第29話 世界中央
世界中央は軍の強大さでその領土を広げてきた軍事国家だ。おそらくは亜細亜の全てを手に入れようとしているのだろう、日本を自らの地図に収めようと攻め込んできている。
しかし、大陸を縦断するように線路を引き、大量の戦力を送り込めば、当然だが自身の国力が落ちる。現に、小さな内乱や謀反の灯があるというのを授業できいた覚えがある。
内乱を抑え込み、同時に遠くの国を落とす。彼らはそれを、日本を攻撃するための新たな軍を設立するというやり方で解決した。
既存の軍から精鋭を選び抜き、それを核として新兵を集めた。日本を矮小で何もかも劣った民族だと国民に信じ込ませるために広告をばら撒き、ニュースを放映し、あの手この手で徴兵すると驚くほどの効果があったそうだ。
国民が抱く国家への批判や貧困への憎悪の熱量が日本に向けられた。
新しい軍が出来上がるまでにわずか一年。その人員は詳細にはわからないが、噂では永遠に戦い続けることができるくらいだと言われている。もちろん根も葉もない噂で誇張が過ぎるが、そんな風に語られるほど潤沢なのだと思う。
世界中央軍独立部隊。部隊と呼ぶには規模が大き過ぎる。昨日今日始まったのではないこの戦争中に、奴らはその規模を拡大し続けている。
新型の魂鎧、強化された武装、士気の高い兵士。飢えないし、給金も悪くない。まずジリ貧には陥らない。大陸の沿岸には拠点があり、それどころか日本海の島の一部には仮拠点さえ存在している。
俺たちはそんな連中を相手にしている。学生を兵士に変えるというのも認可されてしまうところまできている。職業軍人と鎧で殺し合いをすることが普通になっている。
反戦をかかげる者も少なくない。だが、あくまでも非戦闘員だけだ。学者は今更になっても戦闘回避を叫ぶ。降伏すれば安全で自治が守られると。
しかし末端にいる兵士の一人一人ですら、俺でさえ敗北の意味をしっかり理解しながらこの戦争は進んでいる。
彼我の戦力差は確かにある。日本にこの差をわずかに押し返せるだけの強みがあるとすれば鎧の精度があげられるだろう。量産機ですら良く動き、耐久に優れ、長持ちする。古くなっても俺たち学兵が使える。世界中央は壊れてから数度修理するだけで、それ以上は廃棄してしまうという。そうしても平気だというのは脅威だが、とにかく日本の魂鎧は優秀なのだ。
そして兵士の質。これは簡単で、腕のいいパイロットと技師が多いとされている。技師とは俺の祖父のような整備士の他に開発や修理担当をまとめた総称だ。どこにでも一騎当千の働きをする者がいるからこそ、強国とも張り合えている。
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