パズル

「もう楽しすぎた~しゅう君カッコ良すぎでしょ。ビッとしてるし」

「ハハ‥ベタ褒めだね」

「ちゅう君やっぱアンソニーだわ~近寄れなかったよ。よく普通に話せるね。凄い仲いいじゃん。ビビったわ」

「まぁ‥普通に気が合うからね」

「まこと君が、ちゅうのあんな顔、見た事ねぇって驚いてたよ」

「確かに最近、優しいんだよね。素っ気ないのに慣れてたから、戸惑うわ」

「何、言ってんの贅沢。最高じゃん」

「まぁ‥そうだね。今日クニ来てるかな?けいごに、ももの事話さなきゃ」

「見かけてないな~夜たまり場、行ってみる?」

サキとけいご達の、たまり場に来たが、けいご達がいなかった。お祭りで会って少し話した事がある、けいごと同じ学校のジェイ君がいた。金髪でアフロ、愛想が良く笑顔が魅力的で良く覚えていた。話すのは、お祭り以来だ。

「あのさ~けいご、どこにいるか知らない?」

「ナベんち、いるかもよ」

「場所、知ってる?」

「ああ、一緒に行く?」

「いいの?ありがとう」

ジェイ君について歩いた。

「お祭りで会ったの覚えてる?」

「うん。覚えてるよ」

「途中でなんか慌ててたね」

「ああ‥女が来てさ~すぐ怒るんだよ」

「そうだったの~見られたら大変だ。ごめんね」

「大丈夫だよ。ここだよ」

長屋の一軒家の窓を開けた。

「ナベ~いる~」

ナベが窓から顔を出し、あたし達を見て驚いた顔をした。

「けいごいる?何か話しあるみたいよ。じゃあ俺行くわ」

「ありがとう」

ジェイ君は、くったくなく笑うと去って行った。

「どうしたの?びっくりしたな。あがれよ」

奥の部屋がチラリと見えて、クニとさくらが寄り添っていた。あらら‥

「何だよ。お前ら」

「お邪魔してごめんね~けいごに話しあるから、気にしないで~」

けいごが隣の部屋にいて、驚いた顔をしていた。

「何だよ。怖いな」

「もも、知ってるでしょ?」

「ああ‥ももちゃんね」

「心配してるよ」

けいごはバツが悪そうに苦笑いした。

「あんな美人ほっといて~連絡してあげてよ」

「たいした事ないだろ」

ナベが横槍を入れた。

「美人じゃん。あんた達、どうなってんの?」

「俺は縛られたくないの。会いたきゃ行くし」

「随分カッコいいじゃん。束縛されるの、あたしも嫌だから分かるけどさ、ハッキリしてやったら?待つなんて、いじらしいじゃん」

「お前だったら乗り込んで来そうだもんな。今日みたいに」

「ゆうだって最近は王子を待ってるもんね」

サキが何故だか嬉しそうに言った。

「王子?」

「しもべだよ」

「何だよそれハハハ‥王子くんも、お前に手出したんなら本気なんだろ」

「手出すって‥言い方よ」

「お前に手出したら、一生逃げられなくなりそうだもん」

「ちょっと~人を背後霊みたいに言わないでくれる?」

「まぁでも、お前が女になった時の顔、興味あるけどな」

「はあ?やめてよ。一生見る事ないね。とにかく連絡してあげてよ。じゃなきゃ毎日来るからね」

「それも、いいかもな」

「呪ってやる~」

「アハハ‥じゃあ王子くんの事、教えろよ」

「勘弁して下さいよ~兄貴~」

「聞いたら驚くよ」

サキが意味深に言ってニヤッと笑った。

「は?王子って聞いた事ない名前だけど‥真面目な奴?」

アハハ‥サキと顔を見合せて爆笑した。

「多分、知らないよ。シークレットで」

「そうだ。瀬戸と何かあっただろ?」

「誰それ?何の事だか‥」

瀬戸‥ごめん。こう言うのが精一杯。もう‥巻き込みたくないんだ。

