第18話~主人公の逆襲~

 エリカとヴィクトリアを襲おうとしていたオーガを始末した。


 二人が俺に駆け寄ってくる。


 俺は馬から降りて二人を出迎える。


「旦那様」

「ホルストさん」


  二人が抱きついてきた。


「会いたかった。もう二度と会えないかと思いました」

「ワタクシもです」

「俺もだ」


 俺は二人を抱き寄せると頭を撫でてやった。しばらくそのまま撫でてやっていたが、今はあまり猶予がない。

 二人から少し距離を取り俺は言う。


「さあ、こんなクソみたいな所からはさっさとおさらばするぞ。馬に乗れ」


 二人はコクリと頷いた。


 まず俺が馬にまたがる。次にエリカとヴィクトリアを順に馬上に引き上げ、前と後ろにそれぞれ座ってもらう。


「それとこれを渡しておくぞ」


 エリカとヴィクトリアに持ってきた彼女たちの杖を渡してやる。


「これで準備万端ですね」

「さあ、頑張っちゃいますよ」

「おい、おい。俺たちは戦うためにここに来たんじゃないんだ。逃げ切るために来たんだ。だから、あんまりはりきるな」


 俺は二人をたしなめる。


 ただ、俺たちの目的は確かに逃げ切ることだがその前にすることがあった。


「もっとも、ここの連中は殲滅してから逃げるけどね。追ってこられると面倒だし。エリカ」

「はい」

「魔法でこの辺りにどれくらいの敵がいるかわかるか」

「えーと、およそ500くらいかと」

「じゃあ、400くらいは潰すから、できるだけ多くの魔法を撃ってくれ」

「はい、わかりました」

「ヴィクトリア」

「はい」

「お前は、回復に専念だ。馬やパーティーがけがをしたり、疲れたりしたらすぐ回復だ」

「はい。頑張ります」

「では、行くぞ」


 俺たちは馬を駆って敵陣に突撃する。


「『天火』」


 今回『天火』の新しい使い方を試してみる。

 空中に炎弾を出現させた。意識を集中させる。炎弾が20ほどに分かれる。


「行け」


 炎が魔物を襲う。


 ゴオオオ。

 戦場のあちこちで炎があがり、魔物たちを焼き尽くす。


「突っ込め」


 敵陣に突っ込んだ俺は敵を斬りまくった。とにかく斬りまくった。


「『天雷』『天火』」


 合間に魔法も放っていく。次々に敵が消し炭になる。


「『小爆破』」


 エリカも魔法を放って攻撃する。


 小規模の爆発が戦場のあちこちで起こり、敵が吹き飛ばされる。


「あなたは疲れを知らない。この者に神の休息を『体力回復』」


 ヴィクトリアはその間回復魔法をかけ続けた。主に馬の体力回復メインでかけたが、たまにけがをした時には傷を治すこともした。


 そんなことを30分も続けた結果。


「こんなものかな」


 この周囲の敵を殲滅した。

 そこらじゅう魔物の死体だらけだ。

 生き残った少数の魔物たちも逃げ散ったらしく姿は見えなかった。


「よし、今のうちに撤退だ」


 俺は戦場から離脱するために馬を返した。


 その時、声をかけられた。


「頼む。俺たちも連れて行ってくれ」

「デリックとルッツか」


 デリックとルッツだった。二人は装備を失ってぼろぼろのの状態だった。


「なあ、頼むよ」

「ほう、今までさんざんバカにしてきた相手に助けてもらえると?」

「それは謝るからさ。頼む」

「人にものを頼むのなら頼み方というものがあるだろう?」


 俺は地面を指で指した。二人にもその意味が伝わったようで、屈辱で顔を歪めながらも土下座した。


「お願いします」


 この二人の土下座を見られるなんて。滅茶苦茶気分がよかった。

 これを見られただけでも今まで生きてきたかいがあったと思った。

 俺はニコニコしながらゆっくりと二人に近づいた。


「助けてくれるのか」


 二人が俺の態度を見て安堵したのも束の間。


 ドン。

 俺は二人を思い切り蹴り飛ばした。


「ふざけるな!俺だけでなく、俺の命よりも大切なものに手を出しやがって。ただで済むと思っていたのか。帰りたければ自分たちだけで帰れ!」


 希望の園から地獄へと突き墜とされた二人の顔が絶望で浸食される。最高だ。


「そんなあ」

「やかましい。命まで取られないだけましだと思え!」


 俺はもう一度二人を蹴り飛ばすと、そのまま馬を駆けさせた。


「自業自得ですね」

「いい気味ですう」


 女性陣も二人のことを腹に据えかねていたのだろう。最後にそんな捨て台詞を吐いた、


 そのまましばらく駆けた後、ヴィクトリアが聞いてきた。


「ホルストさん、さっき『俺の命よりも大切なものに手を出しやがって』とか言ってましたけど、それにワタクシは入ってますか?」

「ああ。最近入ったみたいだぞ」

「そうですか。えへへへ」

「よかったですね。ヴィクトリアさん」

「はい」


 北部砦まではまだ遠い。


★★★


 2日かかった。

 北部砦に帰りつくまでだ。


 本当ならもっと早くついていたはずなのだが、途中かなりの数の負傷兵に出くわし、そのたびにヴィクトリアが治癒魔法をかけてやったりポーションを分けてやったりしたので思ったより時間がかかったのだ。


