10-8、ついに魔王との決戦だ

「ついに魔王との決戦だ」

 フィデス王太子の言葉に、後に続くイグノーラ、ルスフ、そしてカルリディが頷く。彼らは並んで前方の光景へと目を向ける。


 紫色の鉱石で形成された祠だ。いや、祠というには巨大であるため、神殿、もしくは聖堂などと呼ぶべきかもしれない。それは、茶一色の荒野や石筍の中にあって、異彩を放っていた。


 自然に隆起した巨大な鉱石をくりぬき、建物として利用しているのだろう。継ぎ目無く、一体形成されているその姿は、芸術的、幻想的ですらある。内部から、禍々しい瘴気が溢れ出ていなければ……。



「これまで以上の厳しい戦いになるだろう。だが! 俺たちならば必ずや乗り越えられる!!」

 相変わらず謎のリーダーシップを発揮するフィデス王太子。

 4人からやや離れた位置で、ヴァレト、マテリ、リア、ラクティス、アルブは、そのやり取りを生暖かい目で見守っていた。


「なんで"アレ"が仕切ってるんすかね」

「リア。いくら"アレ"な王太子だとしても、そのような表現を口に出してはいけません」

「ま、マテリ様の、表現はいいの?」

「マテリは正義です」

「こっちも酷いバカップルだにゃ」


 8人の契約者フィルマたちは、それぞれの想い?を胸に、瘴気がだだ洩れの神殿へと足を踏み入れる。



 内部構造は、まさしく"神殿"であった。

 天井が高く、表面に細微な彫刻が施された柱が立ち並ぶ。最奥には黒い大きな十字架、そこには女性型の人形のようなモノがはりつけになっており、その十字架の下に2人の魔族が立っていた。



「来たか……」

 青い肌に銀髪、黒いローブを纏った美丈夫が、8人に語り掛ける。


「あれが、魔王──」

「にこたんの声! この癖のあるボイスが病みつきになるよね!」

 神殿に満たされた緊張感を、リアの一声が破壊した。




「「「……」」」

 敵味方共に、突然の奇声に閉口する。


「あ~、久々のノリで、盛り上がってるとこ申し訳ないですが、もうちょっと空気を……」

「だって! りょーくんとの遭遇を逃したんだよ!! せっかくのチャンスだったのに!!」

 ヴァレトがリアを嗜めようとしたが、リアは折れない。なお、彼女の言う"りょーくん"とは、学園に毒蒸気をばらまいた魔族のことである。


「そんなに聞きたかったので?」

 回収不能な要素が~などとツラツラ独り言を声高に話し続けるリアに、ヴァレトが問う。すると、

「いや、そうでもないけど」

「そうでもないのかよ!」

 そこでヴァレトは、ハッと気が付く。完全に敵味方共に"待ち"の状態である。

「申し訳ありません。続きを進めてください」

 ヴァレトは急に従者モードに切り替わり、綺麗なお辞儀を見せ、リアを引っ張って後退した。



 一瞬の静寂。



「この戦い! 第一功をイグノーラに捧げる!!」

 フィデス王太子が、白馬騎士エクウィテスを出しながら一歩前に出る。

「細かいことはわからねぇが、とにかく倒せばいいんだろ!?」

 ルスフが炎ゴーレムラピデアから炎を噴き上げる。

「貴女に、勝利を捧げて見せます」

 カルリディの横には、時計型の杖を持つ蒼い魔術師が立つ。


「みんな……」

 イグノーラは、感動で目を潤ませる。



「やる気満々だよ? ついさっき全滅したのに」

「アホかにゃ?」

 数歩後方で、リアが再び失礼な内容を呟き、なぜかアルブまでその尻馬に乗る。

「はぁ……、とりあえず、一番槍は譲りましょう。無いとは思いますが、これで倒せれば良し。まぁ、無いとは思いますが……」

 意外にも、マテリも辛辣な言葉を呟いている。


「あれ? ラクティスは行かなくていいの?」

「え、お、俺……?」

 リアは、自分の隣に居て、イグノーラのところへ行かないラクティスに疑問を呈する。

 ゲームを知る身からすると、ラクティスが"あちら側"に居ないことに疑問を持ったのだが、

「お、俺は、いや、……うん」

 ラクティスはドギマギと挙動不審になりつつ、小さく頷いて黙り込んだ。


(リア、気づいてて煽ってるのか? ……、いや、あれは素だな)

 ラクティスの"想い"の前途多難さに不憫を感じ、ヴァレトは目頭を熱くする思いであった。実際には熱くなっていないが。


「これが最後の戦いだ!」

「世界のために!」

「やったろうぜ!!」

 フィデス王太子、カルリディ、ルスフが、気合の声を上げ、

「支援は任せて!!」

 イグノーラが緑エルフフォリウムを出現させ、3人の後方へと付く。


「我が願いを邪魔だてするというなら……、顕現せよレベラータ・アバタル……」

 魔王の詠唱に呼応し、その身から黒いオーラが溢れ、

憎悪で死レクス・を冒涜する支配者ドミナティ・オディウム

 頭頂部に王冠を戴き、重厚だが、ボロボロに朽ちかけのローブを身にまとう骸骨が出現した。それはまさに、死の支配者ドミナティともいうべき姿である。


「魔王インヴィディクタに挑んだことを後悔し、朽ちゆくがよい」

 魔王と死の支配者ドミナティから凄まじい威圧感が放たれる。


「いくぞ!!」

 フィデスの掛け声で、3人の約定体アバタルが一斉に動き出す。と同時に、イグノーラと緑エルフフォリウムが祈りの姿勢を取り、彼女から湧き出す瑪那マナが、3人に流れ込む。