「瀬戸、何かおかしかったんだよ。教えろよ」

「あっ、もう帰んなきゃ、王子のお迎えの時間だわ」

「何、話してんだよ」

クニが部屋に入って来た。

「お邪魔してごめんね~もう帰るから。じゃあ兄貴、例の件よろしく」

けいごも一筋縄ではいかない。罪な男だ。

家に帰って間もなく電話が鳴った。

「今日、出かけてたんだっけ?」

「うん。お節介焼きに行って来た」

「そうか‥いつもんとこにいる」

「え~っ、すぐ行く」

今日は、いつもの海っぺりではない所で単車が止まった。

「あれ?ここどこ?」

「行こうぜ」

手を引かれ連れて行かれた所は、だだっ広い空き地の奥の、草がボーボーと生い茂った所で、草をかき分け入った茂みの奥に現れた、廃バス‥

「秘密基地」

ちゅう君はニコリと笑い、ギギギとバスのドアを開けた。

「うわっ、いいの?入って」

手を引かれ中に入ると‥中は以外に綺麗だった。

「好きなとこ座れよ」

「どこが、お勧めですか?」

「俺の隣だろフフッ」

ちゅう君は、一番後ろの少し広くなった席に座った。座席が一つぶち抜かれ、足が伸ばせる様になっている。

「来いよ」

辺りを見渡しながら、隣に座った。

「ほんと秘密基地だね」

「内緒な」

あたしの肩に手を回した。

「心配してた」

「なんで?」

「男んち一人で行くなよ」

「サキと行ったよ」

「お前‥なんか心配」

「ちゅう君のが心配だよ」

あたしの髪を優しく撫でた‥この瞳‥甘く‥溶ける‥

「まことと何、話した?」

「まこと君?何、話したかな?」

「いい子だなって‥」

「そうなんだ」

「ひろみとは?」

「うーん‥話してないと思う」

「普通に話しかけられたの、久しぶりだって言ってた」

「えっ?何か話したかな?」

「俺、何言ってんだろ。ダセぇな‥病気かも」

「大丈夫?」

「ダメ」

きつく抱きしめられた。

「心配だな」

「なにが心配なの?ちゅう君以外と、たいした話した事ないよ」

「ほんとかよ」

あたしの目を拗ねた様に見つめた。

「ほんとにほんと」

自分の中で、最高に真面目な顔をして、ちゅう君を見つめた。

「信じた?」

「信じないフフッ」

「何でよ~」

ちゅう君の頬を両手で挟んだ。

「あたしの目を見て‥何が見える?」

「フフッ何も」

「よく見て‥見えるでしょ?」

潤んだ瞳で見つめている。

「あたしが見つめてるものが、映ってるでしょ?」

ちゅう君があたしの唇に口づけをした。

「信じてくれた?」

「まだ足りない」

もう一度、口づけをした。

「全然、足りない」

何度も口づけを交わした。

「あたしの目には、ちゅう君しか映ってなかったでしょ?」

「フフッほんとかよ」

「分かってるくせに‥」

ちゅう君は、あの目で見つめると、深く長いキスをした。

「ちゅう君の目には、誰が映ってるのかな~」

「分かってんだろ」

「分かんない」

「なんでだよ」

あたしの脇腹をくすぐった。

アハハ‥

「やめてよ~」

ちゅう君の脇腹をくすぐり返し、くすぐり合った。

アハハ…

伸ばした手を握り返してくれる‥それだけで何もかもが輝きを放つ。おんぼろバスでも、ちゅう君さえいれば最高の空間になり、どんな豪華な空間も、ちゅう君がいなければ色褪せる。

知らぬ間に、あたしの心はちゅう君で満たされていた。ちゅう君がいなければ完成しないパズルの様に‥




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