3章最終話、僕は、命に代えても、お嬢様をお守りしたい
地下水路を反響し、男の声が響く。
「あ~、でも、そっちの男は普通の人間か。なら、もう死ぬぜ?」
マテリとヴァレトはチラリとオウェルを視界に収める。丁度、排水溝からの明りに照らされた彼は、顔色が悪く、土気色を通り越し、紫色になっていた。
「がぁぁぁぁぁぁっ!!」
マテリは怒声を発しつつ、"声がした"と思しき方向へと白銀の剣を連続で振るう。が、そのすべてに手応えが無い。
「おぉ、怖っ。だが、残念」
男の言葉とは裏腹に、彼女の斬撃が全く脅威ではなかったことは、声の調子から明らかだ。
「お嬢様」
ヴァレトはマテリと視線を合わせ、目線で何かを訴えた。
「ヴァレト……」
そして、彼は荷物から取り出した松明に火を灯すと、周囲が再び明るくなる。
ヴァレトはマテリに向けて軽く頷くと、水路へと飛び込んだ。水の深さは腰程度の高さ、その水路の水をかき分けながらオウェルとリアの元へと向かう。
「はっ! いいのかよ! ご令嬢から離れてよぉ!! 殺っちまうぜ!?」
水路に男の声が反響する。男の言葉を無視し、マテリはヴァレトの姿を凝視し、"それ"に気が付いた。
ヴァレトの持つ松明の炎は、今そこに居る全員の影を水路の壁へと映している。が、ヴァレトのすぐ後ろ、人の姿が"無い"影が、彼を追従していた。
謎の男は、その言葉とは裏腹に、ヴァレトを追っている。男にとって、"不都合なモノ"をヴァレトが持っているから。
「RAFAAAAAAAA!!!」
「ぐぁっ!!」
瞬間、大量の透明な羽虫が飛び立ち、その隙間から黒装束の男が姿を現した。
「お前は、真っ先にリアの持っていた"明り"を狙った。それは、自分の"影"を隠せないからだ。だから僕を狙ってくると予測できた。"明り"を持つ僕を」
ヴァレトはすぐ背後に迫っていた黒装束の男へと告げる。
「くそがっ」
黒装束の悪態に呼応したかのように、水路から2匹のサメが出現し、黒装束と、血に塗れた白刃を持つ
両者ともにサメを一刀のもとに切り伏せ、
その隙に、ヴァレトはリアの
遅れて、マテリも彼らのところに合流し、マテリは全員をかばうように立って
「仕方ねぇなぁ、撤退だぁぁ」
黒装束が透明な羽虫を再び大量発生させると、水路全体、目に見える範囲全てが埋め尽くされた。マテリ達の周囲、景色の全てがモザイク柄へと変貌し、当然、黒装束の姿もその中へと紛れて消えた。
「た、助かった……」
リアがへたりこみながら、安堵の息を吐く。
「まだです! 奴は"
「うっ!」
ヴァレトが言ったの直後、周囲の景色を乱す羽虫がマテリを襲い、その渦中にバジリスクの刃が混ざる。
「ぐっ!」
続けて、その刃はヴァレトにも襲い掛かる。刻まれた傷が焼けるように熱くなり、傷口が紫に変色を始める。
「ぎゃ!」
更に、リアもうめき声を上げる。
乱流のように乱れる透明の羽虫。その暴風の中でじりじりとバジリスクの刃がマテリ達を追い詰めていく。
ヴァレトは
「SHIAAAAAAA!!」
そして、気体を噴出するような音を立てながら、周囲に拳打のラッシュを打ち込む。が、羽虫は散り散りとなり、ダメージが入らない。
「当たらないっ……、ぐぁっ!」
攻撃の隙を突かれ、ヴァレトは背中を切りつけられる。
すぐさま、背後に拳撃を連続で叩き込むが、そのすべてが空を切る。
(深く踏み込んでこない。バジリスクの刃で、ジリジリと追い詰めるつもりだ……。どうする!?)
ヴァレトが逡巡している間にも、マテリが新たな攻撃を受け、小さく呻く。
(お嬢様を守る! 何としても!! この羽虫状の敵はヒラヒラと躱して攻撃が届かない。動きを止められれば……。虫を止める……、クモ?)
