人気者の代償

体が拒否反応を示すように寝坊した。

イヤ‥言い訳か‥給食が始まる少し前に、シレッと席についた。

「おっ来た。お前なんか噂されてんぞ。サキがさっき探してた」

まるが耳元でコソッと教えてくれた。

「えっ?なんて?」

もう‥あれしかないよな‥どこまでだろ‥

「よくわかんねぇ。後でサキに聞けよ」

このまま帰ろうかな‥いや、逃げても解決しない。

「来てた~ちょっと来て」

サキに腕を掴まれ、女子トイレの個室に二人で入った。

「大吾くんとキスしたの?」

全部バレてる…最悪だ。

「誰が言ってたの?」

「なんか、枝くん達が話してたらしいよ」

大吾くんが話したのか…二人きりだった。

枝くん達が着いて来てたとか?それはないよな‥

「それで?どうなの?」

「いきなりされたんだよ。サキには話そうか迷ったんだけど…」

「言ってよ~こんちゃん泣くし訳わかんないし、何も言えなかったよ」

「言えばよかった‥ごめんね」

「いきなりされたんだから、ゆうは悪くないよ。後で詳しく聞かせて」

個室から出ると待ち構えたかの様に、こんちゃん達がいた。

「大吾くんとキスしたって本当?」

こんちゃんの連れが確かめるように言って、その横でこんちゃんが俯いていた。

「なんか急にそうなっちゃって‥なんて言ったらいいのか‥」

「何で‥そんな事するの~」

こんちゃんがシクシクと泣き出し、連れが肩を抱き擦った。

何でそんな事したのか?あたしが聞きたいよ…

「田所くん知ってんの?」

よっこの予期せぬ、この一言でプツンとキレた

「田所くん関係ないでしょ。大吾くんだって突然してきたのに、何であたしが責められなきゃいけないの?大吾くんに言って来なよ」

「大吾くんと遊んでんなら田所くんと遊んでもいい?」

「田所くんがいいって言えばいいんじゃない?あたしが決める事じゃないし」

「とにかく、ゆうは悪くないよ。行こう」

サキがトイレから連れ出してくれた。

「大丈夫?」

まさかの田所くんの事を言われ不覚にも泣きそうになった。

田所くんには知られたくなかったな‥

遅刻の罰で放課後、掃除をしなくてはならず、サキとは夜たまり場で会う約束をして別れた。

掃除を終え、階段を降りると下駄箱に五、六人の先輩達が立っていた。

イヤな予感…

「おい、お前ちょっと来な」

予感的中。女子トイレに連れて行かれ、取り囲まれた。

「あんたさ~大吾は、この子と付き合ってんの。分かってんの?」

顔を伏せた一人を抱き寄せ突っかかってきた。

「どうゆうつもりだよ」

「黙ってんじゃねぇよ」

口々に言い、そのうちの一人が持っていたパックの飲み物をトイレのタイルに叩きつけた。

しぶきが飛び、足にかかり恐怖より怒りが湧いた。顔を上げ先輩を睨んだ。

これ以上何かされたら暴れてやる。例えやられても一矢報いる。もうウンザリだ。

「なんだよ」

先輩がにじり寄り睨み合いになった‥

「もういいよ‥行こう」

顔を伏せていた先輩がそう言うと、トイレから出て行った。

『気をつけろよ』『調子にのんな』

捨て台詞を吐いて次々とトイレから出て行った。

どちらかといえば被害者だと思うんだけど…

責めるなら責める相手間違えてないか?‥

トイレに一人取り残され、投げつけられた紙パックのジュースを見つめながら考えていた。

人もまばらになった校庭を歩いて行くと、校門の隅に誰かが座っていた‥大吾くんだ。

一人なんて珍しい…

「今帰り?何かあった?」

何か分かってて言ってるみたい…

「なんで‥言っちゃったんですか?黙ってたのに…」

考える間もなく口をついた。大吾くんは立ち上がると歩み寄った。

「気に入ってるから‥誰でもいい訳じゃないよ」

「大吾くん人気者だから‥酷い目に合いましたよ」

「そうなの?ごめん‥何かあったらいつでも言いなよ」

きっと大吾くんでなければ、こんな目に合っていなかっただろう…又こんな所を見られたら何を言われるか分からない‥長居は無用だ。

「はい。帰りますね。さようなら」

「ごめんね‥送ろうか?」

「大丈夫です」

過ぎた事は今更どうにも出来ないし、人の口に戸は立てられない。

もう田所くんに会わす顔ないな…よっこが話すだろうし‥例え事故だとしても受け入れてしまった事は事実だから…

「あの後、大丈夫だった?」

いつものたまり場のベンチで、サキが待っていてくれた。

「先輩に呼び出された。大吾くんの彼女達みたい」

「双子いなかった?」

「よくわかんなかった。ちゃんと顔見る余裕なかったわ」

「なんだって?」

「彼女いるから手出すな‥みたいな」

「手出したの大吾くんじゃんね」

ドサッとクニが隣に座った。

「お前、何かあったの?」

「こんな騒ぎになると思わなかったわ」

「大吾くんと‥付き合ってたのか?」

「はぁ?なんでそうなんの?」

「じゃあ、何でそうなったんだよ。おかしいだろ」

「偶然会って、送ってくってなって突然されたんだよ。本当にそれだけ‥何でそうなったのか‥こっちが聞きたいよ」

「大吾くん、そんな事する人じゃないのにな。どうしちゃったんだろう。あの人近所でよ、いつも弟たち可愛がってて‥いい人だよ」

「なんで言っちゃったんだろ」

サキがポツリと言った。

「大吾くんに聞いた」

「えっ?聞いたの?凄いじゃん」

サキが驚いて目を見開いた。

「で、何だって?」

「なんか、気に入ってるみたいな‥人気者の自覚がなさすぎるんだよ」

「大吾くんも男だって事だろ」

クニが納得したように言った。

「何わかったような事、言ってんの」

茶化すように肩をこずいた。

「俺だって男だろ。なんとなく分かるよ‥気持ち」

「あんたは人気者じゃないけどね。ごく一部だけ」

アハハ‥サキと二人で笑った‥クニは首を傾げた。

「それで…お前平気なの?」

「何が?」

「だって多分あれだろ‥お前の事だから‥」

言いづらそうに、口をゴニョゴニョさせた。

「あ~ファーストキス的なやつ?」

クニは黙って目を泳がせた。

「別に…たいした事じゃなかった」

「お前…」

なんとも言えない哀れんだような顔をした。

「大吾くんだもんね。悪くないよ」

サキがイタズラに笑った。

「こんちゃん達、これ以上騒がなきゃいいけど…」

「あいつら、うるせぇんだよ。あんなの二人になったって手も出ねぇわ。お前が気にする事ねぇよ」

「でもまぁ‥好きな人がそんな事したら、悲しい気持ちになるのは分かるから」

「よっこは田所くんだっけ?相当気に入ってるよね。どうすんの?」

胸がドクンと波打った。

「もう‥会わす顔ないわ‥」

空を仰いだ。

「田所が、どうしたんだよ」

「あんたさ~会うだけで自分を見失ってしまう人っている?」

クニは少し考えたように黙った。

「何、言ってんだよ」

「あっごめん。あんたは動機が不純だったね」

「不純ってなんだよ。バカお前‥失礼だね」

「アハハ‥ごめん」

「俺だってね、色々あんの…お前は何にも知らないね」

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