第22話 賭け
「おっす。お前はどうする?」
鈴木が早速鉛筆を渡してきた。掲示板の前まで押されると、すでに賭けは白熱していた。
貼り付けられたルーズリーフにはいくつかの特徴が書かれており、その横に書いたものの名前が添えられている。
「男 五十 桜庭」
というように端的だ。さらにその横に賭けた金額があり、桜庭は二百円を賭けていた。
それぞれがそうして特徴を挙げて、賛同すればその下に名前を書く。配当は一番近い者の総取りだ。複数人であれば山分けする。人が増えればそれだけ配分は減り、もちろんありえないような特徴を描いてもいいし、それが当たれば独り占めだ。
ちなみに賭け金は百円から五百円まで。あくまで遊びなのだが堀田などは女・三十代に最高額の五百円を賭けていた。だがくだらないと一蹴するのは無粋だろう。なぜなら、俺もこういうことが好きなのだ。
こうした賭けは度々起こる。徒競走での一番や、テストでもそうだ。賭け金だって少ないし、余ったら分配されるから、本当に遊びの範疇を出ない。だからこそ熱くなれるのだ。
「私は三十代の女の人にしよう。そのほうが嬉しいし」
東風は願望を含めて書き込む。彼女は百円玉を設置された貯金箱に入れた。
「優しいとは限らないだろう」
「そうだけど。そうなったらいいじゃない」
田中の名前もあった。六十代の男。さすがに手堅い。退役した元パイロットを狙っている。金額ではなく、当たった時の喜びと周囲の羨望が真の報酬のようなものなのだ。
「氷澄くんはどうするの?」
「総取り狙えよ」
横島と鎌草がそう言ってニヤニヤしながら肩を組んできた。俺はいつも外しているから、それを確認した上で参加したいのだろう。下手の横好きの何が悪い。
「今いくらあんの?」
「二千百円だよ」
「そうだな。狙うか」
熱気に当てられ、そしていつも外すのだが、それはいい。熱くなれるということが大切なのだ。
『どうする? 赤ちゃんとかにするか?』
それではあまりに面白くない。何かいいアイデアはないか。
『ああ。アレだ。お前の昔馴染みにしろ。同年代の女。これで決まりだ』
それも面白くないだろう。現実味がない。
『いやいや。あいつも軍人じゃないか』
「悩みすぎだぜ。氷澄」
岡田が急かす。だが注目を集めれば書きづらくもなるし、先生がくれば、一応井伊先生はこの賭博に目を瞑っているが、それでも良い顔はしないだろう。
「わかったよ。じゃあこれでどうだ」
俺はコノミコの意見を採用することにした。同年代・女。すると小さなどよめきと喝采が起きる。
勝負を捨てたのか、本当に狙っているのか。これは誰も想定していない曖昧なラインらしい。
「どうする。氷澄のやつに持っていかれるかも」
「大丈夫だって。あいつ、前回のテストで自分が全教科満点を取るって言って、失敗しただろう。今回も外す」
「でも、徒競走では当てていたよ」
間宮と信楽と桜庭だ。そんな議論までするほどの予想か、これは。
「いくら賭けるの?」
東風はワクワクを隠さずにそう言った。
「いっぱいいれてくれ。そうすれば取り分が増えるからな」
自信たっぷりに船川あずみが俺の肩を叩く。こいつが賭けをやり始めた張本人だ。
「手持ちがない。百円で」
「ふっ。怖いか」
田中の挑発がなんともうざったい。こいつらはこういうことになると俄然本気なのだ。命を担保としないことに関して、すこぶる積極的なところがある。
「うるさい。良いだろ、別に。勝機がないわけじゃないし」
チャイムが鳴った。先生が気だるげに教室へと入り、俺たちと掲示板を見比べ、ため息をつく。
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