千年後の世界 下
兵士達の歓声の中、
剣閃と長い銀髪が宝石のように瞬く。
当たり前の話だが、剣と槍なら後者の方が有利だ。何せ槍の方が長い。まして、相手は未熟でも三人。殆どの局面において、数は質を凌駕する。
けれど……。
「遅いですっ!」「「「⁉」」」
白玲は突き出される槍を回転しながら次々と捌き、逆に兵士達を追い詰めていく。
俺は思わず拍手し、純粋に称賛する。
「お~この半年で強くなったな、あいつ!」
「そうですな。昨今、この敬陽の近くでも野盗の類が出ておりますれば、御嬢様もそれを大変気にされて……いえ、やはり、若にお見せする為でしょう」
爺が白髭をしごきながら、目元を緩ませ変なことを言ってきた。
……どうも、爺もうちの家の連中も、俺と白玲との関係を誤解している節があるな。
都から帰って来て以来、あいつにほぼほぼ行動を拘束されているのは事実だが。
俺が自分の黒髪を搔き乱していると、前方の演習場では銀髪の美少女が兵士達に最後の一撃を放った。槍が宙を舞う。
「あ!」「くっ!」「ま、参ったっ!」
「それまで! 白玲様の勝ち」
『おおお~!!!!!!』
壁に追い詰められた兵士達の槍が地面に突き刺さると同時に、青年隊長が左手を挙げ、演習場内に大歓声が轟く。
そんな中でも涼しい顔を崩さない御姫様は剣を納めず、俺と視線を合わせ、微笑んだ。
……激しく嫌な予感。
「さ、隻影。次は貴方の番ですよ?」
案の定、人前でわざわざ俺の名前を口にした。
俺は史書を掲げ、聴こえないふりをして、拒否しようとし――鞘に納まっている訓練用の剣が机の上に置かれる。
がばっ、と顔を上げると白髪白髭の老将は満面の笑みを浮かべていた。
「若、どうぞこちらを御使いください。刃は引いておりますれば、ご心配なきよう」
「なっ……じ、爺まで、俺の味方をしてくれないのかよっ⁉」
「御味方でございます――この局面では白玲様の、ですが」
「う、裏切り者ぉぉ!」
悲鳴をあげていると、少女の足音。
心なしか足取りが軽く聞こえるのは、俺の耳が悪くなったせいか。
白玲が手を伸ばし、俺の肩に白い手を置いた。
「父上の御言葉です。『とにかく、訓練を!』――……私が呼んだら、とっとと来なさい」
「…………はい」
お姫様の恫喝に屈し、俺は涙を拭う真似をしながらよろよろと立ち上がり、演習場の中央へと向かった。すぐさま将兵達がからかってくる。
「若、都で遊んだ罰ですよ~」「白玲様を置いて、一人で都へ行くのは大罪に違いない」「でも、美味い飯は助かりました!」「いや、あれは都の『
残念ながらこの場に味方はいないようだ。薄情者共めっ。
対して、早くも少し離れた場所に立った白玲はお澄まし顔で長い銀髪を払った。都へ行く前に俺が渡した紅い髪紐が同時に跳ねる。
……訓練場に連れて来た時から、こうするつもりだったなっ⁉
俺は渋い顔になるのを自覚しながら、幼馴染の美少女へ恨み節。
「仕方ねぇなぁ……怪我したら、お前のせいだからなっ!」
「あら? 自信満々ですね、居候さん。もしかして、半年間鍛錬を欠かさなかった私に勝てると?」
一見普段通りだが――俺には分かる。何故かは知らんが、明らかに上機嫌だ!
両腰に手をやり、胸を張る。
「ふっ……阿呆な御嬢様め。怪我をするのは勿論、俺だっ!」
「悪口を言った方が阿呆だって、御自慢の書物には書かれていなかったんですか? ほら、早く剣を抜いてください。みんなが待っています」
流れるような反論。張白玲は俺よりも賢いのだ。
正直言って……殆どの才覚で俺は負けている。文官としての才は特に。
仏頂面になりつつ、頬を膨らます。
「へーへー。……チビの頃はあんなに可愛くて、妹みたいだったのに……」
白玲の眉が、ピクリと動き、すぐさま普段通りの冷静な表情になった。
後ろ髪の紅紐を指で弄り早口。
「……言っておきますが、この距離なら貴方の唇は問題なく読めます。客観的に見て、私は今でもそれなりに容姿は整っていると思います。あと、私が姉ですし、貴方みたいな弟は絶対にいりません」
「っ! そ、そこは、聞こえないふりを」「いりません」
白玲が断固とした口調で遮ってくる。
そ、そこまで否定しなくても……。結構、仲良く過ごしてきたと思ってたんだが。
悩んでいると、審判役の青年隊長が話しかけてきた。何処となく礼厳に似ている。
「……あの……始めてよろしいでしょうか?」
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