第54話~事件の顛末~
「大臣が殺されたとはどういうことでしょうか」
「うむ、それについては順を追って話して行こうか。その前にもう1杯、お茶はどうだね。お茶には気分を落ち着かせる効果がある。話は落ち着いて聞いて欲しいからな」
どうやら、大臣が殺されたと聞いて、俺は少し興奮して前のめりになっていたようだ。
皇王陛下の好意をありがたく受けることにする。
「それではお願いします」
「うむ」
皇王陛下がくれたお茶を飲むと少し気分が落ち着いた気がした。
話が再開される。
「それで、私共が皇子殿下を救出している間に何があったのでしょうか」
「我が子が殺害されようとした皆既日食の日の朝、そなたたちが送ってくれた書状が宮殿に届いたのだ。それを見た朕は大臣の捕縛を決意した。だが、さすがに大臣を捕縛するとなると、事は慎重に運ばねばならぬ。それで、準備に時間がかかってしまっての。捕縛部隊を送るが皆既日食が終わった後になってしまったのだ。それで、捕縛部隊が大臣の屋敷に踏み込んだ時には、大臣は既に……」
「殺されていた、と。そういうわけですか」
「その通りだ。心臓をナイフで一突きにされてな。しかも事件はそれで終わりではなかった」
皇王陛下の目つきが鋭くなる。
「大臣が暗殺されたことにより、宮殿内が一時的に混乱してしまったのだ。そして、その隙を突かれて奪われてしまったのだ。例の”鍵”をな」
「えっ、あれを奪われてしまったのですか。ですがあれには”血封印”が施されていたはずです。ですから連中は皇子殿下を攫ったのでは」
「その点は朕も不思議に思ってな。大臣の遺体を調べさせたのだ。すると大臣の体からは大量の血液が失われていた」
「つまり、”血封印”を解除するのに大臣の血が使われたと」
「そういうことだろうな」
「しかし、”血封印”の解除には直系の皇家の者の血、それも皆既日食の時に手に入れた血が必要だったのでは」
「まあ、大臣も一応公爵家、皇族だからな。皇子の血なら確実だが、大臣の血でも、もしかしたらと考え、実行したら上手く行ったということなのだろうと思う」
成程よくわかった。
だが、それでも疑問は残る。
「それで、皇王陛下はそんな重要なことを私共に話してどうしろとおっしゃるのでしょうか」
「そのことなのだがな。ホルストよ。実はそなたに頼みがあるのだ」
「何でしょうか」
「頼みというのは他でもない。そなたたちに奪われた鍵を取り戻してほしいのだ」
「私共にですか」
「あれは世に放つべき物ではないのだ。あんな物が世に出ては世界が滅亡してしまうかもしれない。だからこそ、そなたらの実力を見込んで頼むのだ。アルキメデスの鍵を取り戻してくれ、と」
「わかりました。引き受けましょう」
俺は即答した。
別に正義感からそう言ったのではない。
そんな物が世に出回っては、俺とエリカの幸せ計画が台無しになってしまう。
そんなことは許されることではない。
その思いから引き受けたのだ。
「おお、やってくれるのか」
そう言うと皇王陛下は俺の手を握ってきた
興奮しているのか、俺の手を握る手には力が物凄くこもっているような気がする。
それを見て、俺は皇王陛下に誓うのだった。
「お任せください。必ずや取り戻して見せます」
★★★
宮殿を出た後、俺たちは皇都のとある料亭へと向かった。
身内で今回の件の打ち上げをするためだ。
宮殿で晩餐会を行うという計画も一応はあったようなのだが、皇子が誘拐されたなんて国民に広く知られるのはまずい、 ということで取りやめになったらしい。
「ホルストよ。すまぬが、そういうわけで晩餐会は開いてやれぬのだ。代わりと言っては何だが、ささやかな宴席の場をこちらで用意した。費用は宮殿が負担するので心行くまで楽しむとよい」
皇王陛下がそうおっしゃってくれたので、俺たちはここへ来たのであった。
「ようこそ、おいでくださいました。ホルスト様でございますね。宮殿からお話は伺っております。こちらへ、どうぞ」
料亭の入り口には料亭の女将さんが俺たちを出迎えるために待機してくれていて、着くなり熱烈に歓迎してくれた。
さすが宮殿御用達の料亭だ。
満点の接客態度であった。
「こちらになります」
女将さんが俺たちを案内してくれたのは、料亭の奥の方の部屋だった。
こじんまりとした部屋だったが、中はきちんと清掃されていて、飾られてある調度品も落ち着きのあるものばかりで、何というか、格式の高そうな部屋であった。
ちょうど中庭に面しており、全面ガラス張りの壁からは、きっちりと整えっられた中庭の風景を楽しむことができた、
「うわあ、きれいですね」
部屋に入るなり、ヴィクトリアがガラスに額をこすりつけながら、中庭を見てはしゃいでいる。
「お客様、当店自慢の庭は気に入っていただけましたでしょうか」
「はい、気に入りました。最高です」
「それは何よりでございます。もうすぐ食事が運ばれてきますので、それまでの間ごゆっくりお過ごしください。では、失礼します」
