驚きの連続

「ゆうに会いたがってる子達いんだけど、こっち来れない?」

夏子から電話がかかってきた。

「えっ?誰?」

「何かお願いあるみたいなんだよね」

「何?お願いって」

「大丈夫。あたい良く知ってる子達だから」

「まぁ夏子が言うなら行くよ」

訳が分からなかったけど、指定された場所までバスで行った。

「わざわざごめんね~」

「いいよ~夏子にも会いたかったし~」

「分かる?」

夏子は唇を突きだした…真っ赤だ。

「あっ‥もしかして‥」

「そうシャネル。気に入って毎日つけてるよ~ありがとう」

「嬉しいな。あたしも‥ほら、つけてるよ」

手を広げて見せた。

「口紅も、この色に合わせて選んでみた~どぉ?」

「いいねぇ~ピンクやっぱ似合うよ」

「自分的には赤、好きだったけど~夏子に譲るわ」

「なんで~今度一緒につけようよ~」

「今は夏子のおかげで、ピンクが気に入ってるから~そのうちね」

「楽しみ~」

話しているうちに、目的地に着いた様だ。

「ここだよ」

二階建ての一軒家を指差し、ガチャッと勝手にドアを開けた。

「来てくれたよ~」

大声で言うと『行こう』と階段を上がって行ったから、後に続いた。

一つの部屋に入ると数人の女達がいて、ペコリと頭を下げた。知らない顔だ‥夏子はドカッとベッドに腰かけた。

「ゆう、こっち座って」

隣をポンポン叩いた。初めて来た家のベッドに座るのに抵抗はあったが、夏子の考えもあるのかもと思い言われた通りに隣に座った。

部屋には五人の女子がいた。皆、普通すぎる位普通の子達だった。黒髪でサイドを少しなびかせている感じ、中には黒髪ストレート、メガネの子もいた。こんな真面目そうな子達が何で、会いたがってるのか検討もつかなかった。

「ほら、せっかく来てくれたんだから早く言いなよ」

夏子が言うと話始めた。

「えっと~‥」

結局、夏子がほとんど話した。要約すると、この子達は、ある女のチームのメンバーで(チーム名も言ってたけど忘れた)他の女チームと敵対関係にあり、今度ぶつかるから、あたし達の地元は手を出さないで下さい。という事みたいだった。全くそういう事に興味がない。地元でチームなんて聞いた事がない。もしかして知らないだけであるのか?かー子達なら喜びそうだけど…そもそも何であたしが代表みたいに呼ばれたのかも謎だ。こんな大人しそうな子達が、チームとか喧嘩とか想像がつかない。その時、前にサキが、このエリアのリンチはエグいと言っていたのを思い出した。それは誰かがされるのも、笑えない‥

「チームとか、よくわかんないけど‥タイマンならいいんじゃない?」

とりあえず、エラそうに言ってみた。

何だこれ‥滑稽だ。

「ありがとうございます」

何故だか?お礼を言われた。どうなってんだ。それから自己紹介的な事をされ、適当に相槌を打って聞いていた。

「さなえです」

ん?聞こえた瞬間、その子に釘付けになった。

さなえって言った?この子が?‥

メガネをかけ一番地味目の子だった。

この子が田所くんの彼女?挨拶代わりに男のを触るって言ってた‥あの‥さなえ?

