第16話~ヒロインズ、さらわれる~
一族のデリックとルッツに再会した。
全く会いたくなかったが、ここにいるということは奴らも援軍としてここに来たのだろう。
上級学校を卒業したばかりだろうにご苦労なことだ。
「よう。一族の面汚し。久しぶりだな」
「会いたかったぜえ」
デリックとルッツが俺に近寄ってきた。
相変わらず下卑た笑いを浮かべている。本当気分の悪い奴らだ。
「俺は全然会いたくなかったぞ」
「へへ、そう言うな。また遊んでやるぜ」
ルッツが俺に手を伸ばしてきた。
俺はパチンとその手を振り払った。
「触るな。汚らわしい」
「てめえ。よくも」
今度はデリックが殴り掛かってきた。
だが、その動きはのろい。まだゴブリンの動きの方がましなのではと思えるくらいに。
「えい」
俺は立ち上がると、デリックの手をつかみ、そのままひねった。
「ぎゃん」
デリックは短い悲鳴を残して見事にひっくり返った。
顔から地面に激突し、無様な姿を晒す。
「この野郎」
ルッツが再び俺に手を出してくる。今度は蹴りだ。
しかし大振りな蹴りでものすごく隙だらけだ。なんというか、ゴブリンが棍棒を振るってくる動作の方がよほど隙がなかった。
ひょいっとルッツの蹴りを交わすと、逆に股間に蹴りを入れてやった。
「うげ」
とたんにルッツがうずくまり、股間を抑えながら痛みでのたうち回る。
「てめえ、俺たちにこんなことをしてただで済むと思っているのか」
ようやく立ち上がったデリックが、鼻血を流した情けない顔でそう吠えてくるが、俺は動じない。
「お前らこそ、俺がおとなしくやられるとでも思ったか。ここはヒッグスタウンじゃないんだ。お前らのような雑魚に遠慮してやる必要はないね」
「こいつ。おい、お前ら」
デリックの言葉で取り巻きがぞろぞろ集まってきた。
大体どこかで見たことがあるやつらだった。どいつもこいつも口だけ達者で、腕も度胸もない腐ったやつらだ。まったく、本当この二人の取り巻きにふさわしい連中だ。
「おい、お前ら、こいつのことは知っているな」
「知ってますぜ。ウドの大木でしょ」
「ガハハハハ」
何が面白いのか連中は大爆笑している。
「やってしまえ」
「おう」
連中が一斉に襲い掛かってきた。全部で20人いる。
だが、連中の頭はゴブリンとそう変わらないようだ。
数で押せばどうにかなると思っているのだろう。連携も何もなく、一直線に向かってくる。
「『神強化』を使うまでもない」
まず先頭の奴の鼻柱をぶん殴る。
「ぶへ」
そいつは一発で意識を失って倒れる。弱い。本当にゴブリンより弱い。こいつらも援軍に来ているのだろうが、この程度の腕では魔物にあっさりと殺されてしまうこと請け合いだった。
「ぐお」
「ぐへ」
その後も次々と雑魚どもを粉砕していく。もちろん、一人一撃で。
「こいつ」
途中俺の背後に回り込んで襲ってきた少しはましな雑魚もいたが、殺気がもろに出ていたので俺に攻撃をあっさりかわされ、逆に投げ飛ばされ、他の雑魚と激突しまとめて2匹片付けられたのもいた。
そうこうしているうちにあらかた終わったので、デリックとルッツを見ると、二人とも信じられないという目で俺を見ていた。
「こんな、バカな」
なんか情けないことを言っている。バカはお前だっつうの。
「これでも、くらえ。『火矢』」
その時、ルッツが魔法を放ってきた。
正直弱い魔法である。エリカのと比べると月と豆粒くらいの差がある。これをオークにでも放てば鼻息で魔法を吹き飛ばされ、反撃されてお陀仏だろう。
だが、街中で使われるのは迷惑だ。火事になったらどうするつもりだ。
俺は落ち着いて対処する。
「『天凍』」
俺が冷気の魔法を放つと、たちまちルッツの魔法は掻き消えた。さらに。
「あ、足が」
「ひええ、た、助けて」
俺の魔法が連中の足元を凍り付かせる。すっかり足元が凍り付いた奴らが悲鳴をあげる。
「お、お前、魔法を使えたのか」
「『男子、3日会わざれば刮目すべし』というだろ。そういうことだ」
「くそう」
「やめておけ。次は足だけじゃ済まんぞ」
ルッツが再び魔法を放とうとしたが、俺が指を向けて睨みつけると、ピタッとやめた。
さて、どうしようかな。
俺がこいつらをどうしてくれようかと考えていると、
「何事ですか」
ちょうどエリカたちが帰ってきた。
「お、お嬢様」
デリックとルッツがエリカを見て慌てふためく。
「あなたたち、私の旦那様を害しようとしていましたよね」
「これは違うんです」
「お黙りなさい!私は最初から最後まで全部見ていましたからね」
デリックが下手な言い訳をしようとしたがもちろん通じなかった。
「さあ、さっさと仲間を連れてどこへなりともお行き!」
「は、はい」
デリックたちは仲間を連れて逃げ出した。
「これが負け犬というやつですか。本当情けないやつらですね」
ヴィクトリアが逃げる連中を見て辛辣な言葉を吐く。
