稚児の救済

 さて、時計台の鐘が鳴れば、

凛厳りんげんたる浦塩ウラジオストク*地名の、

枯れた苔むした古城に響くのだ。


震える街灯スネグールカをその身で暖めんと、

無数の白椿が天上ヴァルハラの扉からちては、

この大地に積もって咲き乱れ。

天一路てんいちろと続く彼女の足許あしもとで、

たむろしてはこぞって宴に持ちかける。


すいもきけぬ彼らは気づけやしないのだ、

おのが身にながらえる寒波ジェドマロースの抜け殻に。


寒波というのは、西の辺垂へんすいから東の海境うなさかへと、

若く細い焚火を踏みつけながら、

書の読み散る速さではしりしものとは言条いいじょう

時とすると、

彼は揺籠ゆりかごとその中に10ルブレイを入れて、家々にめぐり来たることもある。


ふと、彼が深々しんしんたる鬱蒼うっそう、森の奥で、

鶏足にその身を預ける古小屋に入りこんだところ、

暖炉の灰に足を埋めて火搔ひかき棒で山を作る少年が、

せわしく、肩を吹雪の音色に合わせた震動で座る。


寒波がわざとらしく少年に尋ねる。

「薪はあるか」


この頑是無がんぜのない少年はこう言うのだ。


「すいませんが、ここにまきはございません。


そして、さきほどから私を見て肩を震わせながら笑う、小屋の窓達の一人も仰ったのです。

えらくこの部屋は暗いのだな、灯りをつけてはどうだ、と。


私は気分を害され、彼をこの火搔き棒で殴りつけてやりました。

今、彼は私に怖気付いたのか、私に背筋の凍る厭世えんせいの話をし続けてくるのです。


ここはとても寒い。」


寒波は少年の話を聞くや、

おもむろに少年の火搔き棒を奪い取って、こう言うのだ。


「俺は今おまえに気分を害された。

おまえの窓にした短慮たんりょなる愚行ぐこうは、

俺を腐すのに十分である。


窓はおまえを酷く恨んでいる。

私は思慮深くあるがゆえ、

彼を揣摩しまし、

おまえをこの火搔き棒で殴ってやろうと思っている。


しかし、俺は今おまえの身の上を知ってしまった。

ひいては、

その落魄らくはくさは、

悲愴ひそうを奏でることに十分である。


おまえの微笑ほほえみに勝るものはなく、

その水車に絡まりし水の落ちるに模した、おまえの歯ぎしりを止ませ、

俺はおまえに心から救済を分け与えるつもりになった。


報いはみな平等に受けるべきであり、それは相殺そうさいされることのない、絶対的な授刑じゅけいである。」


寒波は、

少年の頭をつかみ、彼の首を

窓枠に今か今かとナイフを突き立てて待ち構える窓の残骸ざんがいへと落とす。


切り裂かれた喉元から流れる少年のけがらわしい血を、ウォッカの残るびんみ、

それを少年に飲ませる。


火搔き棒が少年の美麗な金色の髪に差し迫る。

少年は自分が最も不快と焦燥しょうそうと不安を感じる言葉を聴かされている状態におちいり、

偶感ぐうかんの全てを吹雪の中、こだまさせた。


こだまが揚々ようようと帰した時、

千切れた朱色の首落花くびおちばなは白椿たる雪に混じって、微笑みながら凍る血池に落ちていた


 さて、時計台の鐘が早朝を教えてくれた。

小屋の前には揺籠と10ルブレイと、太字の濃い赤で書かれた手紙が置かれていた。


手紙は風にめくられ、その身体を存分に伸ばす。

「メリークリスマス!」

と、腹に書かれていることも知らず。

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