

 と、なると。


「皆、今から俺が真の入り口を開けるから、俺から離れるな」


 3人はコクリと頷くと、俺の体をギュッと掴み、離れないように引っ付いて来た。


 それを確認した俺は『神属性魔法』を行使する。


「行くぞ。『天火』」


 俺が魔法を放つと、魔法は玉座に吸い込まれるように消えた。

 同時に部屋が光に包まれ、俺たちも光に飲み込まれる。

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