10-7、勝つのは当然、俺だろ?

「はぁ、残念だぜ。楽しかったが、あんまり遊んでっと魔王さまに叱られちまう……」

 ヴァレトの目の前で、プラエトは心底残念そうな表情で戦槌を振り上げ、

「そろそろ終わりにしねぇと──」

 言いかけたプラエトが、ピタリと動きを止める。


「な、なんだ……?」

 プラエトの体が小刻みに震える。が、身じろぎすらできず、戦槌を振り上げた姿勢のまま静止している。


「【畏怖の魔眼】……、」

 砂塵を抜け、黒衣収穫人グルムを操るうラクティスが現れた。

「こりゃ、お前の能力か……? すげぇ、身動き、できねぇ、ぜ」

「ぐっ……」

 そう言いつつも、プラエトはゆっくりと戦槌を下ろす。それに連動するようにラクティスが苦悶の声を漏らす。


「が、しかしぃ~」

 直後、バチッという音と共に、プラエトが自由を取り戻し、

「案外ぃぃ──」

 瞬間的にプラエトは加速し、一気にラクティスへと接近する。

「気合で何とかなるもんだな!!!」

 黒衣収穫人グルムに向けて振り下ろされる戦槌。そこへ

「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」 

 少女が割り込み、その身に武骨な鎧を出現させる。


 ドォォォォォォォォォンというすさまじい衝撃が響き渡り、


「がぁぁ!!」

 プラエトは自分が放った攻撃の反動で吹き飛んだ。


「こわっ! こわひぃぃ!! なにその衝撃波! 小生まともに食らったらミンチだから!!」

 鎧の中から、リアの甲高い悲鳴と、

「危険にゃ! 今度やるときは1人でやれにゃ!! 我輩を巻き込むにゃ!!」

「やだよ! こわすぎてむり!!」

 騒がしいアルブの声が響く。



「あらら、ずいぶん盛大にやられたねぇ……」

 ラクティスとリアの後ろから、飄々とした様子の男が現れた。

「"消耗は最低限に"って、出発前に俺、言ったんだけどねぇ……」

 近衛兵団長であり、今回の遠征部隊指令のグラリス・カームスは、全滅状態で虫の息のヴァレトたちを見渡し、呆れたような声を出した。


「てめぇか、"王国最強"ってのは!!」

 全身擦り傷だらけになったプラエトが、喜々として飛び起きた。

「はぁ~、やだやだ。ヴァレト君、ここはおいちゃんに任せて、みんなは先に行きなさい」

 言いながら、グラリスは両手に"その手に劫火をフラマ=カエストゥス"を装着する。


「これでも一番偉いんでね。作戦遂行を担う責任があんのよ」

 グラリスは胸の前で手甲フラマを打ち鳴らし、好戦的な笑みを浮かべるプラエトを前に立ちはだかった。




「敵には、呪怨能力と、敵にダメージを与えると回復する能力があります……。気を付けて……」

「あいよぉ~」

 ヴァレトの言葉に、グラリスは気の抜けた返事を返す。が、その目ではプラエトへと殺気立つ視線を向けている。

「回復したら、すぐに合流します。少しの間、頼みます……」

「あ、ほんとにこっちはいいから、俺にかまわず先に行っといて~」

 軽い調子のグラリスに、蜘蛛拳士ロレム<緑>に支えられた状態でヴァレトは軽く会釈をした。


 グラリスとプラエトの2人がにらみ合う中、まだ辛うじて動ける蜘蛛拳士ロレム<緑>と、あとから合流したラクティスやリアの力を借り、マテリ、フィデス、カルリディ、ルスフを運んで、この場を退避した。



「よかったのかい? 彼らを行かせてしまって」

「はっ! 俺が邪魔しようとしても、お前がさせなかったろ?」

 グラリスの呑気な問いかけに、プラエトは歓喜を隠し切れない様子で答える。


「その分!」

 プラエトが戦槌を振り上げて一気にグラリスへと接近し、

「お前で楽しませてもらうぜぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 振り下ろされる戦槌が、手甲フラマが衝突する。火花を散らし、両者の力が拮抗する。


「俺の"獲物"は頑丈だからねぇ、"呪怨"は発動しないと思うよ」

「はっ! だったら本体をやるまでだ!!」

 プラエトは嵐のように戦槌を振り回し、グラリスはそれを捌きながらも拳撃を叩き込む。

 約定体アバタル同士が衝突するたび、周囲に激しい衝撃波が迸る。


「おらぁ!!」

 プラエトはその身を大きくねじり上げ、全身のバネを最大限に生かした大振りを繰り出す。が、あまりに見え見えのその動きに、グラリスはそれをアッサリ潜り抜け、ボディブローを叩き込む。