思わず頭を抱えていた。

「ゆう、どうしたの?」

夏子が顔を覗きこんだ。

「大丈夫。ちょっと目にゴミが入ったみたい」

とっさにベタなセリフが口から出た。

この子はこの後、あたしに会った事を田所くんに話すのだろうか‥あの優しい声で、この子の名を呼んでいるのだろうか‥今更まだこんな事、考えるなんて‥

はぁ~バカみたいだ。

「夏子‥帰ろうか」

「そうだね。話も終わったし」

「よろしくお願いします」

その子達は見ず知らずのあたしに頭を下げ、家の外まで見送ってくれた。さなえから目が離せず、衝動的に、さなえに駆け寄っていた。

「田所くん‥大切にしてね」

耳元で囁くと、さなえは驚いて目を丸くした。

「いちの事、知ってるんですか?」

その時、ブレスレットの文字がフラッシュバックした‥

I&U…いち&ゆう

何も言えず、さなえを見つめた‥

田所くんも、こうして見つめているのだろうか‥さなえの頬を優しく触った。

「じゃ‥よろしくね」

さなえは唖然と固まったまま、あたしを見つめ皆、黙って見ていた。

うわっ‥あたし‥相当気持ち悪いな‥何やってんだろ‥

「どうしたの?」

夏子が不思議そうに聞いた。

「さなえちゃん、可愛かったから‥ちょっとからかった」

「え~っ、どこが?ダサいじゃん」

アハハハ…夏子が笑った。

貰うばかりで何も出来ずに逃げ出した。さなえより、あたしの方が‥よっぽどダサいよ。

夏子に連れられ歩いた。この辺りは全く土地勘がない。細い路地が幾つも入り組み、まるで迷路だ。ひょんと現れた空き地に、単車と何人もの男達が見えた‥

イヤな予感‥

「あ~まこと君だ~」

夏子は男達の所へ走って行った。

やっぱり知り合いか‥

その場に立ち止まり夏子を待った。

「ゆう~何してるの?来て~」

夏子が嬉しそうに手招きした。皆もこっちを見ている。

嫌だな‥でも‥行かないのも変だよな‥

トボトボとうつ向いて近づいた。

「前に、会ったよね」

言われて初めて良く見ると、夏子を待っていた、むーくんちのアパート前で話しかけられた襟足さんだった。

「見かけないけど、どこの子?」

「橋向だよ」

夏子が答えてくれた。

「ちょうど今から、軽く流そうと思ってたから、近くまで送ってやろうか?」

「えーっ、いいの~やった~」

夏子が喜んではしゃいだ。

困った‥断りづらくなった‥

「水仙公園あるでしょ?あそこから近い?」

「まぁ、はい‥でも送ってもらうのも悪いですし、バスで帰るので大丈夫ですよ」

何とかやんわり断った。

「遠慮しないで大丈夫だよ。ちょうど行くとこだったから」

遠慮じゃないんだけど‥いつもこうなる‥

皆、エンジンをかけ始めた‥

もう断れない‥

夏子の袖を引っ張った。

「普段なかなか乗せてくれないよ~あの白いボンタンの人の後ろに乗せてもらいなよ。特攻隊長だから、運転上手いよ。安心して」

夏子は、あたしとはうらはらで興奮して声が弾んでいた。

特攻隊長って何?単車苦手なんだけどな‥

父親が運転が荒く、何度か怖い思いをしてから乗り物に軽いトラウマがあった。

夏子は嬉しそうに、まこと君の所に駆け寄り、単車にまたがった。仕方なく、言われた通り白いボンタンの人に近寄った。

あれ?この人‥ニグロさん?

「乗りな」

初めて間近で顔を見た‥眉毛がキリッと整えられ精悍な顔をしていて、何故だか安心した。

「じゃあ俺ここ」

あたしの後ろにも人が乗った。

ヴォーンヴォーン…

凄い音が耳を貫き、必死にニグロさんにしがみつくと、チラッとニグロさんが振り向いた‥

「痛い」

フッと笑った。まだ単車は発進もしていなかった‥

「あっ‥すいません」

回した手の力を抜いた。

恥ずかしい‥怖くて、それどころじゃなかった。

「緊張してる?」

後ろから声がして、あぁ、後ろにも人がいたんだった。とチラッと振り向いた‥?そして‥驚きで固まった。言葉にならず、ただコクンコクンと頷いた。

単車が白馬に思えた。

やがて次々と走り出した。

もう命、預けるしかない‥

ニグロさんに身を任せ、固く目をつぶっていた‥少し慣れてチラッと横を向き目を疑った。

え~っ?なんか立ち乗りしてる?

あんな人の後ろに乗らなくて良かったと、心底思った。そして何やら声が聞こえ、そっちを向くとパトカーが接近していた。何台かの単車は、逃げるどころかパトカーを煽る様にしている、後ろに乗った人も蹴る様な仕草をして楽しんでる様だった。その光景を横目で見ていた。

「大丈夫だよ。しゅうは運転上手いから」

耳元で王子が囁いた。あたしは身動き出来ず、ニグロさんの背中に顔を埋めていた。

やがて、パトカーをうまく巻いたのか、他の単車もパトカーも見えなくなった。そして間もなく単車が止まった。

ハァ~無事で良かった‥

王子が降りて手を出したから、自然に王子の手を借り単車を降りた。足がガクガクする‥その場にしゃがみこんだ。

「大丈夫?」

無意識に王子の手を握りしめていた。

「あっ、はい‥すいません」

少し落ちついて顔を上げると、単車にもたれ二人が煙草を吸っていた。目が合うと優しい笑顔で見ていた。辺りを見渡すと、他の単車は見当たらなかった。

夏子‥無事かな?‥

「あの‥他の人は?」

「そのうち来るでしょ。大丈夫だよ」

気にもしてない様子だった。徐々に感覚が戻り、その場にいたたまれなくなってきた。

「何か飲みます?買って来ます」

「大丈夫だよ」

「のど乾いたんで、買いに行くんで」

王子がポケットから小銭を出して渡してきた。

「いいです。いいです。お礼です。コーヒーでいいですか?」

「フフっ‥なんのお礼?」

「送ってもらったんで‥」

黙って手に小銭を持たされた。

「ミルクティーで。後、自分の買いな」

とりあえず、自販機で一息ついた。

あの二人、絵になるな。何であたしが一緒にいるんだろ‥

今、起きた事が遠い過去の様に思え、現実味がなかった。ミルクティーを渡すと『悪いね』と言って受け取ってくれた。

「こちらこそ、いただきます」

何故か、安らぎを覚える二人の空気感‥命を預けたからだろうか‥

夏子達を待ったけど、来なかったから帰る事にした。二人は、ミルクティーの缶をかかげ見送ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る