第5話 研究・Ⅱ
「まずは、現象の確認だよな」
魔力を火炎元素にぶつけて<
「不思議だよな〜燃えてるのに俺には火がつかないんだから」
自分が発動した魔術は自分に害を及ぼさない。
「とりあえず、確認はできたから消そうか。って消えない?」
木を振って火を消そうとするが、一向に消えない。じわじわと燃えていき、最終的には炎が消滅した。至極当然の結果なのだけれど、消失の仕方に違和感を覚えたのだ。
まるで、薪を燃やし尽くそうとした炎が役目を果たせず姿を消したように。
「これは……もう一回試してみよう<
次は<魔力調節>を行って火力を少し高めて<
指を薪に近づけると、一気にボーっと燃え盛る。
「やばい! 家が燃える!」
先ほどの2倍魔力を込めた炎は薪全体にまとわりついていた。
危機感を覚えた俺は必死に炎を消そうとするが、意味をなさなかった。
「まずいぞ、家まで燃えたらピオに叱られるッ!?」
しかし、床には引火せずに炎が消失する。
「なるほど……? とりあえずわかったことは、魔力量によって魔術の大きさが変化すること。引火しなかったことと俺の魔力量が増加していたことが疑問だが」
<点火>は対象に火をつけて燃やす術だとしよう。
魔力が少ないと小さい火しか発生しないけど、魔力を増やせば火を大きくできるし火力を上げられる。
それに、魔力によって現象の大小を変えることができるということが明確になった、はず?
続いて、疑問について。薪を燃やした後、床に引火するだけの力があったはずだ。
なのに、床に引火せずに不自然に消失するというのはおかしい。
なにか未知のルールがあるはずだ。
「––––俺が魔術が及ぼす影響の<対象>を無意識に設定していたとしたら?」
2本の薪を並べて、右を燃やして左は燃やさないということを意識して点火してみる。
「<
指を左側の棒に近づけても火が移らない。しかし、右側の棒に近づけると、火が移る。
少量の魔力で発動した火はすぐに消えた。
「やっぱり! 魔術は定めた対象のみに影響を及ぼすことができるルールがある!?」
特定のものを燃やすことができるのなら、草木を燃やさずに生き物を殺せる魔術を作れるんじゃないか?
「俺を対象にすれば俺を燃やせる? <
極々微弱な魔力で点火してみたからよかったが危うく焼死体が出来上がるところだったことを考えたら、寒気がしてきた。反省しよう。猛省だ。けど、この<対象>というルールが正しかったことを把握することができた。
「となると、攻撃魔術が欲しいな……」
この対象というルールを活かして魔術を放出することはできないか……。
異界のナニカが囁いているのは、魔力操作→サイズと威力の調節(魔力調節)→対象設定→射出速度設定→発動のプロセスを辿れば可能なのではないか、ということ。
「魔力を肉体外に出すことができれば……そう、魔力で速度を加えるような感じで」
魔力を肉体という器の外に放出する方法を考えながら、<魔力循環>を行う。
心臓ポンプの鼓動と同時に放出する血流に魔力をのせるように、ぐるぐると体内を巡らせる。足の指先から脳のてっぺんまで、全身を血流と同じように規則的に巡る魔力。
––––魔力を体外に出すには??
指先に魔力を集める。右手の人差し指に魔力がギュッと集中した後、火炎の元素に触れさせて<点火>を発動させる。一瞬だけ魔力が輝き、小さい炎が現れる。
ん? 触れる……?
「元素に触れさせる時に外部に出ているじゃないか!」
確かに体という器の外には出ていないけど、例えばガラスのコップに水をいっぱい入れても表面張力で漏れないみたいに、指先にギリギリ保たれているのだ。そして、魔術の発動の時に一瞬だけ輝いて外に出る。
無意識でできていたということは意識して練習して、精度を上げれば完璧に放出することができるのではないだろうか?
「ありったけの魔力を指先に集めれば、ダムの放出みたいに魔力を放出できそうだよね」
循環している魔力の大部分を指先に集める。特に変化はない。
更に魔力を集める。なぜか増加した魔力を全て指先に集結させるつもりで!
