第11話 魔道具

 その後も治癒魔法の練習は続いた。それはギルム様が学園に行っている日も同じである。学園で授業がある日、ギルム様は朝から晩までずっと学園に行っており、お仕えすることができないのだ。


 毎回、学園に行きたくなさそうな顔をするギルム様。なぜそのような顔をするのだろうか。気になって調べてみると、どうやら王都の学園は”生徒はみな平等”が掲げられているそうである。


 そのため、ギルム様もフォクシー侯爵令息ではなく、ただの生徒として扱われる。そうなれば虎の子の権力に頼ることができない。そしてギルム様はそのことが不満のようである。


 見目麗しいギルム様のことだ。きっとご令嬢の注目を一身に集めているのだろう。そうなれば当然、男子生徒からの嫉妬を一身に背負うことになる。


 もしかすると、平等であることを良いことに、いじめられているのかも知れない。ああ、とても心配だ。そんな下等な者たちを屈服させることができるように、もっとギルム様を鍛えなければならない。もし私が学園に行くことができたのなら、そんな輩をすべて排除して差し上げるのに。


「ふむ、ドロシー様は魔法の才能がありますな。まさかこんなに早く治癒魔法以外の魔法も使えるようになるとは」

「ありがとうございます。先生の教え方が優れているのだと思います」


 先生のご厚意により、治癒魔法だけでなく、護身用の魔法や、痴漢撃退用の魔法も教えてもらった。これで私の防衛能力と戦闘能力が大幅にアップした。電撃で相手を無効化する魔法などは色んなところで役に立ちそうだ。


 新たな力を手に入れた私だが、手に入れた知識は魔法だけではない。書庫には魔法に関する本以外にも色んな本があったのだ。

 その中でも特に興味が湧いたのが魔道具についてである。


 この世界の魔道具は、惑星間を自由に行き来していたころの機械と比べると明らかに後れを取っている。その一方で、物理現象を無視した魔法の力を利用することで独自の進化を遂げていた。


「このドキドキする感じ。きっと面白いという感情なのでしょう。私も何か魔道具を作ってみたいものですね」


 書庫にある魔道具の作り方の本を片っ端から読んでいく。それなりの数があったので、その昔、フォクシー侯爵家で魔道具を作ろうとしていたのかも知れない。いや、現在のフォクシー侯爵がそうだったのかも知れない。


 本を読みあさっている間にギルム様が学園から帰ってきた。急いでお迎えし、サロンへ連れて行くとお茶の準備をした。今日は特に疲れているようだ。


「お勤め、ご苦労様です」

「ああ、そうだな」

「ずいぶんとお疲れみたいですね。甘い物を食べると、少しは疲れが取れるかと」

「そうだな」


 そう言ってクッキーに手を伸ばしたギルム様。ケーキもあるのに、そちらには目もくれなかった。嫌いなのだろうか?

 学園での出来事は聞かない方が良いだろう。それならば、私の話をした方が気が紛れるかも知れない。


「ギルム様、今日は書庫で魔道具の本をたくさん読みませていただきましたわ」

「うらやましいな。俺も学園など行かずに、書庫で魔道具の本を読んでいたかった」


 これはダメだ。どうやら相当、嫌な目に遭ったようである。なんとか学園から目をそらさないといけない。

 ギルム様は魔道具の本を読みたいと言った。それならば、魔道具に興味があるのでは?


「もしかして、あの魔道具の本はギルム様が購入されたものなのですか?」

「いや、俺じゃない。俺のおじい様が集めた本だな。その昔、魔道具師になりたかったらしい。まあ、当主になったのでなれなかったみたいだけどな」


 ギルム様の言う通り、当主になる貴族は職を持ってはいけない決まりになっている。領地の統治がおろそかにならないようにするための処置のようだ。もし貴族の次男、三男なら問題なかったのだあろう。

 おそらく身内に不幸があって、急きょ当主を継ぐことになったのだろう。


「それではギルム様は魔道具に興味はないのですか?」

「いや、あるぞ。自分で魔道具を作り出せたら楽しいだろうなと思うときがある」

「では、いっしょに魔道具を作りませんか? 私に良い考えがあります」

「……本当?」


 目を四十二パーセントほど細くしたギルム様がこちらを見ている。私を疑っている目である。失礼な。この魔道具は絶対に男性が喜ぶものなのに。


 先代が魔道具師を志していたということは、屋敷のどこかに魔道具を作る道具や素材が残っているかも知れない。そしてそれはすぐに見つかった。地下の倉庫の中でホコリを被っていたのだ。


「こんなところにこんな物があるとは知らなかったな」

「普段はギルム様がいらっしゃるような場所ではありませんからね。それではさっそく魔道具を作りましょう」

「お、おう」


 こうして二人での魔道具作りが始まった。作りたい魔道具の設計図はすでに頭の中に完成済みだ。失敗することはない。そして思っていた以上に簡単に魔道具が出来上がった。その魔道具を見て、ギルム様は狐につままれたような顔をしていた。


「ドロシー、それで完成なのか?」

「はい。そうです。ふむふむ、これはこれは……」


 ギルム様はなかなかご立派なモノをお持ちのようである。これならお相手の方をガッカリさせることもないだろう。じっくりとギルム様を観察していると、気になってきたようである。


「ドロシー、俺にもそれを貸してくれ。一体その眼鏡で何が見えるんだ?」

「気になりますか? やはり男の子ですね」


 そう言ってから、先ほど完成した服が透けて見える”スケスケ眼鏡”の魔道具をギルム様に渡す。それをつけたギルム様が私を見た。そして鼻血を出しながら後ろに倒れた。


「ギルム様、しっかりして下さい!」


 返事がない。どうやら刺激が強すぎたようである。

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