そう言うと女将さんは一旦部屋から出て行った。
女将さんは部屋を出る前にお茶とお茶請けを用意してくれていたので、俺たちはとりあえずそれをいただくことにした。
「おいしいですね」
お茶請けの栗羊羹をヴィクトリアがおいしそうに食う。
それを見てそんなにうまいのかと思い、俺も手を出す。
「これは、いいな」
栗羊羹は甘すぎず、さっぱりとした味で、食膳に食べるのにふさわしい逸品だった。
「これは、おいしいですね」
「うまいな」
他の二人にも好評なようだ。
そうやってお茶を飲んで人心地付いたところで、俺はみんなに頭を下げる。
「まず、みんなに謝っておかなければならない。みんなに確認せず、俺個人の判断で困難な依頼を引き受けてしまったことをな。すまなかった」
困難な依頼とは、もちろん先程皇王陛下から引き受けた”アルキメデスの鍵”奪還の件である。
困難な依頼を勝手に受けた。
俺はてっきり全員に怒られるものだとばかり思っていたのだが、女性陣の反応は俺の想像と異なるものだった。
「別に、よいのではないのですか。世界が滅びてしまえば、すべて終わりなのですから、私どもがどうにかすべきだと私は思います。それよりも、私は旦那様のカッコいい所が見られて満足です」
「ワタクシも賛成です。頑張ってみんなで世界を掬いましょう」
「アタシもいいと思うよ。世界を救うために冒険するなんてむしろワクワクするじゃないか。是非、やろうよ」
あれ?全然嫌がってない。むしろ大賛成だ、これ。
「お前ら、本当にいいのか?」
「「「もちろんです」」」
3人同時に言った。
うん、素晴らしいハーモニーだ。
「お前らの気持ちはよく分かった。それじゃあ、この話はこれで終わりだ。あとは食事を楽しむとするか」
コクコクと3人が頷いた。
「お待たせいたしました」
その時、ちょうど女将さんが料理を運んできた。
「まずは食前酒とお通しをお持ちいたしました」
「うわー、おいしそうですね」
料理を見てヴィクトリアの目が輝きだした。
「それでは、食べるとしますか」
俺たちは席に着いた。
仲居さんが俺たちの目の前に料理を置いていく。
一通り置きおわり女将さんたちが出て行ったのを確認すると、エリカが俺の顔を見ながら言う。
「それでは、旦那様。挨拶をお願いします」
エリカに促された俺は、コホンとひとつ咳払いをし、おもむろに口を開く。
「みんな、この度はご苦労だった。みんなのおかげで今回も依頼を達成することができた。感謝する。
まあ、堅苦しい挨拶はこのくらいにして、後は楽しもうか。では、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
こうして楽しい打ち上げ会が始まり、それは店が閉店するまで続くのであった
★★★
一方その頃。
フソウ皇国ではない、どこか遠くの国の怪しげな雰囲気を漂わせる建物の中。
ここでは、”アルキメデスの鍵”を強奪した連中の最高幹部たちによる会合が開かれていた。
『ザ・ホーリー・アライアンス(神聖同盟)』
そう彼らは自分たちのことを名乗っていた。
まあ、やっていることはまるっきりダークだったが。
会合が始まると、上座に座っている集団の盟主が口を開いた。
「皆の者、ご苦労であった。皆の努力のおかげでこの度、目的を達成することができた。感謝する」
「何を仰せですか盟主様。我ら、彼岸達成のためにはこの命を賭す覚悟でございます。それに今回の件は悲願達成のための第一歩にすぎません。これからもさらに精進を重ね、悲願達成のために頑張らねばなりません。どうぞ、これからも我らの力を存分にお使いください」
部下の発言を聞いて盟主が頷く。
「うむ。皆の気持ち、ありがたく受け取ろう。これからもよろしく頼む」
「はは」
盟主の言葉に一同が一斉に頭を下げた。
その後は定例の会議が始まる。
議題は今回の反省会みたいな感じだ。
「やはり大臣を利用して正解でしたな」
「うむ、これからも各国に協力者を作っていくべきだな」
侃々諤々の議論が交わされる中、ホルストたちの話題が出る。
「しかし、今回、確かに成果はありましたが、損失も大きかったですな」
「へリックのやつはやられてしまったしな」
「せっかく復活させたキングエイプも退けられたというし」
「一体、キングエイプを倒すとは何者なのだ」
「それがわからぬのだ。魔法で調べようとしても光に包まれていてボヤっとして見えないというし、工作員を送り込めばすぐ行方不明になるし、一体どうなっているのか」
「まさか、新しい神々の仕業か」
「わからぬ、何もわからぬ」
「もうよい」
議論百出してきたところで、盟主が議論を止める。
「いずれにせよ、まだ先は長い。その者のことも含めて各々の使命を果たせ。諸君らの奮闘を期待する」
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