一流
「聞いた?カー子笑える」
「どうしたの?」
「この間、不良映画見に行ったらしいんだけど‥」
「不良映画って‥アハハ‥何それ」
「とにかく映画見た帰り、いきなり根性焼きしたんだって」
「何それ~男がヤクザ映画見て、肩で風切ってイキるみたいな~」
「映画見て根性焼きってアハハ…きてんな」
「あんなんする位なら根性なしでいいわ」
「根性焼きで思い出した。江口の根性焼きはグロいらしいよ。普通の根性焼きはタバコ押しつけるだけじゃん。江口のは、タバコのフィルターを乗せて火をつけて、フィルターが段々溶けて皮膚に張りついてとれないんだって。肉が焼ける匂いするらしいよ」
「うわっ‥危ないなあいつ」
「ふつうな顔してんだって。周りがドン引きしたらしいよ」
「それは引くわ~でもあいつ憑依体質なのかも」
「何それ?」
「寝る時、誰もいないのにドアの所で声がして眠れないんだって‥それで詳しい人に見てもらったら犬の霊やら色々いるって言われて、体に生肉乗っけられて、お祓いしたらしいよ」
「うわ~っ、生肉って何の肉?鳥肌立った~怖い~」
「帰ろ」
サキと、キャーキャー言いながら階段を走って降りた。『おい。挨拶しろよ』『待てよ』
うわっ‥出た‥
「さよなら~サキ走るよ~」
門に向かってダッシュした。
「ハハハ…慌ててどうしたの?」
大吾くんが呑気に笑って聞いた。
大吾くんの事で、トイレに呼び出した先輩グループを中心に、あれからも何かと文句を言ってくる。三年生が卒業してから益々酷くなった。相手にするのも面倒で適当に挨拶して門まで走る。大吾くん達がいるここまでは追って来ない。
「大丈夫?」
「はい。さようなら」
「気をつけてね」
また大吾くんと話してたら何を言われるか分からない。触らぬ神に祟りなしだ。
「あいつら、しつこいね」
「挨拶、挨拶うるさい。そんなに挨拶して欲しいなら、挨拶したくなるような先輩になれっていうんだよ」
うんざりしていた。同年代に相手にされない人ほど、後輩に文句を言いたがる。完全に憂さ晴らしだ。
いつも何かと逃げきっていたが、この日は違った‥門の外で待ち伏せされ捕り、サキと近くの空き地に連れて行かれた。
今回は流石にマズいかも…
人数が、ザッと十人以上で取り囲まれた。
『挨拶しろ』『無視すんな』『生意気なんだよ』『調子にのんな』いつも同じセリフを繰り返す。警戒しながら黙って聞いていた。
手を出されたら黙ってはいない。一矢報いる。
幸い外だから騒げば何とかなるだろう‥
そんな事を考えていた。
『うわっ逃げろ』『早く早く』
突然、先輩達が蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
何だ?サキと二人その場に取り残され、呆気にとられていると、先生が三人こっちに歩いて来るのが見えた。
「何があった?逃げた奴らは三年だな。とりあえず学校に戻れ。通報があった」
先生に連れられ学校に戻ると事情を聞かれた。
いつもの事だから大丈夫。と答えたが、誰がいた、何があったとしつこく聞かれ、話さなきゃ帰れなそうだし、庇う必要もないしで、経緯と知った顔の名前を全員答えて、やっと解放された。
「サキごめんね。あたしといたから巻き込まれたのかも」
「そんな事ないよ。呼び出しまではいかないけど、ちょいちょい皆、文句言われてるよ」
「そうなんだ‥反対にやっちゃう?めんどくさいからあいつら、皆で」
「いいねぇ~皆に聞いてみる?」
先輩反逆計画を立てる事にした。
次の日から、目を付けられてそうな子達に聞いて歩いた。
『いちいちうるさい』『追いかけられた』『水かけられた』『ゆう達がやるなら一緒にやるよ』『声かけてよ』以外にも皆うんざりしていた様で驚いた。一声かけたら団結力はあるようだ。
本当に目立つ先輩は、あまり学校に来ない。
マキ、マナ先輩がそうだ。マキ先輩はスラッと背が高くキレイ系、マナ先輩は背が低く可愛い系。二人は仲が良く学校に来る時は、いつも一緒だ。登校した日は皆、大騒ぎする。
「マキマナ先輩来たよ~」
教室の窓から校庭を見ていた友達が騒いだ。慌てて覗くと、二人が歩いて来るのが見えた。華があり絵になる二人だ。何度か話しかけられた事があり、偉ぶる事も一切なく優しい。美しいのは容姿だけでなく、二人は別格だった。
「皆、乗る気だったね」
「水かけられたとか知らなかった」
「恨まれても、しゃーないわ」
サキと下駄箱に向かい階段を降りて行った。
「あっ、マキマナ先輩だ」
下駄箱を出た所に二人が立っていた。
「こんにちは~お久しぶりです」
サキとペコリと頭を下げた。
「元気~?ちょっと~話聞いたよ」
マキ先輩が、あたしの肩に手を置き親しげに話した。
やっぱり綺麗‥一瞬で魅了される。
「あんた達、何か計画立ててんだって?」
サキと顔を見合せた…もうバレてる。
「いや~余りにも、しつこいもんで‥」
「気持ちも分かるけどさ~一応先輩だし、あたし達が話つけるから今回はおさめてくれない?」
「はい。先輩が言うなら」
即答だった。二人の言う事に従わない訳がない。
「まぁ一応先輩だからさ、挨拶だけはしてやってよ」
ニコリと笑い、あたしの肩をポンポンと叩いた。
「大吾の事も聞いたよ~ビックリしたよ。あいつそんな事する奴じゃないからさ‥好きだったのかもね」
あたしの頬をチョンとつついた。
「ゆうは悪くないよ騒ぎ過ぎ。気にする事ないよ」
先輩…これが最高の先輩だ。
「じゃあね。挨拶だけヨロシク~」
手を振って颯爽と二人は帰って行った。
絶対的女王の登場により、先輩反逆計画は幕を閉じた。一流の先輩のお陰様で二流にならずに済んだ。
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