「がっ!」

 だが、プラエトは殴られたにも関わらず、そのまま戦槌を切り返し、グラリスの右肩へと鉄塊を叩きつける。

 ミシリとグラリスの右肩から嫌な音が鳴る。が、彼はその勢いに逆らわず、体を回転させながら、プラエトの側頭部へと蹴りを叩き込んだ。


 くるりと回転したグラリスは着地し、プラエトに視線を向け、少々表情を顰めた。

 プラエトの腹部、ボディブローによって浅黒く変色した打撲痕、それがメリメリと見る間に修復されていく。蹴りを叩き込んだ側頭部もすでに回復していた。

「うわぁ……、気持ち悪い治り方すんなぁ」

 それを見て、グラリスはうんざりしたような声を出す。


「俺の方が、攻撃力が高そうだなぁ……、すっかり治っちまったぜ。そっちはじり貧なんじゃねぇか?」

 戦槌を受けたグラリスの右肩を指さしながら、プラエトは楽し気に問いかける。が、

「いやぁ、そうでもないねぇ」

 グラリスは、手甲フラマに2つ宿っている宝珠の光、そのうち1つ消費する。すると、瞬く間に肩の負傷が治癒した。


「はっ! そうかいそうかい!! そっちも"似たようなこと"ができるわけだ!!」

 プラエトは、新しいおもちゃを得たように無邪気に、そして遊び半分で昆虫の四肢を毟るように酷薄な嗤いを浮かべて、戦槌を担ぎあげる。


「だったらよぉ!! 性能の良い方がぁぁぁぁぁぁぁ、勝つってこったろぉぉぉぉぉ!!」

 プラエトは再び打ち下ろしを見舞うべく、愚直に突進する。


「似たようなこと……?」 

 グラリスは、宝珠の光をさらにもう1つ消費する。

「なっ!?」

 途端、プラエトの動きが鈍り、足が止まる。その瞬間、急接近したグラリスの拳が顔面にめり込んだ。

「ごばぁぁぁっ!!」

 錐もみしながら吹き飛ぶプラエト。


「いやぁ、同じにされるのは心外だなぁ~」

 地面に落下したプラエトを見下ろしながら、さらにグラリスは続けた。

「性能の良い方? なら、勝つのは当然、俺だろ?」

 グラリスは拳を構える。その手には、再び宝珠が灯っていた。



****************



「くはっ!」

 フィデスは、覚醒と同時に跳ね起き、身構える。

 周囲は相変わらず石筍に囲まれた荒野であった。が、敵の姿はなく、仲間たちを手当しているヴァレトと、周りを警戒しているラクティスとマテリ、そして鎧に籠っているリアが居るのみであった。


「殿下、目覚めましたか」

 白司祭ロレム<白>でルスフを手当しているヴァレトが、フィデスに声をかけた。


「敵は!? あの戦槌使いはどうした!?」

「団長が、戦っています……」

 ヴァレトは、グラリスに任せるしかなかった自分に恥じ入りながら告げる。


「くっ! あと一歩のところだったが、油断した!」

 フィデスは、悔し気に地面を叩く。


(え? 油断してない時、なくない?)

(自信だけはすごいな、バカ王子)

(あと一歩どころか、最後に合流して最初に倒されてたのに……。元婚約者ながら、恥ずかしい)

(ごはんまだかにゃ)

 上から、ヴァレト、リア、マテリ、アルブの心情である。



「う……」

 白司祭ロレム<白>により回復したルスフが目を覚まし、体を起こした。


「俺は……」

「大丈夫か、ルスフ」

「殿下……、すみません、俺が不甲斐ないばかりに」

「いや、こうして無事だったのだ。気にするな」

 主と従者のようなやり取りをする2人。その傍らにいるヴァレトは、まずその、"無事"にさせた自分に礼くらい言ってくれてもいいんだけどなぁ、などと思いながら聞いていると、


「くそっ! 次は負けないぜ!」

「あぁ! 俺たちならやれる!」

 熱く手を握り合うフィデスとルスフ。


(だめ! 小生もう痛々しくて見てられない!!)

(どうしよう、ここまでただの足手まといにしかなってない……。もしかして、回復させないままの方がよかったか?)

(恥ずかしい……)

(肉かにゃ、魚かにゃ、)

 上から、リア、ヴァレト、マテリ、アルブの心情である。



=================

<情報再掲載>



その手に劫火をフラマ=カエストゥス

・3等級(顕現に必要な煌気オドは3ポイント)

・属性<無色>

・攻撃力:高 防御力:高 耐久性:高

・能力(パッシブ):その手に劫火をフラマ=カエストゥスの装備者が、約定体アバタルもしくは本体にダメージを与えた場合、宝珠の1つに光を灯す。宝珠は最大6つである。

・能力(アクティブ):[宝珠の光を1つ消費]:以下の効果のうち、1つを選んで実行する。この効果では、宝珠は灯らない。

 ●次の一撃の攻撃力を30%増加する。

 ●エネルギー波で攻撃する。この攻撃は遠距離であり、複数の対象を貫通する。

 ●対象の約定体アバタル1体を10秒間弱体化する。

 ●本体を僅かに回復する。



+++++++++++++++++

<次回予告>


「ピコーン、キャラクター応援システムが導入されました!」

「リア、つい頭のアレが限界に達しましたか……」

「さぁ! ★を入れることで、お気に入りのキャラを応援できるよ!!」

「前から危ないとは思っていましたが、何もないところに話しかけ始めてしまいました(ヨヨヨ」

「"いいね!"を入れれば、更に倍率ドン! 更に倍!」

「どうしましょう、どうやって治療したらいいのか……」

「さぁ! みんなで応援だ!!」

「とりあえず、トドメを刺してみますか」

「さっきから何なの!? 物騒過ぎない!? 小生の扱いがだんだん酷く……、いや、前からだったわ」


次回:ムービー中に○ボタン連打で応援システム!!


 (これは嘘予告です)


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