危険な男
こんちゃん達もよっこも、あれから何も言って来なかった。噂でさくらとよっこ達が田所くんの地元に遊びに行っているみたいだと聞いた。大吾くんの事も、どう伝わったか知らない。
幸せでいてくれたら…
結局‥逃げ出しただけなのかも知れない。
「来たね~」
いつものたまり場のベンチに座った。
あれから、毎晩のようにここに来て空を仰いだ。頬に冷たい物があたって、ビックリして上体を起こした。
「飲む?」
ふわふわパーマで、ひょろっとした男子が、缶を持って立っていた。
誰だったかな?
「あっ、ありがとう」
ちょこんと隣に座った。
「瀬戸~あたしにもちょうだいよ」
サキが手を出した。
「あっちにあるよ。取ってきなよ」
「ケチ」
サキは向こうに何人か集まる男子達の所に、走って行った。
「話した事なかったね」
「そうだね」
「クニと、いつもいるから‥話しづらかった」
ジッと、あたしの顔を見た‥
「そうだったの?なんも気にする事ないよ」
「いつもここに座ってるね」
「ボケーッとしてる」
「いいね~俺もよく空見るよ」
二人で空を見上げた。
「今、好きな人いる?」
ん?好きな人?
「あっ…よく曲聞く人」
好きな曲って事かな…
「ん~今は永ちゃんかな‥ウィスキーコーク好き」
「俺も好きだよ」
なぜか‥顔を見合わせて笑い合った。
「そうだ~アメいる?」
「うん」
「色んな味あるよ。何がいい?」
袋の中から何種類かアメを選んでいるようだ。
「あっ待って‥俺が当てる。目つぶって」
目をつぶって手を出した。
「当たったら‥何かしてもらおうかな~」
唇に、ちょこんと何かが当たって、驚いて目を開けた。
「これかな?」
アメを口元に持ってきて、そのまま口の中に入れようとしたから、慌てて手で受け取り口に入れた‥手に乗せてくれると思っていたから焦った。
「当たった?」
まるで気にしていない様子で、あたしが気にし過ぎなのかと思えた。
「あっ好き…なんだっけ?この味‥」
「ママの味だよ~好きだと思った」
無邪気に笑っている。
なんだこの…スッと入って来る感じ‥
「当たったから~何してもらおうかな~」
あたしの顔を覗きこんだ。
「約束してないよ」
「これから‥俺んち来る?」
ん?危ない。流れで思わず頷くとこだった。
チラッと瀬戸の顔を見ると目が合った。
「みんなで」
フフっと笑い、瀬戸が立ち上がった。
「寒くない?」
「そうだね」
ジャケットを脱ぐと、あたしの肩にパサッとかけた‥と同時にサキ達がいる皆の所に歩いて行き、何やら話をしている。サキが走って来た。「寒いから~瀬戸んち行こうだって」
あたしの手を掴んで引っ張った。瀬戸達もこちらを見ながら歩いて行った。
あっ‥ジャケット‥
瀬戸は横目でクスリと笑った。
「瀬戸んちって行った事あるの?」
「皆、小学校一緒だったからね~親と別だから気楽だよ」
危険の間違いじゃないのか?
やがて平屋が並ぶ場所に着いて、皆、慣れた様子で家の中に入って行った。先に入った瀬戸が中型犬を抱いて出てきた。
「ぺぺ」
外の犬小屋につないだ。
「入って」
あたしを、後ろから押すようにして中に入るとドアを閉めた。
「ゆう、こっち来て座んなよ」
サキがコタツに入り手招きした。
「サキ~いいから飲めよ~」
サキと仲の良いカンジくんが絡み出した。
「何よ~あっち行け」
いつも二人はこんな感じだ。
「ちょっと、こっち来て」
瀬戸が耳元で囁いた‥戸惑って聞こえないフリをした。
「見せたい物あるから」
細切れに話すの止めてくれないかな‥無駄に焦る。天然なのか、狙ってんのか‥
「ん?何?」
アメの事もあるから警戒しながら、瀬戸に連れられて隣の部屋に入った。
「見て。あるでしょ永ちゃん」
沢山のカセットテープやレコードを見せてくれた。
「キャロルもあるじゃん。サザンもいいね」
「聞きたい?そこ座って」
ベッドとテーブルの間にクッションを置いてくれた。二人で並んで黙って音楽を聴いた。
あれから、ずっと居心地が悪かった‥夜が来るのが怖かった‥今なら不思議と眠れそう‥なんだろう‥妙に落ち着く‥
「眠たかったら寝ていいよ」
瀬戸はサラッとあたしの髪を撫でた‥
その途端、逆に眠気がとんだ。
「そろそろ帰るね」
「また来てね」
なんとも言えない眼差しで見ていた。
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