<魔力視覚>
俺の人差し指に、大量の魔力が集まると同時に一気に外部へと流れる。白銀の魔力が輝きを増して、俺の指先から少しだけ離れたところに現れる。放出されたのだ。
「成功だ! <魔力放出>が可能になったんだ!!」
うわ、操作が難しいな……。
体内魔力操作が軽い石を動かしている感覚だとすると、体外魔力操作は大岩を動かしている感覚だった。それでも成功したことに変わりはない。
「<点火>」
俺の指先から小さな炎が生成される。
「<魔力放出>で速度を付け加えて……!」
器から出てきた魔力を<火炎元素>にぶつけて吹っ飛ばす。
<魔力調節>でサイズを変更。<対象>を意識することで影響を及ぼす相手を決める。<魔力放出>で速度と道筋を設定することができる。
<魔力放出>で外に出た魔力で線路を作り、魔術に加速度を追加するのだ。
そうしてできた魔術が––––
「––––<
小さい炎の球が<魔力放出>––ダムの決壊––によって生じた速度で前方の窓の外へ射出される。しかし、魔力量が少なかったのか窓の外に出る前に霧散してしまった。
保有魔力量を増やすことができれば、攻撃魔術の完成系を作ることができるということ……だよな?
「よっしゃあ!! <攻撃魔術>の開発に成功したぞ!!」
これを使えば、熊を殺せる! 例えば、遠距離から雷撃を放てれば、感電死させることができるはずだ。ただ、消費魔力がとてつもなく大きくなってしまうのが問題だ。
「でも、一先ず情報をまとめよう。頭の中を整理しないと」
・魔力量によって魔術の大きさが変わる。
・魔力量によって若干、威力が上がる。
・魔術は設定した『対象』のみに効果を及ぼすことができるというルールがある。
・”意識するだけ”で『対象』を決めることができる。
・特定部位に魔力を集中させることで魔力を体外へと放出することができる。
・<魔力放出>は大量の魔力を消費してしまう。効率化の方法があるかも?
・攻撃魔術プロセス
《<魔力操作>→<魔力集中(特定部位に魔力を集中させること)>→<
この<魔力放出>を使えば<
色々と応用が効きそうなのが<魔力放出>に対する評価だ。
「う〜ん、魔力量の問題をどうするかだな」
俺は考えながら、<魔力循環>をして魔力を消耗したことによる辛さを紛らわしていた。
「あれ、こんなに魔力を使ったのに魔力切れを起こしていないぞ?」
思えば、数時間前に庭で魔力切れを起こしてから<魔力循環>と<瞑想>をしていたら、魔力が回復していった。それから、<
––––魔力切れからの回復による魔力量の増大が期待できる?
「筋肉痛が魔力切れによる倦怠感と吐き気だとすると、超回復による筋力が増えることは魔力量が増すことに当たる、か」
<魔力超回復>とでも名付けよう。詳細は後でセバスとアリスで実験して確認すればいいや。
「<
俺の指先に、紫電が迸る。俺に電流が走ることはなかった。対象を空中にしていたからだ。
魔力を指先に集めて発生する一瞬の電流を放出する攻撃魔術を作りたい。
<対象>の設定を間違えずに感電死させれば、上質な素材を手に入れることができるはずだ。
「さて、魔術開発をしよう」
といっても、紫電を飛ばすだけだが。
ちなみに<
そんなわけで、<紫電>の攻撃魔術の名前は––––
「––––<
ヒュッと紫色の小さく電圧の低い雷が微炎球と同じく窓の外へ射出される。
微炎球より魔力放出に消費する魔力を多くしたため、完全に窓の外に出ていた。
「次は水の弾丸を作ろう」
続いて、<冷気元素>の攻撃魔術も開発だ。
<冷気元素>初期魔術––『魔力を集めて元素にぶつけた時に起きる魔術』––は<
この<
「<魔力調節>で大きさを変更。<魔力放出>で魔術の線路を作成するという感じか」
「<
今度はサイズを小さくして、魔力放出に魔力を注ぎ込んだ。
サイズより速度を優先した形だ。
水の弾丸は窓の枠にぶつかり、傷をつけてから霧散した。
魔術で物質を生成してもすぐに消えるのだ。
「質量があるから速度でも威力が変わるということか」
これなら安全に熊を殺すことはできるけど、傷がついてしまう。どうにかして雷の強化をできるようにしたいな。<対象>を脳にすれば楽に殺せそうじゃない??
まあ、<攻撃魔術>の作成が可能となったからひとまずはよしとしよう。
「さぁピオ、お前が役立つ時が来たぞ!」
<魔力循環>ができるようになったお前なら、何回も魔力切れが起きてもすぐさま治療できるだろう?
大丈夫、俺も一緒にやるからさ!
「一緒に熊を殺しに行くぞ!」
俺は自室を後にして庭にいるピオたちの元へ向かった。
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