まさにその通りなので俺は何も言わなかった。
「旦那様、大丈夫ですか」
「ああ、かすり傷一つないよ」
「よかった」
「でも、あいつらこのままほっといても構わないのかな」
「大丈夫では?どうせ臆病で大したことなどできない方たちですし」
「それもそうだな」
俺がこの判断が間違いだと気付くのは後程のことである。
★★★
その日北部砦で行われた軍議で一つのことが決定された。
「では、今回の作戦は王国軍本体を中心に各都市の援軍と合わせて実行するということで。よろしいですね。バルト将軍」
「うむ。陛下は最近軍の働きがすぐれないことを憂慮しておいででな。人事の刷新なども口にされておる。ここで手柄を立てねば陛下の軍上層部に対する信用はがた落ちだ。冒険者どもに手柄をやることはない。我々で手柄を立てるのだ」
最高司令官のバルト将軍が軍中心で作戦を遂行することを決定した。
「将軍、もうちょっと慎重に行動された方がよろしいのでは」
「臆病風に吹かれたか!その様な者は部隊にいらん!ワイト、お前は留守部隊の指揮でもしておれ」
もちろん、慎重論を唱える者もいたがそういう者は容赦なく左遷された。
★★★
デリックたちと争ってから10日ほど経った
軍がどんどん出発していく。
それは数日前から始まり、1日に5千から1万人ずつ出兵している。
「ああ、暇だ」
そんな中俺たちは暇だった。
今日も朝からすることがなく、剣や魔法の稽古をする以外には飯を食ったり、本を読んだり、
買い物をしたりするくらいしかなかった。
どうも軍のお偉いさんが冒険者は使わんとか言っているらしいのが原因だ。
「天井のシミの数を数えるのにも飽きた」
俺は今日も訓練の時間以外はこうしてベッドでごろごろしている。
エリカとヴィクトリアも買い物に出かけて今はいない。
「俺も家に帰りたい」
冒険者の中には帰った人もいる。仕事がなくなったのだから当然だ。
俺たちの場合はリネットさんに「もうちょっとだけいて」と頼まれたからいるだけだ。
そんなわけで本当に暇なのだが、俺には一つだけ楽しみがあった。
「明日には部屋が一つ空くそうだから、そうしたらエリカと」
エリカの感触を思い出して俺はほくそ笑んだ。
そう言えば感触という言葉でで思い出したが、この前ヴィクトリアの体を触ってしまった。
もちろん故意にじゃないよ。事故だよ。
というのも、ベッドが3つになった今でもあいつはエリカの布団に潜り込んで暖を取っているのだが、寝ぼけて俺の布団に入ってきたことがあったのだ。
てっきりエリカだとばかり思った俺は迷わずキスをした。
「ちょっとやめてください」
「えっ、ヴィクトリア?」
「えっ、ホルストさん?」
当然ヴィクトリアは抵抗し、俺だとわかると泣き始めた。
「うわああああん、ホルストさんにキスされちゃいました」
当然エリカも起き出してきて騒ぎになった。
「旦那様、ヴィクトリアさんだとわからなかったのですか」
ヴィクトリアをあやすエリカにそう叱責されてしまった。
「あーそういえば、胸がいつもより小さかったし、尻の肉付きも違っていたような」
「うわあああああああん。触られまくっちゃいましたあ。もうお嫁にいけませーん」
ヴィクトリアがさらに激しく泣き出した。
あ、やべ。これ失言だ。俺の背中を冷や汗が流れる。
「旦那様。未婚の女の子にそんなことをするとはどういうことですか」
「すみません」
「もっと真剣に謝ってください」
「はい」
俺は地べたに座って土下座した。
「大変申し訳ありませんでした」
「ヴィクトリアさん、旦那様もこうして反省しているようですから、許してもらえませんか」
「うん」
ヴィクトリアはこくりと頷いた。どうやら許してくれたみたいだ。
「それじゃあ、今日はもう寝ましょうね。大丈夫、私が横で寝てあげますからね」
「はい」
「旦那様は反省して床ででも寝てください」
結局俺はその日床で寝た。起きたら背中が痛かった。
★★★
「それにしても遅いな」
俺が妄想にふけっている間に大分時間が経ち、すっかり日が落ちてしまった。
「夕方までには帰ってくるって言っていたのに。はっ。もしかして怪我でもしたのかな」
急に心配になった俺は、どこかで怪我でもして帰れないんじゃないかというような想像をし出した。
いてもたってもいられなくなった俺は、部屋の外へ探しに行くことにした。
ガチャ。
扉を開けて外に出ようとするとそこに何か置いてあるのに気付いた。
「手紙?」
中を開けてみるとこんな事が書かれてあった。
『お前の嫁とパーティーメンバーは預かった。お前の命と引き換えに返してやる。戦場まで来い』
差出人は書かれていなかったが、こんなことをするのはあいつらしかいない。
「デリックとルッツか」
俺は部屋に戻ると、剣と鎧を装備してから出かけた。
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