処女中枢讃歌、懸想に集く 一

 村々をめぐりし風に跨る放浪人が、街を訪れた。

かつてはカキツバタのように爛漫で、

かつその花の色は椿の花街であった。


無論、そのことは放浪人、彼もよく心得ている。

というのも、彼自身、この地にて幾星霜、

一人の『老鶯と名乗る生娘』と目合まぐわい、

そのみと*に、その蠱惑に、まさしく虫々のごとく

吸い寄せられた者の一人であるから。


しかしその獣色の弥栄に注がれたこの地において、

今は下水の剰水せせなぎが井戸に流れ込むほどの荒れようである。


立ちこむ異臭は霧雨に紛れて地に伏すなか、

立ち並ぶ茅屋ぼうおくとは寸毫も馴染む気のない

冬茜よりも深紅の着物を纏ったうら若き女が

背にひどいこくみ*を負いて茅屋の戸の前に立ち尽くしていた。


彼女には見覚えが確かにあった。


「いや!そこにいらっしゃるは、かつての総籬*の娘、芽妹華天巫女つめはなのあめのふじょ*なのですか!この地へはいかにしていらっしゃるのか。」


「これは…放浪者どの。またもお会いできて幸甚の至りです。しかしながら申し訳のない限り、

私はとうに巫女ではございませんゆえ、芽妹華天と呼んでくださいまし。」


「ではその召し物はいかがしたのだ。

うるき星*のもと、この家の奉公人としてここにおわすのか。」


娘は口を噤んだ。

雨に打たれた鈴蘭の鳴る音が聞こえるほどの静寂がここに芽吹いた。

これを食んだのは、彼女の背のこくみである。


「なるほど。その着物に隠していたこくみは一つの生命だったのか。たしかにそれを背負うからには、巫女ではいれぬか*。」


「この子がいる限り私の巫女としての務めはもちろん、奉公人としてもこの穢れた老鶯には難しいことでしょう。ですので私はこくみを背負い、我が子を隠して…と。」


「だがこれだといずれは『こくみ』*になるであろうな。ふむ、老鶯と言えど未だ花盛りの節。今日を佳節とするのであれば、おまえに良き案があるぞ。」




*以下注釈


*「みと」…男女の生殖器の敬語表現。

 「こくみ」…瘤のこと。また、くる病とも。

 「総籬」…江戸は吉原の遊郭において最も格式の高かった遊女屋。ここではかつて娘のいた遊女屋を「総籬」と例えることで、遠回しに娘を評価している。

 「芽妹華天巫女つめはなのあまのふじょ」…娘の名前とその役職。娘の名前は「芽妹華天つめはなのあま」であり、その役職は「巫女ふじょ(みこ)」である。これは巫娼からきている。

 「うるき星」…二十八宿の一つである「女宿」の和名から、ここでは女宿、つまり女性の奉公人を引き受けて世話をする家のことを指す。

 「たしかに…いれぬか」…巫女は妊娠するとその役を降りることが多い。

 「こくみ」…上記くる病はビタミンDの不足によって引き起こされる病でもある。ビタミンDは日光をあびることで生成されるため、赤子を着物の内や貧しい家の中に居続けさせるとくる病になるだろう、という放浪者の忠告である。

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