第7話 第一回魔術訓練会・上
「じゃあまずは、二人の<魔力循環>の練度を確認していくぞ?」
「はい!」
二人の元気な返答に満足感を覚えつつ、<魔力視覚>で<魔力操作>及び<魔力循環>の
<魔力放出>を覚えるには<魔力操作>を上達をさせないといけない。
先ほど自分で試した通り、大岩の操作が<魔力放出>で<魔力操作>が小石を操るレベルと例えることができる。従って、基礎である<魔力操作>が上達しないと<魔力放出>をすることができないのではないかと考えている。
「どうでしょうか? 私の<魔力循環>は」
「私のもどう?」
二人の<魔力循環>は拙いながらも、それなりの早さで魔力を巡らせていた。
今日、技術を習得したとは思えないほどの練度の二人の<魔力循環>は視ていて美しいとすら感じてしまう。
「よし、次は体のどこでもいいから魔力を集めてくれ。<魔力集中>だ」
「わかりました、先生!」
「はい、頑張ってね〜」
先生という言葉の響きに心を躍らせつつ、<魔力集中>を視る。
「簡単ですよ、シルヴィオ様! このピオ、一刻も早く村の貧困を増長させる悪しき獣を殺しましょう!」
「さっきは危険だから使いたくないみたいな雰囲気出してたくせに、手のひらを返すな。見苦しいぞ、セバス」
「ピオさん、意外と戦闘狂だったんですね? ライモンドさんの部下だからでしょうか??」
「うっ、若き日の心躍る戦を思い出してしまいました。すみません、みなさん」
額に手を当てて後悔しているように装っているセバスは、後悔しながら<魔力集中>を維持していた。
チッ、才能人め!
「ともかく、<魔力集中>もできてることを確認できたから、次は<魔力放出>だ!」
「……放出って何? どうやってやるの?」
「私たちの体の中に宿るエネルギーを外に出すことができるのでしょうか……って先ほどシルヴィオ様が可能だと証明していましたね」
「<
俺の言葉に返答せず、黙々と魔術を発動する二人。魔術が発動した際に生じる微量な魔力の放出と、その感覚。輝く魔力と体内の魔力の違いについて。二人ががむしゃらに魔術を何回も発動させてコツを掴もうとしているのを俺は観察していた。
––––放出した魔力が元素と反応して魔術が発動しないのは何故だ?
ちょっと試してみるか。
「<魔力放出>」
ガラスから溢れる魔力は白銀に輝き、体外へ出る。
体内の魔力は白銀に輝いていなかったのに、外に出ると輝きを放つようになっている。
この輝きどこかでみたような……?
「シルヴィオ様? これが魔力放出でしょうか」
「うん、そうだよ。って、もう出来るようになったのかよ……」
「ふむ、どうやらこれは<元素>の輝きと似ているようです」
「…………ああ、そういうことか!?」
俺はピオの気づきから着想を得た。
放出した魔力を操り、光球を作ってみる。
「おぉ、美しい……!」
<元素>の輝きに似ている、白銀の輝き。
「––––魔力の元素、かもしれないな」
もし、魔力を操作する感覚と元素を操作する感覚が違うから動かしにくいということだったら?
もし、魔力の元素になっていたから<火炎元素>などに反応していなかったら?
でも、魔術を発動するときに少しだけ魔力が放出されて魔力の元素に変化することをどうやって説明する?
いや、至極単純なことだ。
––––魔力と元素を反応させて魔術を引き起こすときに、たまたま魔力が漏れて魔力の元素––<魔素>––が発生していただけ。
元素のカテゴリーに属する魔素が他の元素と反応を起こさないのは当然の結果。
ただ、魔力は体外に出ると変質するという事実がわかっただけ。
「すなわち、<魔力放出>を完全なものにするには<魔素操作>あるいは<元素操作>のような技術があると良い……?」
「ルヴィ、<魔力放出>できたよ!」
俺は思考を一旦放棄してアリスの<魔力放出>によって現れた<魔素(仮称)>を視る。
アリスの魔素は白銀に輝きながら、くるくると回っていた。
「体の中にある魔力と外に出た魔力の操り方の違いを発見しちゃいました!」
「やっぱり……やっぱり、魔素なんだな! アリス、その調子で<元素>を操ることはできるか?」
「えぇと、やってみるね!」
突然、天啓が降りた。異界の囁きだ。
––––『元素操作』
<魔力>の量で大きさと威力を設定して<魔素>で速度と道筋を加える。<火炎元素>とかの量で更なる威力が加えられる。あとは心の中で<対象>を設定することで炎球を作ることが可能。
アリスが魔素を操るように元素を操ることさえできれば––––
「––––視て! 火炎元素を操れたよ!」
世界が開けたような感覚を覚える。魔力を操れるなら、元素を操ることも可能、なのだろう。今回ばかりは、アリスの才能に感謝しよう。
これがあれば、本物の攻撃魔術を作ることができるはずだ!
