第19話~神意~

 それから2日後、北部砦はモンスターたちに包囲された。


「見ろよ。絶景だぞ」


 城壁の上から包囲している魔物たちを見て俺は不敵に笑う。


 情報によると魔物の数は10万ということだ。対してこちらは2万ほど。

 防御側有利とはいえこちらが物凄く劣勢だ。


 だが、俺たち『竜を越える者』の戦意は全く落ちていなかった。


「エリカ、なるべく敵が密集しているところに範囲攻撃魔法を撃ちこみつつ、敵が城壁に上ってきたら単体攻撃魔法で吹き飛ばせ」

「はい、了解です」

「ヴィクトリア。お前はとにかく回復だ。けが人が出たらとにかく回復して回れ」

「ラジャーです。腕が鳴ります」


 そして、もう一人。


「ふふ、久しぶりすぎて武者震いが止まらん」


 リネットさんがすごく張り切っていた。


 彼女は真っ赤なフルプレートメイルに片手斧、盾という装いで、今か今かと戦闘を待ちわびていた。


「すごい鎧ですね」

「そうだろう。アダマンタイト製だぞ。うちの父親のお手製なんだ」

「へえ。リネットさんのお父さんてそんな難しい金属も加工できるんですね。すごいです」

「まあ、娘バカな父親だが腕は確かさ。伝説の鍛冶師ローランドの一番弟子だったっていうのが自慢さ」


 リネットさんがそこまで言ったところで伝令が入る。


「モンスターの攻撃が始まったぞ!」

「さて、行くぞ。元Bランク冒険者の実力を見せてやる」


 リネットさんは持ち場へ戻った。


「じゃあ、俺たちも行くぞ」


 俺たちも配置に着いた。


★★★


「『大爆破』」


 エリカが高位の炎系範囲攻撃魔法を放つと、敵陣で爆発が起きる。


 ドゴオオン。


 敵陣で大爆発が発生し、100体余りの魔物がチリとなる。


 それを見て俺はエリカに指示する。


「エリカ、魔法を使うときは考えて使え。まずは弓兵などの支援要員から狙え。味方の損害がぐっと減るからだ。後、城壁を上がりそうなやつは真っ先に狙え。城壁に上がられては面倒だ」

