賭け

「あっはい。います‥すぐ行かせます」

うっすらと声が聞こえて、その後バンバンと体を叩かれた。

「あんた、まだいたの?先生から電話きたよ。早く行きな」

基本、母は朝は寝ている。トントンと朝ご飯を作る音で目覚めるのが夢だった。勿論そんな事口に出した事などない。懸命に働いてくれているのを知ってるからだ。

ハァ‥学校行きたくない。大吾くんと顔を合わせるのも何だか気まずい‥でも、ずっと避ける訳にもいかない‥

学校に行こうと玄関のドアを開けた‥

ドン…何かにぶつかってドアが開かない。

あれ?

ドンドン…ドアに隙間が空き、そこから覗くと

はぁ?信じらんない‥

ドアの前でクニが新聞を敷いて寝ていた。

「ちょっと~何してんの?早くどいて」

ドンドン…何回もドアを開け閉めした。

「痛い痛い。お前、止めろよ」

「あんたバカじゃないの。何やってんのよ」

クニは目をこすりながらムクリと立ち上がった

「あ~腹減った。なんか食わせて」

「はぁ?ふざけんな。早く学校行け」

「なんでだよ~いいだろ」

「学校行くんだよ」

「飯食いに行こうぜ」

相手にしてらんない。そのままおいて学校に行った。

「おぉ~来た。サキが、ゆう来ないって心配してたから給食には来んだろって言ったんだよ」

クラスで隣の席の、まるが言った。

「給食、大盛りな」

「おっサンキュー」

「あと、これ」

まるが、ポンとチーズを何個か机に置いた。

「けっこう嫌いな奴いんのな~何でだろう…旨いのに」

「ほんと…旨いのに」

二人でチーズをパクパク食べた。

まるには、カバンを潰してもらった。あたしのカバンは潰しづらく、針金を入れたり工夫してくれた。持ち手も持ちやすく長くしてくれた。しっかりテープも巻いて‥家が工場で必要な工具が色々と揃っていた。お陰様で…先生に没収される…強引に返却の攻防戦が続いている。

学校には色んな分野の達人がいる。

制服も他の友達が直してくれた。

「来たの~」

サキが、ひょこっと顔を出した。

「言ったべ。給食には来るって」

「なんか‥餓えた子みたいじゃん」

皆でゲラゲラ笑った。

「あ~大吾くんいる~」

ドキッ…

窓際でいつものように、こんちゃん達が騒いだ。何だか後ろめたい気持ちになった‥

皆に紛れて門を出よう。

「さようなら~」

皆が挨拶して話してる隙に、ペコリと頭を下げササッと門を通り抜けようとした。

「お~い帰れたか?」

枝くんに捕まった。

「はい大丈夫です。さようなら」

一礼して逃げるように門を出た。

「気をつけて帰んなよ~」

枝くんの声が聞こえた。

「何かあったの?」

「送ってもらっただけだよ」

「送ってもらったの?」

皆、集まり騒ぎ出した。マズい…

「何で?いつ?枝くんに送ってもらったの?」

いつの間にか、こんちゃん達が現れ矢継ぎ早に質問攻めにあった。本当の事は絶対に言えない二人きりだった。大吾くんが言わなければバレない‥かと言って嘘も言いたくない。

ここはひとまず…

「送ってもらった~じゃあ帰るね」

逃げるが勝ちだ。

「ちょちょっと待ってよ~」

こんな所で騒がれたらたまらない。考える時間が欲しい‥とりあえず見逃して下さい。

ダッシュで走った。クニ達が自転車の隠し場所でたむろしていた。

「ちょっと~それあんたの?」

大声で叫んだ。

「どうしたんだよ。お前必死だな」

からかうように笑った。

「いいから貸して」

自転車をつかんだ。

「おい待てよ。どうしたんだよ」

「いいから、絶対返すから貸して」

「俺が漕ぐから乗れよ」

「いいからいいから‥じゃあ早く乗って」

クニを乗せ必死に立ちこぎした。

「どうしたんだよ。おもしれぇな」

クニは自転車の後ろで楽しそうにゲラゲラ笑っている…

こっちは笑い事じゃないんだよ‥全く人の気も知らないで‥ハァ‥疲れた。

「ちょっと、あんた重いんだよ。交代」

ハァ‥ハァ‥息がきれた。

「何、必死こいてんだよ‥あ~おもしれぇ」

何がそんなに可笑しいのか‥クニがずっと笑っているから、釣られて笑けてきた‥ハァ‥ハァ‥アハハ…もうどうでも良くなってきた。

「ちなみにこれ、俺のじゃねぇぞ」

「えっ?うそでしょ」

驚いて一瞬で素に戻った。

「アハハ…何、焦ってんの?」

「ちょっと~やめてよ~」

「飯、行くか」

とにかく今は家に帰りたくない‥考える時間が欲しかった。

「弁当でも買って、どっかで食べない?」

「そんなんじゃなくて、ちゃんとしたの食おうぜ」

「ちゃんとしたのって何よ」

「ん~ちゃんとしたのはちゃんとしたのだよ」

「あんたもたまには役に立つね。助かったわ」

「たまにって‥お前ほんと失礼だね」

お弁当を買ってクニの家に行った。

「俺って、いい奴だろ」

「しつこいねあんたも。そういう事じゃないの。まぁでも‥ちゃんとしたお弁当ありがとね」

「お前が誰にも会いたくないって言ったからだろ。俺はちゃんとしたの食いたかったのに」

「あのね、あたしは別にお弁当でもいいの。誰と食べるかが大事なの」

「バカお前‥俺だってそうだよ」

「ふ~ん」

「お前は何にも分かってないね。奢ってくれるからって変なもん食うなよ」

「変なもんて何よ」

「ん~うるさい」

お弁当を食べて自分の家のようにくつろいだ。

クニは、こう見えて世話好きだから気楽。

「お前さ~なんかあったの?」

「ん~なんかね~事故にあった感じかな…」

「何かあったら言えよ」

「あ~大丈夫」

「何があっても、お前の味方だからな」

あたしが微笑むと『なんだよ』と言って恥ずかしそうに目を伏せた。

黙って考えていた…今日逃げても明日がある。

「何だよ」

「なんも言ってないよ‥とりあえず帰るわ」

ここにずっと隠れている訳にもいかない。

「帰りたくないなら、まだいればいいだろ」

サキだけには言っておくべきか‥でも出来たら誰にも言いたくない。大吾くんが言わなければ無かった事になる。言った所で大吾くんに得はない‥って事は‥大吾くんも言わない。

うん。よし。言わない。

「やっぱ帰るわ」


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