「凄い! 凄いよアリス! 次はありったけの元素を集めて<攻撃魔術>を発動してみて!?」
「う、うん! わかった!」
アリスは(周りの元素を集めてから、<
「行け〜!!」
蒼炎は庭の草原の一部を燃やし尽くした後、霧散した。確かに火力が上昇している。やはり、火力の上昇は元素の量でも決まるのか。
「さぁアリス。魔術の名前を」
「じゃ、じゃあ<
新攻撃魔術、<
「シルヴィオ様、ピオはついて行けそうにないです……」
頭がこんがらがっているというピオに、現象とプロセスについて説明をする。
・元素量と魔力量が増えると火力が上がる。
・魔力は体外に出ることで魔素になる。
・魔素は元素のカテゴリに属するもの。
・<元素操作>を用いることで周りの元素や魔素を操作して、術の火力や速度を上げることができる。
・《<元素操作(火炎元素)>→<元素集中(元素を集めること)>→<魔力操作>→<魔力集中>→<
「なるほど……少し試してみましょうか」
<魔素>や<
俺も負けじと魔素や元素の操作の練習をする。
白銀の光球に意識を向ける。俺は何回も魔力放出によって外部に出た魔素を操作したことがあるから、難なく動かすことができた。しかし、魔力操作ほど簡単にできるわけではなかった。
「ルヴィ、こうやってやるのよ」
「え?」
アリスが俺を後ろから抱き締めると、格段に操作しやすくなった。そして、暖かい魔力が俺に流れてきているのも確認することができた。
––––ポカポカする。
「ほら、集中して」
「あ、ああ。もう操作方法はわかったよ。ありがとう」
「はい、どういたしまして」
妖艶な表情で笑みを浮かべるアリスを見て、どこか心臓が痛んだ気がした俺はそっぽをむいて<元素操作>を行う。
アリスの<魔素操作補助>のおかげで<元素操作>のコツを掴むことができた気がする。
それにしても、なんだったんだろう。あの、暖かい魔力は。
まあいいや。
魔力は大量にある。元素も動かせる。新魔術の開発といこう!
先ず、空気中に漂う<雷光元素>を操作して、手のひらに集める。続いて魔力も手のひらに集中させる。
初期魔術の発動準備が整った。
「<
術の名を唱えると同時に、手のひらに紫電が発生する。バチバチと音を立てて暴れている紫電。魔力がある限り、微弱な雷が手のひらから数センチ上空に落ち続けているのだ。
「よし、こんなところかな」
続いて魔力の放出。
表面張力的な壁を突破する練習はすでに何回も行っている。
従って、容易に魔力を魔素へと変換することができるのだ。
「<魔力放出>完了」
そしたら、少し動かしにくい大きい石を動かすだけ。
魔素による雷撃の道筋の作成のフェーズ。
車両と言える<
俺は前方に手をかざす。
対象はちょうど庭に侵入してきた兎だ。
重い魔素を思い切り紫電にぶつけた。
「<
ズドン、と音を上げながら紫色の光が前方に飛翔する。
「キュッ……!」
兎は間抜けな鳴き声をあげるとともに絶命した。少しかわいそうだが、これが弱肉強食だ。今晩はこのウサギの肉を食べることにしよう。と、呑気に弱肉強食について語りながら俺は歓喜していた。いや、内心狂喜乱舞している。
「完璧な攻撃魔術の作成に成功したからね……!」
「素晴らしい技術です! そろそろ私も頑張りますぞ!」
「この力、益々気をつけて使わないといけないわね」
そうだ、こんな力が他の人––悪人や敵––に渡れば自分の命が危ない。
「十分に気をつけながら研究をしていこう。ってことで、今からみんなで魔力増強訓練を始めるぞ!」
「あら、ルヴィ? 分かっているのかしら? もちろん訓練はするけど、本当に危ないのよ?」
「分かってるやい! みんなで協力して発展させて、食糧不足を解決するんだ!」
「私も熊を殺せるような魔術を習得してみましょう!」
ふむ、魔力増強訓練の参加の承諾は取れた。
「さあ、始めよう! 筋トレをね!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます