第14話 恐怖の質問
「何をキョロキョロしている。そこに座れ」
示されたのはとってつけたような質素なちゃぶ台。そして茶色の座布団。
「お前が少しでも落ち着けるように用意させた。ほら、座れ」
触れたら壊れそうな調度品の近くにいるよりは落ち着くが、俺が質素を好んでいると思われているのなら訂正したい。
『嫌いなのか』
そうではないが、それなりに裕福さへの憧れはある。祖父にだって楽をさせたいし。
座布団に正座する。そうしなければいけない気がしたのだが、彼女は不機嫌そうに「あぐらでいい」と言った。
その通りにすると、俺はなぜこんなことをしているのか、どうしてここにいるのかに、今更ながら疑問を持った。
今のところいいなりの俺を見て虎帯ちゃんは頷き、
「うむ。そうでなければ」
などと、深く感心していた。
「虎帯ちゃん、あのさ」
疑問を解消するために、おずおずと言った。そこには緊張と、先日に会ったばかりだが、久しぶりの友人への親密さがあったことに、自分でも驚いた。俺は旧友を懐かしめる人間であることに、だ。
いくつか戦場に出て精神に異常をきたしているではないか、俺はもう壊れているのではないかと、心のどこかで恐れていたのだ。
彼女はあの倉庫で見せた満面の笑みで椅子を軋ませる。
「私をちゃん付けで呼ぶのはお前くらいだよ。それがくすぐったくもあるし、照れもあるし、そして嬉しい」
腕組みをしている彼女は、自然とその大きな胸を腕の上に乗せている。というよりも胸の下に腕をくぐらせているといってもいい。
その姿勢で、こんなことを言われれば、俺としても生唾を飲み込んでしまう。夕暮れはもうすぐ夜へと移る。妄想など恥ずべきことと自らを戒めていたのに、想像力の足りない俺でも一瞬とはいえキスを思い浮かべた。洋画でのベッドシーンもそうだ。フィクションであり、どこにでもある演出だが、それでも刺激的だ。
よく考えを巡らせてみれば、密室に男女が二人というシチュエーションは経験がない。参考にできるような話もしらない。
『落ち着けよ。青いぜ』
「……あのさ」
コノミコの諭しでなんとか正気に戻ることができた。
「なんで俺を呼んだの? あんな車まで用意させて」
すると彼女はまた不機嫌な顔になり、眉間に縦筋を刻んだ。じっと俺を見据え、私たちの再会はいつぶりだ、と言った。
そんなことを言われてもすぐに答え出てこない。あれは小学校の以前か、途中か。そのくらいだったということしかわからない。
「いつだろう。でも久しぶりなことには違いないよ」
この答えは、数ある選択肢の中でもかなり失敗の部類だったようで、虎帯ちゃんは「ああ?」と肉食獣のように威圧した。
「曖昧はやめろ。ぶたれたいのか」
『ヤバいなぁ』
コノミコは何がそんなにおかしいのか、喉の奥でクックと笑う。
覚悟を決めて答えなければいけない。正解すればいいが、外れた時に飛んでくる鉄拳に怯えている。暴力に訴えるのが手っ取り早いという思想を彼女は多少有しているということが倉庫での一件でわかっている。
まるで時間制限があるように、彼女の機嫌はどんどんとマイナスに落ち込んでいる。一刻も早く、そして間違えるにしても遠からずを求められているのが現状だ。
『だいたい八年くらいだろ? それでいいじゃないか』
信じるぞ。
『戦艦にでも乗ったつもりでいろ』
戦艦とは戦うための船だ。戦いの先にあるものは決して生還だけではない。それどころか、ほとんどが死、船でいえば沈没にある。
『いいから、信じろよ』
「……八年ぶり、じゃないかな」
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