本物は誰だ
「よぉ、久しぶりだな」
クニが、フラリと教室に入ってきた。
「あぁ、元気そうだね」
「お前、最近何してんの?」
「別になんも」
「あのよ~交換日記やんね?」
「はぁ?」
想定外すぎて言葉に詰まった‥
クニが交換日記?ガラじゃない。頭でも打ったのか?
「やろうぜ」
急に何なんだ‥正気か?
「あのね、何であたしが、あんたと交換日記やんなきゃなんないの?さくらとやんなよ。何かあったの?」
「いや、別に‥いいだろ。やろうぜ」
何度、断っても食い下がってくる‥面倒だからとりあえず‥逃げた。
すると、今度はさくらがやって来た。
「お願いあるんだけど‥クニと交換日記やってあげてくれる?」
はぁ?この二人‥どうかしてる‥
「あのさ、クニと付き合ってんだよね?」
「うん」
「自分の彼氏が、他の人と交換日記なんかやって嫌じゃないの?あり得ないでしょ」
「やりたいって言うから‥やってあげて」
二人の思考回路が理解不能。ひょっとして‥何かのプレイに巻き込まれてるのか?
「それでいいの?さくらがやればいいでしょ」
「ゆうと、やりたいって言うから‥」
「はぁ‥あたしはやらないよ。二人でやりな」
「お願い。やってあげて」
さくらも簡単には諦めない‥
どうなってんだ‥この二人‥とりあえず逃げた。
次の日、さくらがノートを持ってやって来た。
「あの‥これ、やってあげて。お願い」
本気だったのか‥
呆れるあたしにさくらは『お願い』と言って無理やりノートを置いていった。仕方なくノートを開いて見ると、何やら読めないような字で、よろしく的な事が書かれていた。
あいつ‥大丈夫か?どんな付き合いしてんだ‥
あたしはノートを手にクニの教室に行くと、珍しく席に座っていた。
「ちょっと来て」
「今、立てないって言うか、立ってるって言うか‥」
「何でよ。早く」
腕を引っ張った。
「ちょっと、ちょっと待て」
抵抗して席から動かない。
「早くしなよ」
「ちょっと待って。事情があんだよ」
「はぁ?もういい」
バンと、ノートを机に叩きつけた。
「あんたの字はミミズみたいで読めない。さくらとやんな。以上終わり」
何か言ってたけど、気にせず教室を後にした。これ以上、付き合いきれない。
それから数日たったある日、クミが教室に走って来た。
「林たちがさ~皆で集まって、ゆうの事言ってたよ」
「えっ?なんて」
「サキは何で、ゆうなんかと友達でいんのかって。サキが可哀想とか言ってて、腹たってさ」
「はあ?何で…」
カーッと一気に頭に血が上り、そのままその足で林のクラスに向かった。林たちを見つけ脇目も触れず駆け寄った。
「あんた、サキがあたしなんかと友達で可哀想だって言ってんだって?」
「…そ、そんな事言ってないよ‥誰が言ったの?」
目を泳がせ、うろたえている。
「誰だっていいでしょ。陰でゴチャゴチャ言ってないで直接言えよ。確かめてやるから着いてきな」
「いや‥言ってないよ」
周りに、よっこや、さくら達もいたけど、皆、押し黙っていた。
「早く来な。サキに確かめてやるから。あたしと友達で可哀想なのか」
怒りと悲しみで一杯になっていた。
あたしと友達で可哀想?そんな風に思われていたなんて‥
サキに申し訳なく思って泣きそうになった。
林は下を向いて頑なに動かなかった。
どうせあたしが、一方的に責めてるみたいに見えてるんだろうな‥
心が張り裂けそうになり、サキのクラスに駆け出していた。
「サキ~サキは、あたしと友達でいるのが嫌?」
「何?何?どうしたの?」
サキは驚いて慌てふためいていた。
「あたしなんかと友達でサキが可哀想だって」
「はぁ?誰が言ったの?そんな訳ないじゃん。何なのそいつ」
サキの目は怒りに満ちていった。
「誰がそんな事言ってんの?あたしが言ってくるよ」
今にも走り出しそうな勢いだった。
「サキにそこまでさせる気ないよ。ありがとう。その気持ちだけで十分だよ」
サキを抱きしめ、心が落ち着き救われた。
弱気は見せないけど、あたしだって人並みに傷つくんだ。友達だと思っていたから‥
でも、これで友達もどきが炙り出されて良かったと思う事にしよう。これからは、ただの同級生だ。
この騒動はすぐに広がった様だった。
夜、夏子から電話がきた。
「今度、地元で女の集まりあんだけど、サキちゃんとでも来ない?」
「いいね~嫌な事あって、はっちゃけたい気分だわ」
「どうしたの?」
「陰口叩かれて、萎えたわ~」
「何そいつら、シメてやろうか?」
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいわ」
「本気だよ。なんかあったら言ってね。ボコボコにしてやるから」
「うん。頼りにしてるよ」
「ちゅう君に慰めてもらいなよ~最強顔面、最強じゃん」
「アハハ‥最強顔面最強って‥夏子が最強だよ」
「あたいも、まこと君に慰めてもらいたいわ」
「いい人だもんね」
「あの人達は一途で硬派だから、なかなか遊んでくれないよ。又そこがカッコいいんだけどね~」
夏子は、詳しい事が決まったら又電話する。と言って電話をきった。
夏子にも救われた‥理屈じゃなく、一緒になって怒ってくれる人がいるって心強い。あたしも、そういう人でありたい‥忘れない。
プルルル‥
夏子との電話を終え、直ぐに電話が鳴った。
「何してた?」
「夏子と話してた。今きったとこだよ。グッドタイミング」
「フフッそうか‥何、話してたの?」
「今度、女の集まりに来ないかって」
「行くの?」
「嫌な事あって‥でもなんか、どうでも良くなった」
「二十分後、いつものとこな」
会いたい気持ちが伝わったのかな?‥こんな日は特に優しさが身に沁みる。ちゅう君の姿が見えた時、いつも以上に嬉しかった。ちゅう君の背中は変わらず暖かくて心地好くて‥単車が止まっても、しばらく背中にもたれていた。
「どうしたんだよ」
「気持ち良くて寝ちゃいそう」
ちゅう君は黙って、あたしの回した手を握った。
ドキッ‥なんか、いつもと違う‥
「のど‥かわいたな~」
急に恥ずかしくなって、何でもないフリをした。ちゅう君は単車から降りると、あたしの両脇に手を回し、抱きしめる様にして単車から降ろすと、ニコッと優しく笑い、手を出した。黙って、その手を握った。
いつもは一人でスタスタと行ってしまうのに‥
黙って手をつないで歩いた。片手で自販機にコインを入れると、ミルクティーを買ってくれた。
「ありがとう」
ちゅう君はフフッと笑って、そのまま黙って防波堤まで歩くと、抱きかかえて座らせてくれた。
「ちゅう君‥今日は優しいね」
「フフッ気づかないだけ」
ちゅう君は海を眺めたまま言った。
「泣いたの?」
「泣いてないよ‥」
あたしの前に立ち両手を広げた‥戸惑うあたしを、抱き寄せ抱きしめた。
「暖かいな‥このまま寝ちゃお」
「こら、寝るな」
あたしの脇腹をくすぐった。
「やだ~やめて~お肉さわらないで~」
アハハ‥何もかも忘れて笑った。
ちゅう君はあたしにとって、最強、最高の特効薬だ。
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