「この力があれば!」

 フィデスは、瑪那マナを費やし、4人を覆う光のバリアを展開し、

「力が漲るぜ!」

 ルスフの炎ゴーレムラピデアからは、更に強烈な炎が噴き出し、

「負ける気がしませんね」

 カルリディの時魔術師マグスは、周囲の空間を歪ませ、味方の動きを加速させる。


「なっ、なんで、しょうせいは、かそくしてないん!?」

「みかたあつかい、されてない、んでしょうね……」

 なぜか、ヴァレトやマテリ、リアにラクティスは加速していないが……。


 しかし、そんな"瑪那マナホーダイ"な状態はすぐに終了する。イグノーラからの瑪那マナ供給が突如停止し、3人の能力も切れる。

「な、なにが!?」

「間抜けめ。みすみす"巫女"の力を使わせるものか……」

 戸惑うイグノーラに、魔王が冷たく言い放つ。そして、

「魔王様……」

 魔王の隣に居た黒髪で黒衣の魔族女性、その横には、全身に黒い包帯を巻きつけた女性型の約定体アバタルが立ち、彼女から魔王に黒い瑪那マナが流れ込んでいる。


「あれが、暗黒の巫女──」

「ひゃっふぅー、クールな"めいっしー"サイコー!!」

 神殿を満たしていた緊迫感は、リアの一言で再び霧散した。



「「「……」」」

「いや、今、完全に緊迫の一瞬ですからね?」

 再び嗜めるヴァレト。だが、横から思わぬ伏兵が出現した。

「面白い、女、だよね……」

 なんとラクティスである。

「マジで……、コレを"面白い女"って言っちゃうんですか!?」

 ヴァレトは目を剥き、仰天の顔をラクティスに向ける。が、彼は恥じらい俯いていた。

「あれ? そういえば、原作の"めいっしー"は、十字架にはりつけされてたような……」

 リアはヴァレトとラクティスのやり取りなど気にも留めず、神殿奥にある十字架、そこにはりつけになっている女性型の人形を見上げながら呟いた。

「それは……」

 気になることを言いだしたリアに、詳細を聞き取ろうとしたヴァレトだったが、

「「「……」」」

 周囲が再び"待ち"であることに気が付いたヴァレトは、再度完璧な礼を以て、焦って下がった。



 そして再び一瞬の静寂。



「巫女同士の能力は、お互いを干渉する。我らの"巫女"であるオヴィエンティアの前では、そこの小娘など、取るに足らぬようだな」

 魔王は愉快気に述べるとともに、両の手を広げ、

「どこまで抗えるものか、見せてもらおう」

 死の支配者ドミナティが、その手に持つ杖で地を打つと、黒い波紋が大地に伝播していく。

 周囲の地面がぼこぼこと盛り上がり、

「ごぁぁ……」

「がぁぁぁぁぁ……」

 大地を突き破り、朽ちかけた魔族の死体が次々と這い出す。


「アンデッド!?」

「こいつもゾンビか!?」

 先日の王都騒乱におけるゴブリンゾンビを思い出し、フィデスたちの間に緊張が走る。


「これらは我が、"憎悪で死レクス・を冒涜する支配者ドミナティ・オディウム"の"眷属"である」

 さらに神殿の周囲からも"眷属"が出現し、総勢30体以上に膨れ上がる。

「さぁ、貴様らも我が"眷属"に加えてやろう」

 魔王が手を振り下ろすと、"眷属"たちは、死体とは思えぬほどの俊敏さで、フィデスたちへと襲い掛かった。



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<情報開示>


憎悪で死レクス・を冒涜する支配者ドミナティ・オディウム

・3等級(顕現に必要な煌気オドは3ポイント)

・属性<黒>

・攻撃力:並 防御力:並 耐久性:並

・能力(アクティブ):[煌気オドを0ポイント消費]:死体を"眷属"として蘇らせる。

・能力(アクティブ):["眷属"を1体生贄に捧げる]:"眷属"1体の全能力を1ランクアップさせる。

・能力(アクティブ):[煌気オドを2ポイント消費]:生者を"眷属"に変貌させる。


宵闇に生きる巫女テネブリス・ドーティス

・3等級(顕現に必要な煌気オドは3ポイント)

・属性<黒>

・攻撃力:なし 防御力:低 耐久性:並

・能力(アクティブ):[煌気オドを1ポイント消費]:3ポイントの瑪那マナを生み出す。他人に提供可能。

・【巫女能力】(アクティブ):大地に刻印を刻む

・【巫女能力】(アクティブ):刻印を刻んだ地から、瑪那マナを抽出し、収集する。他人に提供可能。上限なし



+++++++++++++++++

<次回予告>


 カルリディはスク○トを唱えた。パーティの防御力がアップした。

 イグノーラはバイ○ルトを唱えた。ルスフの攻撃力が2倍になった。

 フィデスはフバ○ハを唱えた。パーティはバリアに包まれた。

 魔王は指先から凍てつく○動を放った。

 全ての呪文効果が消滅した。

「うがぁ!!」

 ヒストリアは野太い叫びをあげた。


 カルリディはスク○トを唱えた。パーティの防御力がアップした。

 イグノーラはバイ○ルトを唱えた。ルスフの攻撃力が2倍になった。

 フィデスはフバ○ハを唱えた。パーティはバリアに包まれた。

 魔王は指先から凍てつく○動を放った。

 全ての呪文効果が消滅した。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ヒストリアは激怒してコントローラを投げた。


次回:ドラ○エのラスボス戦あるある


 (これは嘘予告です)


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