 北部砦の中に入ると中もけが人でごった返していた。


「ヴィクトリア、まだいけるか」

「多分、いけます」


 俺はヴィクトリアにけが人の治療を頼んだ。


「旦那様、私もヴィクトリアさんほどではありませんが治癒魔法を使えます。軽症の方くらいでしたらなんとかしてみます」


「ああ、頼む」


 エリカも不得意ながら治療を申し出てくれた。

 俺はそんな二人を手伝って治癒魔法を使うまでもない連中の手当てをしてやる。


 たちまち俺たちの周囲は臨時救護所になった。

 次から次へと人が集まってくる。

 それを片っ端から片付けていく。

 そのうちに部下を引き連れた偉い人がこちらへ来た。どうやら人だかりができているのでなんだろうと思って来たらしい。


「あれ?あなたは、確か輸送隊の隊長の……ワイトさん?」

「君は、あの時の」


 顔見知りだった。


★★★


「いや、助かったよ」


 治療が一段落した後、ワイトさんがお礼を言ってくる。


「何せ、バルト将軍に治癒術士もたくさん前線へ連れていかれてね。あまり残っていなかったんだ」

「そうなんですね。それにしてもひどい状況ですね」

「まったくだ。どうやら、前線に出た部隊は壊滅したらしい」

「壊滅?本当ですか?」


 ワイトさんがコクリと頷く。


「どうやらワナにかかったらしい」

「ワナ?」

「そうだ。敵をおびき寄せ、自軍に引きずり込んだ後、一斉に包囲して襲撃するという戦法を取られたみたいだ。おかげでわが軍は壊滅。バルト将軍も生死不明だ」

「それは……魔物にそんな知恵があるものなのでしょうか」

「あるんだろう。少なくともその程度の知恵がある奴が指揮官だとこちらでは見ている」


 魔物にそんな知恵があるとはにわかに信じがたかったが、かつて大昔にはそういう魔物が存在したという伝承も聞いたことがある。

 そう言うのがよみがえったとでもいうのだろうか。本当わけがわからないことだらけだ。


「そんな奴がいて、勝てるんですかね」

「わからない。だが、結構な智者のようだ。偵察隊の報告によるとすでにノースフォートレスとの道も封鎖されているらしい」

「それって、つまり援軍は期待できないということですか」

「ああ、それどころか逃げることも不可能だろう。もう我々には死ぬまでここで戦うという選択肢しか残っていないのだ。だから君たちには期待しているよ」


 ワイトさんは俺の肩をポンポンとたたいた。


「Aランクの冒険者なんだってね。そんな凄腕の人が残っていてくれて心強いよ。だから、頼むよ」

「まあ、そこまで言っていただけるのなら、頑張ります」


 本当に頑張らないとまずい。ここで頑張らないとモンスターの餌になってしまう。俺は気を引き締めた。


「ああ、頑張ってくれ。私もここの司令官として頑張るから」

「えっ、ワイトさんって司令官だったんですか」

「ああ。私はバルト将軍と折り合いが悪くてね。輸送隊とか守備部隊の司令官とか地味な仕事しか回ってこないんだ」


 俺はバルト将軍とやらがなぜ失敗したのかがよく分かった。


 ワイトさんは地味だが優秀な人である。

 そういう人材をちゃんと活用できないからこそ彼は負けたのだ。


「そういうわけで、もう1日,2日で戦いが始まるだろう。しっかり準備してくれ」


 ワイトさんはそれだけ言い残すと去って行った。


「もうちょっとで戦いが始まるのか。お前らはどう思う?」

「私は魔物が挑んでくるというのなら叩き潰すのみです。旦那様、頑張りましょう」

「ワタクシもエリカさんと同じです。モンスターなんか滅ぼしてやりましょう」

「お前らは威勢がいいな」


 俺はハハハと笑った。


「だが、俺も同意見だ。お前ら、魔物狩りの時間だ。気合を入れろ」

「はい」


★★★


 その2日後北部砦は魔物に包囲された。

 さあ、激戦の始まりだ。

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