それぞれの行方
サキと夏子の地元までバスで来た。高架線の下の広場に、女子が何人も集まっていた。
「何の集まりなの?」
「後輩の顔合わせみたいな~」
「あたし達が来ても良かったの?」
「あたいが可愛がってる後輩いるから呼ばれたけど‥タメの女も来るから‥助かったよ」
「どれがタメの子?」
三人で集まる女を指差した。
「ちょっと、行って来るよ。サキと待ってて」
「一人で大丈夫?」
「挨拶するだけだよ。心配しないで」
夏子を一人にしたくなかったから、サキに待っててもらい一人で三人の元へ向かった。
「夏子の学校の子?」
三人が振り向いて驚いた‥華が咲いた気がした。一人は黒髪ショートでスラッとスタイルも良く、芸能人と言われても疑わない程の美人だった。もう一人は茶髪でロングの髪をなびかせ、目鼻立ちがハッキリして外国人の様な美形。もう一人は黒髪セミロングの髪をなびかせ可愛らしい感じだった。美人オーラに少し圧倒された‥
「橋向の人だよね?よろしくね」
「こちらこそ、よろしく。仲良く出来たらと思って~関係ないのに来ちゃってごめんね」
「そんな事ないよ~」
夏子は気が合わないと言っていたけど、気さくで感じのいい子達だった。何とか夏子との橋渡しをしたい。自己紹介をしあって話した。
「けいごって知ってる?」
茶髪のももに聞かれた。
「ああ、知ってるよ」
「付き合ってんだ~」
「えっ?けいごと?」
驚きすぎて、声が大きくなった。
「うん。でも最近、連絡とれないの‥」
けいごがこんな美人と?しかも連絡しないとか‥何なの?‥
「連絡とれると思うから、けいごに伝えるよ」
「ほんと?嫌がられないかな?」
「でも今のままじゃ嫌じゃない?」
「うん。どうしていいか分かんない」
「じゃあ、心配してるって伝える?」
「うん」
こんな美人悩ますなんて‥罪な男だ。
「夏子~ちょっと来て~」
夏子を手招きして呼んだ。
「けいごには直ぐに連絡とるから、何かあったら夏子に伝えて。出来ることはするから~夏子よろしくね」
「うん。分かった」
「また皆で集まろうよ」
「そうだね~」
けいごのおかげもあり?仲良くなれた。
自販機でサキと飲み物を買って戻る時、四、五人で集まる子達の話し声が聞こえた。
『田所でしょ』『ヤリチンだよね』
田所って言った?ヤリチン?
「サキ、ちょっと先行ってて」
どうしても気になり、その子達の所へ行った。
「あのさ、話し聞こえちゃって‥ヤリチンて誰が?」
突然現れたあたしを見て唖然と固まっている。
「ヤリチンって言ってたよね?」
「あっああ‥田所っていう奴が‥誰とでもヤッて」
「あたし田所くん知ってるけど、手も出されなかったんだけど」
「…」
「ヤリチンって誰にでも、手出すんだよね」
「…」
「田所くんの事、悪く言わないで」
何だか凄く悲しくなって、関係ないのに口が滑った。あたしにとっては初めての、ときめきと喜びを教えてくれた初恋の人。汚されたくなかった。
はぁ~何やってんだろ‥余計なお世話だ‥
「そろそろ行くね。何かあったら夏子に伝えて、また遊ぼ」
「うん。分かった。ありがとう」
三人に別れを告げ、その場を後にした。
「まさか、けいごと付き合ってたとわね。びっくりだわ」
「ゆう達の地元は、軟派な男が多いから、泣かされてる子結構いるよ」
「え~っ、そうなの?地元なのに、全然知らなかった」
「いい男、多いでしょ」
「どこに?‥サキのが詳しいか」
「まあ、モテる男、多いよね」
「そうなんだ。気づかなかったわ」
「ゆうはさ~最強顔面がいるからだよ」
「最強顔面?何それアハハ‥」
「ちゅう君、顔だけみたいに言わないでよ~それだけじゃないんだから」
「はいはい。分かった分かった」
夏子とサキは、顔を見合せハモって笑った。
「そうだ。この間まこと君達がいた空き地に、ちゅう君いるかもよ。行ってみる?」
「ちゅう君見た~い」
「まこと君に会いた~い」
サキと夏子がノリノリだったから、行ってみる事にした。やっぱりこの辺は似たような路地が入り組み迷路みたいで、どこを歩いているのか解らない。ある意味、最高の隠れ場所だ。
「あっ、まこと君‥ちゅう君も、やっぱりいた~行こう」
夏子とサキは、まこと君の所へ、あたしはちゅう君の所に自然と向かっていた。
「来たか‥」
ちゅう君はニコリと笑い、あたしの頭に手を乗せた。辺りが一瞬、静まり返った‥
「さっき、高架線んとこいたろ」
「うん。何で知ってんの?」
「近く通ったから」
「そうだったの~声かけてよ~」
「フフッ大げさ」
視線を感じ、ふと見ると、そこにいた誰もが見ていた‥
何?恥ずかしい‥
「適当に流して、海っぺり行くか」
「やった~まこと君、乗せてくれるの?」
夏子がはしゃいだ。
「サキ~しゅう君に乗せてもらいな。安心だから。あの白いズボンの人だよ」
あの日、夏子が言ってくれた事を、あたしが言う日が来るなんて‥必死でしゅう君にしがみついていた、あの日の事を思い出していた。
こんな日が来るなんて…
今でも信じられない自分がいた。
「心配すんな。直で行くから」
ちゅう君が耳元で囁いた。
次々と単車が走り出した。夏子とサキは楽しそうに乗っていた。ちゅう君は一番最後に走り出し、海っぺりに最初に着いた。
抱きしめる様にあたしを単車から降ろすと、黙って手をつなぎ、自販機でミルクティーを買ってくれた。防波堤にも抱いて乗せてくれた‥そのまま、ちゅう君を捕まえた。
「ちゅう君、口開けて、上向いて」
「何で‥フフッ」
「いいから」
「何でだよ。何すんの?」
「ジャーン。アポロ、口に入れてあげる」
「フフッ貸せ」
ちゅう君は、あたしの手からアポロの箱を奪い取ると、自分で箱を振り口の中に入れた。
「ああ~出すぎた」
モグモグ食べるちゅう君が可愛くて笑い転げた。
「ゆう、口開けて」
「やだ~アハハ‥自分でやる」
「いいから開けろよ~」
首の後ろに手を回し引き寄せられ、観念して口を開けた。ちゅう君がアポロの箱を降って、一粒口の中に入り、口を閉じた瞬間‥
ちゅう君の唇が重なった‥
甘く長い口づけだった。
その後、しばらく髪を撫でられ、心地好くて身を任せていた‥夢の中にいる様だった。
「あれ?寝た?」
あたしの顔を覗きこんだ。
「フフッ‥おちた」
「フフッ」
ちゅう君の眼差しが、優しく潤んで吸い込まれそうになった‥と同時に怖くもあった。不安を打ち消すように抱きついた。
「フフッ乱暴だな」
そう言いながらも、きつく抱きしめ髪を撫でた。
ヴォーンと単車の音が響いて、ようやく現実に戻った気がした。
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