そう思ったとき、ヴァレトを中心として緑のオーラが吹き荒れた。
それは彼の
この蜘蛛人間のような
「なに!?」
これには黒装束も思わず声を漏らす。
ヴァレトは次々とクモ糸を発射し、水路をクモの巣だらけにしていく。どんどん羽虫が減少していき、ついに黒装束が景色の中に垣間見えるようになった。
一瞬にして不利を悟った黒装束は、即座にバジリスクの刃をヴァレトへ向けて投擲。そのまま踵を返して逃亡を図った。
「ぐっ!」
が、その背中にクモ糸が付着し、背中の糸にグンッと引かれ、黒装束はその場で転倒した。
投擲されたバジリスクの刃を
「うぉぉぉっ!」
黒装束もただ捕まるようなことはしない。右手で懐から取り出したナイフを取り出し、自身を捉えているクモ糸を切断しようと振るい──
しかし、ナイフを持った手にも、既にクモ糸が付着し、拘束されている。
「なにぃ!?」
続けて左手を懐へ差し込んだ瞬間、クモ糸により腕が懐から抜けなくなる。足の暗器で──、両足共に水路に拘束されている。ならば残った羽虫で──、全てクモの巣に絡めとられている。ならば、歯に仕込んだ毒で自害を──、巨大な緑の拳が、黒装束の顔面に衝突し、彼の意識は一瞬にして吹き飛ぶ。
顔面を打ちぬかれ、白目を剥いて仰け反る黒装束。が、そのまま倒れることは許されなかった。全身に付着したクモ糸が引かれ、その体は強制的に
「SHIAAAAAAA!!」
「AAAA!!」
渾身の右を食らい、ついに糸は千切れ、水路の壁まで吹き飛んで、ぐったりと崩れ落ちた。
「まさか、殺った?」
「いえ、辛うじて生きてます。
リアはヴァレトに問いかける、が、彼はそれにシレッと答える。リアは、黒装束の今後の運命を想像し、ここで始末されていた方が幸せだろうなぁと理解し、身震いするのだった。
尚、この後、男の身柄は侯爵に預けられ、彼らの"丁寧な調査"により、侯爵の敵対派閥からの刺客であることが判明。その敵対派閥諸共に"適切に処理"されるのだが、それは別の話。
****************
一行は侯爵邸へと戻り、"刺客の男"を侯爵へと引き渡したのち、解散となった。
私室へと戻るマテリを送り、居座ろうとするリアを屋敷から追い出したところで、オウェルが独り言のように零す。
「はっはっはっはっ、やはり"
その言葉には、少しの寂しさがにじむ。
「いえ、あの時、オウェル様が真っ先に"違和感"を察知していただいたからこそ、奇襲に対して即座に対応できました」
「……、世辞だとしても、そう言ってもらえるのは嬉しい。が、その後は完全にお荷物であったからな……」
ヴァレトとしては世辞のつもりはなく、あるがままの事実として述べたのだが、オウェルとしては受け入れがたいようだった。
たしかに、
「オウェル様。僕を、鍛えてはいただけないでしょうか?」
ヴァレトの突然の申し出に、オウェルは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を見せた。
「き、君は十二分に強いと思うが?」
やっと絞り出したオウェルの言葉も、ヴァレトがあっさり反論を返す。
「それは能力頼りの力です。能力を抜きにした僕自身は、騎士どころか、初級の冒険者以下かと……」
ヴァレトの言葉に、オウェルはウムムと逡巡する。
「……、それは妹のためか?」
顎に手を当てつつ、問いかけるオウェルの言葉に、
「はい。僕は、命に代えても、お嬢様をお守りしたい」
ヴァレトは即答した。
「わかった。だが、やるからには厳しくいくぞ!」
「はい! よろしくお願いいたします!」
ヴァレトは勢いよく頭を下げ、オウェルに礼を述べた。その頭の上から、オウェルの挑戦的な言葉が続く。
「だが! 妹はやらんぞ! あのアホ王子にもな!!」
「え、あ、はい?」
返答に窮したヴァレトは、とりあえず適当な返事を述べた。
=================
<情報開示>
・3等級(顕現に必要な
・属性<無色>
・攻撃力:高 防御力:高 耐久性:高
・能力(アクティブ):[
↓
・属性<緑>
・攻撃力:高 防御力:高 耐久性:高
・特徴:蜘蛛の特性を持つため、糸を出せる。飛行タイプの敵に対し、攻撃力上昇補正がかかる
・能力(アクティブ)[
+++++++++++++++++
<次回予告>
「そうですよ! まいまいたんは小生のもの!!」
「なにぃ!? 貴様にも妹はやらんぞ!!」
「なら! アバタルカードバトルで勝負だ!」
「ふん! 命知らずめ!」
「え? 急に何が始まったんですか?」
「にゃ!? アバタルカードバトルにゃと!?」
「……、これ、"知っているのか!? アルブ!!"って、セリフを言うべきところですかね……?」
「アバタルカードバトルとは!」
「あ、解説が始まった」
「数々の
「いや、世界観グダグダですけど!?」
「いくぞ!」
「かかってこい!!」
「デュエルスタート!!」
「オチが無いんですが!?」
次回:リア死す!
(これは嘘予告です)
「次回予告が酷いネタバレにゃ!」
「3章ラストの予告が、こんなんでいいんですかね……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます