第五話 狩猟 ー壱ー

 仮面の男は、飛び掛かってくるスキンヘッドの男の攻撃をジュラルミンケースで防ごうと、頭の上に掲げた。

次の瞬間、スキンヘッドの男の左胸を一つの弾丸が貫いた。


ドサッ


 派手な音と共にスキンヘッドの男の身体は地面に打ち付けられた。

弾丸が飛んできた方に目をやると、向いのビルの上から酒場にいた、サングラスをかけたスーツ姿の男がスナイパーライフルを構えて仮面の男を見下ろしていた。


賞金首を追跡していた黒田望(くろだのぞむ)だ。

その場から動けずにいる仮面の男に黒田は声をかけた。


「おーい、お前危なかったな。殺されそうだったじゃねえか」

「今あんたにも殺されかけたが?」


黒田は一瞬驚いた顔をし、笑った。


「はは、命の恩人になんて言い草だ。ま、いいや。急いでんだろ? そいつは俺の獲物だから手は出すなよ、命が惜しけりゃな」

「虚無の弾丸の法で一般人の射殺は禁止されているはずだが?」

「くっくっ。お前、面白いな。ほんと”アイツ”にそっくりだ」


 仮面の男はしばらく黒田から目を離さずに歩き、射程距離から外れてから走って去っていった。


 仮面の男を見送り、黒田はライフルを片付け、スキンヘッドの男の元にゆっくりと向かった。



 仮面の男がスキンヘッドの男に追われている間、俺は二番地区と三番地区の境にある建物の屋上へ向かった。

その建物は暴動により廃墟と化しており、誰も住んでいなかった。


 屋上に着くと、俺は持ってきたジュラルミンケースを開けてスナイパーライフルを取り出し、組み立てた。

スコープを覗き込み、静かに呼吸を整えた。


 この瞬間が一番好きだ。

獲物がスコープの中に収まった瞬間に引き金を引く。


 そして、放たれた弾丸が寸分の狂いなく獲物を貫く。

その瞬間こそが、俺が最も輝ける時間だ。


 貫かれた獲物は地面に叩きつけられた。

それを見ていた仮面の男と目が合った。

仮面越しだが、こちらを睨みつけているようだった。


 俺はまだ知らなかった。

そいつとの出会いがこれからの俺の人生の歯車を狂わしていくことになるとは……。

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