「はい」


 エリカには支援要員を中心に片づけてもらうとして、俺は。


「『天火』」


 炎の弾を作り出す。意識を集中していくつかに分割して放つ。


 狙いは、敵のタンク役だ。

 タンク役はオーガやトロールなどの力の強くタフな大型の魔物が務めていることが多い。魔物たちはそういった連中を先頭に攻めかかってくるのだ。

 逆に言えばそいつらを倒してしまえば、一気に敵の戦力を削ぐことができる。


 ゴオオオ。


 炎弾が命中し火柱が上がり、タンク役の魔物たちが黒焦げになる。

 火柱はなるべく広範囲に広がるように設定しておいたので、火柱に巻き込まれて周囲のゴブリンなども燃える。


「よし、いいぞ」


 それから立て続けに魔法を放った。かなりの数の魔物を始末した。


 それでも全部を倒すというわけにはいかない。

 次第に城壁に魔物が取り付きだした。


「エリカ。城壁にとりつく魔物に集中しろ」


 エリカに指示を出すと、俺は剣を抜いた。『神強化』の魔法もかける。


「覚悟しろ」


 俺は城壁中を駆け回り敵を始末していった。

 斬っては刺し、刺しては斬った。


 そのうちに夕刻になり太陽が沈む時刻になった。


 ドーン。ドーン。


 敵陣の方からドラの音が響き敵が退却して行った。


「どうやら今日はここまでのようだな。疲れた」


 限界だった。魔力は尽き、体力的にも立っているだけでつらいような状況だった。


 少し落ち着いてから、周囲を見渡すと魔物の死体だらけだった。多分数千体はあるだろう。それだけの魔物が一日で死んだ。


 それと同時に。


「おい、しっかりしろ」


 味方にもかなりの犠牲者が出た。あちこちから仲間の死を嘆く声が聞こえる。


 そんな中。


「みんな大丈夫か」

「はい、なんとか」

「ワタクシも無事です」


 俺たちは全員無事だった。


「アタシも大丈夫さ」


 リネットさんも無事なようだ。


「疲労を回復するためにも今日は早く寝るぞ」


 その日、俺たちは飯を食うとすぐに寝た。寝場所は城壁の上だ。

 敵の夜襲に備えなければならなかったからだ。


 ちょっと寒かったが、厚着をし、毛布を何枚も重ね、仲間で集まることで暖を取った。

 それでも寒さで寝られるか心配だったが、疲れていたので爆睡した。


★★★


 二日目。敵は早朝から攻撃してきた。


 だが、昨日のようにがむしゃらに攻めてきたりしない。

 魔物たちは遠巻きに取り囲むだけで動こうとしない。その代り。


「投石器か」


 魔物たちは攻城兵器を使って石を飛ばしてきた。

 どうやら総攻撃を開始する前に城壁を潰し、人員を減らしておこうという腹積もりのようだった。


「魔法は…・・・・届かないか」


 遠すぎて投石器まで魔法が届きそうになかった。

 これでは打つ手がない。

 魔物がここまで考えてくるなんて脱帽するしかない。魔物に智者がいるという予測は正しかったのだ。


 でも、このまま手をこまねいているわけにはいかない。

 そうしている間にもどんどん城壁は崩れ、味方は傷ついていく。


「やあ、懸念していた通りになったね」

「あっ、見回りご苦労様です」


 ワイトさんだった。


「してやられったて感じですかね」

「そうだね。やられたね。この攻撃は想定外で対抗手段を用意していなかった」

「本当に何もないのですか」

「ないね。人間相手ならこちらも投石機を用意しておくんだが、『モンスター相手にそんなものはいらん』と、バルト将軍が言ったので導入は見送られたんだ」

「そうですか」

「こうなったら開き直って、城壁の被害はあきらめて、決戦に備えて兵力の温存を計るしかないだろうね」

「それで勝てますか」

「難しいだろうね。まあ、万が一に備えて準備しておくことだね」


 ワイトさんは踵を返した。


「それじゃあ、見回りに行かなきゃならないから」


 ワイトさんは見回りに戻っていった。


「万が一か。そうだな。準備しておく必要があるな」


 俺もその場を離れ、準備に行くことにした。


 結局、投石器による攻撃は夜中まで続き、城壁は見事なまでにボロボロになったのであった。


★★★


 3日目。


 朝早くから魔物たちの雄たけびがよく聞こえてくる。

 人間たちを血祭りにあげ、蹂躙するのを今か今かと待っているのだろう。


 そんな中、俺はエリカとヴィクトリアを集め、城壁の上で円陣を組んで座っていた。


 ドン。


 俺は一本のビンを円陣の真ん中に置いた。


「飲め。ぶどう酒だ。戦いの前だから、一人一杯までだぞ」


  俺がそう言うと、エリカは黙って自分のコップにぶどう酒を注ぎ、一気に飲み干した。


「おいしいですね。旦那様もどうぞ」

「ああ、頼む」


 自分の分が終わると、エリカは俺に酌をしてくれる。

 俺もそれを一気に飲み干した。


「ヴィクトリアさんも、どうぞ」

「ちょっと、これはどういうことですか!!」


 エリカがヴィクトリアに注いでやろうとした時、ヴィクトリアが騒ぎ出した。

 俺はそれを無視して続ける。


「色々あったが、お前たちとこうして一緒に過ごせて幸せだったと思う。ありがとう」

「私も皆さんと会えてうれしかったです。ありがとうございました」


 俺たちがそんな挨拶をするのを見て、ヴィクトリアが発狂したかのようにさらなる大声をあげる。


「これじゃあ、まるで『末期の酒』みたいではないですか!!!」

「みたいなではなくて、そうだ」

「そんなあ」


 ヴィクトリアがへなへなとその場に崩れ落ちる。


 これは当然の判断だ。初日、城壁があったにもかかわらず大苦戦だった。それが今では城壁がない。

 俺に神属性魔法があるとしても、もうどうにかなる状況ではないのだ。


 それでも、俺は足搔く。


「心配するな。俺が敵に突入して血路を開いてお前たちを逃がしてやる」

「血路を開くって。ホルストさんはどうするんですか」

「お前たちを逃がした後、うまく逃げるさ」


 俺は嘘をついた。そんなことは不可能だ。二人を逃がすだけでも至難の業だ。だが、それでもやれるだけやってみるつもりだ。


「旦那様、私は最後まで旦那様のお側にいたいです」

「ダメだ」

「いいえ、聞きません。無理にというならこの場で自決します」


 そう言うとエリカはナイフを取り出して見せた。どうやら本気のようだ。

 こうなったらエリカは言うことを聞かないだろう。


「仕方ない。こうなったら、ヴィクトリア、お前だけでも逃げろ」

「いやですう」


 ヴィクトリアは涙をぼろぼろ流しながら、大声で泣き叫んだ。


「いやです。いやです。そんなのいやです」

「ヴィクトリアさん、聞き分けてください」

「そうだ。お前だけでも逃げ延びてくれ」

「そんなの絶対に嫌です。せっかく仲良くなれたのに。また一人ぼっちになっちゃいます。一人ぼっちは嫌なの」


 ヴィクトリアが俺とエリカにしがみついてきた。

 ヴィクトリアの流す涙があまりにも大量なので、俺たちの服にシミができる。


「みんな、一緒がいいのお!」


 そうヴィクトリアが叫ぶと同時に、彼女の流す涙が俺の手の平に触れた。その時。


「これは?」


 ヴィクトリアの涙が触れたところから拡がるように、俺の体が光り出した。

 同時に体中から力が湧いてくる。

 俺が体の変化に戸惑っていると、俺の頭の中にメッセージが流れた。


『【シンイショウカンプログラム】ノハツドウヲカクニン。コレヨリ、リミッターヲイチブカイジョシマス」

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