10-6、お前、やるな……、久しぶりにこんだけ負傷したぜ

「はぁ はぁ はぁ」

 マテリは全身血まみれの状態で、肩で息をしていた。

 高い自己修復をもってしても追いつかないほどの負傷。だが、彼女は立っていた。倒れるわけにはいかなかった。


 彼女の背後には、既に起き上がることができない者たちが居た。

 イグノーラ、カルリディ、ルスフが、そして、遅れて合流したフィデスまでもが血の海に沈んでいる。彼らはまだ、辛うじて生きている。まだ……。


「良く粘るなぁ……、後ろの"足手まとい"どもが居なきゃ、もっと楽しめたかもしれねぇけど……」

 プラエトは戦槌を地に突き立てたまま、勝者の余裕を見せるようにマテリの健闘を称える。


「が、それもそろそろ終わりか──」

 そう言いかけたプラエトは唐突に振り返り、戦槌で背後を薙ぎ払う。

 戦槌に打ち砕かれ、2つのブーメラン状の物体が爆砕した。


 直後、戦槌を振りぬいた姿勢のプラエトにサーフボードが突き刺さる。

「ぐぉっ!」

 ヴァレトの駆る風乗楯ロレム<青>が腹部へとめり込んだプラエトが呻きを漏らす。が、すぐに口の端を持ち上げ、ニヤリと笑みを浮かべた。


「おらぁぁ!!」

 プラエトは腹に風乗楯ロレム<青>がめり込んでいるのも構わず、全力で戦槌を引き戻す。

 轟音を響かせる戦槌の横薙ぎが、ヴァレトに急速接近。

 それより早く、ヴァレトは風乗楯ロレム<青>をクルリと横転させ、それと盾のように構え戦槌を受け止める。


 ガキィィィという金属同士がぶつかり合う激しい衝突音が響き、風乗楯ロレム<青>にビシリと亀裂が走る。 



(攻撃力が高い──)

「うぐっ」

 そして、ヴァレトは肩に衝撃を受け、僅かによろめく。


 すさまじい威力だったが、確かに風乗楯ロレム<青>で受け止めた。ヴァレト自身には振動こそ伝わってきたが、ダメージは受けていない。そのはず……。

 ひび割れた風乗楯ロレム<青>と、自身の肩の負傷。この効果は、ヴァレト自身には覚えがあった。


「こ、これは、呪怨能力……!?」

 ヴァレトの人型憎悪ロレム<黒>と同様の能力。約定体アバタルへのダメージを本体の契約者フィルマにも与えるというものだ。



「ほほぅ、また契約者フィルマか……。今日は大漁だな!」

 プラエトはヴァレトの姿を見て、どう猛な笑みを浮かべる。

 ヴァレトはそんな魔族の様子より、その傍らに居るマテリの様子に目を剥いた。

「マテリ……」

「ヴぁ……、れ、と……」

 血まみれで膝を付き、意識を失う寸前のマテリは、ヴァレトの姿を目にし、そして声を絞り出した。

「にげ、て……」


 ──逃げる? バカな。


「逃げられるわけがない!!」

「板切れ1枚、叩き壊してやるぜ!!」

 ヴァレトとプラエトの叫びが重なり、両者が再び交錯する。


 プラエトは戦槌を大きく振り上げ、全く防御を考えない、隙だらけの状態で戦槌を叩き落としてくる。

「SHIAAAA!!」

 ヴァレトは即座に拳闘士ロレムへと戻し、打ち下ろされる戦槌の側面に拳を叩きつけ、軌道をずらし──

「ぐっ!」

 軌道を逸らしきれず、戦槌は拳闘士ロレムの左肩を削りながら地面へと衝突する。ヴァレトの左肩にも血がにじむ。


「はぁぁぁ!!」

 プラエトはさらに拳闘士ロレムに向けて踏み込みながら、その鉄塊を横薙ぎで振るう。

 真正面から右拳打で迎え撃った拳闘士ロレムの拳が裂け、ヴァレトの手からも鮮血がほとばしる。


(後手に回るな、攻めろ!)


「おらぁぁ!!」

「SHIAAAAAAA!!」

 さらなる戦槌の横薙ぎに、拳闘士ロレムはさらに深く踏み込む。脇腹に直撃コースだった戦槌の柄を、折りたたんだ右腕で受け、左フックをプラエトに叩き込む。

「ごっ!」

「AAAAAAAAA!!」

 左一本で立て続けに連打を叩き込み、顎を叩きあげるようなアッパーを食らったプラエトは仰け反り、数歩後ずさった。


 追撃を加えるべく前に出たヴァレトは、気が付けば地面に膝をついていた。

「な……」

 右腕は折れ、脇腹も痛めている。拳闘士ロレムからフィードバックされたダメージが、確実にヴァレトの体を破壊しつつあった。 

「ま、けるかぁぁ……」

 ヴァレトの全身から噴き出した緑のオーラが拳闘士ロレムに集まり、蜘蛛拳士ロレム<緑>へと変じながらプラエトに向けて突進する。


 蜘蛛拳士ロレム<緑>は変異により復活した右拳をプラエトへと振るう。が

「かはああああ!!」

 仰け反った姿勢から、プラエトは強引に戦槌を振りぬいた。鉄塊と蜘蛛拳士ロレム<緑>の右拳が衝突する。


 ドガァァァァァという衝突音と共に、衝撃が周囲を揺らす。

 戦槌と蜘蛛拳士ロレム<緑>の拳が拮抗し、弾かれた両者がお互いに連打を繰り出す。


「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「SHIAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 戦槌と緑の拳打が激しく交錯する。


「SHIAA!!」

「がは、ぐぼ!!」

 プラエトは蜘蛛拳士ロレム<緑>の攻撃に対して完全に防御を捨てており、全ての拳をまともに食らっている。が、それを物ともせず、戦槌の攻撃を繰り出してくる。


 激しい応酬、その結果……

「がは……」

 全身から血を吹き出し、ヴァレトが崩れ落ちた。蜘蛛拳士ロレム<緑>の全身には亀裂が走り、今にも崩壊寸前になっている。


(な、なにが……)

「ごふっ、お前、やるな……、久しぶりにこんだけ負傷したぜ」

 戦槌を地面に置き、口元の吐血を乱暴に拭いつつプラエトが告げる。

 ヴァレトを見下ろしているその体には、打撲痕が数か所あるのみである。


(お、おかしい……)

 奴の体には、何発も、何十発も蜘蛛拳士ロレム<緑>が拳を叩き込んだ。にも拘わらず、これだけの痕しか残っていない。


「よっと」

「がぁぁぁ!?」

 地面に付いていたヴァレトの手の上に、戦槌が叩き下ろされた。

 ヴァレトの負傷に呼応するように、プラエトの腹部にあった打撲痕が消えていく。

「まさか、敵への、ダメージで、回復する……、のか……」



「あぁ、そうだぜ。俺のこの"敵には永劫の戦禍をエリウム=マルレウス"の能力は2つだけ。本体もまとめて破壊と、攻撃したら回復だ!」

 プラエトは、自慢気に自分の能力を説明した。

 その効果は単純だが、恐ろしいシナジーを生み出していた。こと、接近戦においては無敵と言って差し支えないだろう。

「ぐっ……」

 もはやヴァレトには立ち上がる余力も、残されてはいなかった。



=================

<情報開示>


敵には永劫の戦禍をエリウム=マルレウス

・3等級(顕現に必要な煌気オドは3ポイント)

・属性<無色>

・攻撃力:高 防御力:並 耐久性:並

・能力(パッシブ):【呪怨】約定体アバタルにダメージを与えた場合、同様のダメージを契約者フィルマにも与える

・能力(パッシブ):【血絆】敵にダメージを与えた場合、本体はダメージ分回復する



+++++++++++++++++

<次回予告>


「今でしょ? 今まさに使うときでしょう!?」

「い、いや、もしかしたらまだ、今以上のピンチがあるかも!?」

「ほぼ全滅状態で、これ以上のピンチって、もう全滅しかありませんよ!?」

「いや、これは、いざというときのために!!」

「今がそうでしょう!?」


次回:ラストエリクサー使えない病


 (これは嘘予告です)


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