第28話 自由な意見
「若松はどう思う」
話を振られると、虎帯ちゃんは手帳を取り出す。表紙には俺の名前があり、その真ん中まで開いた。
「井伊先生、これは自由なことを述べても?」
「もちろん」
二人の女傑がニヤリと笑った。俺は丸椅子の上で首をすくめることしかできない。
「まず突撃速度について。筋肉量か縁生のせいかはわかならいが、遅い。標準よりもかなり遅い」
『私のせい? 冗談じゃない、大和、筋トレを増やしやがれ』
「最初の被弾は避けられた。集中していない証拠である。接近戦では武器を簡単に手放してはいけない。一対一を求めすぎる。これでは不意の事態に対応できない可能性がある」
矢継ぎ早にスラスラと俺の欠点を挙げる。それらはかなり的を射ていた。
そのほかにも準備に時間がかかったことや整列が遅いことなど、俺個人だけでは解決できないことまで注意を浴び、ようやく手帳を閉じた。
「欠点はこんなところです。井伊先生、他には?」
「ない」
「では、良かったところを」
あるの? これだけ打ちのめしておいて?
井伊先生はぼーっと天井を見つめ、ペン回しを無意識でやっている。虎帯ちゃんが仕方なしにと口を開く。
「戦闘面では、井伊先生もおっしゃったが、よくできていた」
「え? そんなこと言いましたっけ」
それなりという評価で片付けられていたのに、こんなものどう転んでも好意的に受け止められないだろう。
「井伊さんは褒めるとそうなるんだ」
知らなかった。じゃあ今までずっと褒められていたのだろうか。
虎帯ちゃんは、「それより」と語気を強めた。
「敬語はやめろ。いつも通りでいいんだから、お前もそうしろ」
そう厳しく告げると、先生の肩が少し揺れた。
「わかった。敬語はやめる」
大人しく従わないとどうなるか、すでに身をもって知っている。
「それでいい。続けるぞ。お前は判断力があるし、これはセンスと言った方がいいか、鎧での戦いに適していると思う。それも前線でのな」
「そ、そうですか。じゃなくて、そうかな?」
不恰好なタメ口に井伊先生は絞り出すような声で笑った。それを無視して虎帯ちゃんは続ける。
「過去のデータを見れば明らかだ。演習とはいえ他の生徒とは比較できないほどの撃墜数だ。それに、お前は実戦で生き残っている。あの援軍要請の時のことだ」
「あれは、虎帯ちゃんが助けてくれたから」
「もちろん私も最高速度を振り切るくらいには急いでいた。だが、どう考えても全滅していたはずなんだ」
どうしてそんなことがわかる。それに諦めなんて彼女には一番似合わない。
「遮って悪いが、お前、若松のこと虎帯ちゃんって呼んでいるのか」
空気をぶち壊す先生だったが、睨まれると咳をして真面目な顔になった。自ら壊した空気を引き締めるように机を叩いて叫ぶ。
「あのときお前が戦った敵は、世界中央に設立された対日本部隊の精鋭だ」
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