第9話 魔法使いたい

「ドロシー、魔法を使うには魔力を持っていることが前提なんだけど、知ってる?」

「もちろんです」

「それじゃ、ドロシーは魔力を持っているんだね?」


 おや? そういえばどうなのだろうか。アンドロイドのときは生体エネルギーなど有していなかった。持っていたのは動力源から得られるエネルギーのみである。


 だがしかし、今の自分は恐らく人間になっている。そうであるならば、当然、生体エネルギーを持っているものだと思っていた。

 いつから自分が魔力を持っていると錯覚していた?


「どうなのでしょうか?」

「知らないのか……それならまずは魔力があるかを調べないといけないな」

「はい。ギルム様のおっしゃる通りです」

「それじゃ……って、なんで服を脱いでいる!」

「え? ギルム様が体を調べるとおっしゃったではないですか」

「おっしゃってないから!」


 あせり始めたギルム様。体を調べなくて、どうやって調べるつもりなのだろうか。もしかすると未知のエネルギーなだけに、私が知らない方法で調べることができるのかも知れない。


「ギルム、昼間から何をしているのかしら~?」

「母上! これは違うのです」


 まるで最初から私たちがここでお茶を飲んでいるのを見ていたのかのようなタイミングで夫人が現れた。急ぎ足でこちらへと向かって来る。慌てた様子のギルム様が私を後ろ手に隠した。


「ドロシー、服を着ろ。母上に勘違いされてしまっているじゃないか」

「ギルム様がお調べになるのではないですか?」

「調べるけど、そうじゃないから!」

「ギルム、ドロシーちゃんの何を調べるつもりなのかしら~?」

「ヒッ! ちが……」


 ギルム様の指示に従って服を着る。その間にテーブルの上にはもう一つお茶が用意された。ギルム様の説明に夫人も納得したようである。先ほどまでのオーガのような顔が、いつもの笑顔に戻っている。


「なるほどね~。ギルムのために治癒魔法を使えるようになりたいね~。うふふ」


 そしてなんだかうれしそうである。対してギルム様のお顔はなんだかやつれたようである。これはギルム様の専属メイドとして、なんとかしなければならない。夜のマッサージのときに精力がつく物も持って行って差し上げよう。


「それで、ドロシーの魔力を調べてみても良いでしょうか?」

「もちろんよ。可能性は低いでしょうが、ドロシーちゃんがそれを望むのであればやってあげなさい」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 どうやら夫人の許可が下りたようだ。これでギルム様も気兼ねなく、私の体を調べることができるだろう。この場所では人目が多い。ギルム様の部屋へ移動するべきだ。


「それではギルム様のお部屋へ移動しましょう」

「ドロシー、なんとなく何を考えているかは想像がつくけど、違うからね? 魔力を測定する魔道具があるんだよ。ここへ持って来てくれ」


 ギルム様が使用人に指示を出すと、すぐにどこかへと去って行った。フォクシー侯爵家に使えるメイドとして、物がある場所を知らないのはまずい。マーキングして移動経路を確認する。なるほど、地下に置いてあるのか。

 その魔道具はすぐに持って来られた。板状の魔道具である。


「ここに手のひらを置くんだ。魔力があれば反応する。その色合いで、どのくらい魔力があるのかも分かるようになってる」

「それでは、失礼させていただきます」


 装置に手のひらを置く。すぐに黒い板が反応し、明るい色が広がって行く。それは隅々にまで広がって行った。

 反応があったということは、魔力があることは間違いない。これで私も魔法を使うことができる。胸が弾むようである。これがうれしいという感情か。


「まさか……」

「すごいわ、ドロシーちゃん! ここまで広がるだなんて。相当な魔力持ちよ!」


 どうやらこの色の広がりはすごいことのようである。興奮した夫人が私を抱きしめている。ふむ、夫人もなかなかのものをお持ちのようである。フォクシー侯爵が我慢できなかったのもうなずける。


「それでは私にも治癒魔法が?」

「もちろんよ。治癒魔法だけじゃなくて、もっと他の魔法もたくさん使えるはずよ。ああ、急いで手配しないといけないわ~」


 そう言い残すと、軽やかな足取りでどこかへと去って行った。どうやらフォクシー侯爵の執務室へと向かったようである。魔法の先生を手配してくれるのかも知れない。思った以上の成果だ。


「まさかドロシーにそんな隠された才能があったとは」


 ギルム様がしみじみとした様子でこちらを見てきた。もしかして、好感度が上がっている? これはチャンスだ。ここはもっと自分を売り込むべきだろう。


「ギルム様、私に隠された才能はそれだけではありませんわ」

「お、おう、そうなのか。なぜだか分からないが、それがなんなのか聞きたくない気分だな」

「あら、心外ですわ。きっとギルム様に喜んでいただけると思うのに」

「ますます聞きたくないな」


 む、露骨な拒絶。なぜだろう。胸がモヤッとする。ギルム様に認めてもらえなかったからだろうか。それならば、認めさせるまでである。なにせ私には男性を喜ばせるテクニックもインストールされているのだから。


「パフパフと言ってですね、こうやって胸の間に……」

「やめろ、実演するんじゃない! 母上に見られたらどうするんだ!」

「それでは奥様が見ていないところならば……」

「お前はああ言えばこう言うやつだな……」


 顔を真っ赤にしたギルム様がそう言った。まったく。恥ずかしがり屋の主で困る。

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