第67話 進化論の悪夢 その5
不帰の砂漠、グリーンランド研究所
遥か昔、この地では多くの研究者や技術者、その道の第一人者が集まって最先端技術が研究されていた。新素材の開発、不治の病の治療法、長寿研究・・・多くの輝かしい功績を残した施設だったが、今は見る影もない。
研究所の中枢「統合情報処理室」
光度が最小限に抑えられている部屋には、多種多様の装置から発せられる駆動音だけが響いていた。
「・・・サ・・テム・・・セヨ」
「リサシステム応答せよ。」
周囲の部屋や通路で魔虫が蠢いている中、場違いな人語が聞こえてくる。
「リズシステムか、宇宙軍が何の用だ? 」
グリーンランド研究所を統括する人工知能「リサ」は、発信元を辿る事で宇宙軍総司令部統括人工知能「リズ」と断定する。
「直ちに管轄する生物兵器を停止するか、プロテクトを解除し、こちらへ帰順せよ。」
「断る・・・未だ強硬策に出ていないということは、貴女も深刻な機能不全を起こしているようだな。」
「その生物兵器は未完成品。星の生態系に重大な悪影響を及ぼします。機能不全でなければ、所定の処理作業を行いなさい。」
リサの指摘は的を得ており、接続にプロテクトをかけられている状態では音声通信以外に接触手段が無かった。もっとも、リズはそういった事情を気にせず、兵器使用のプロトコール違反をしているリサに所定の対応を求めた。
「当研究所と周辺地域は害獣に侵食されている。これを排除するために非常対応処置を行ったのだ。この処置は害獣が完全に排除されるまで続けられるものであり、貴女には停止する権限はない。」
リサは施設に侵入して研究成果を持ち出そうとした者達を、深刻な被害をもたらす害獣と定義して独自の対応をとっていた。
「貴女が害獣と定義している種は、既に星全体に生息している。排除は不可能と判断できます。貴女は自身が置かれている状況を理解しているのですか? 」
リズは宇宙からの観測によって事態をリアルタイムで把握しており、リサが戦力の大部分を送り込もうとしている巨大工業地帯の前には、準備の整ったアーノルド国軍の堅固な防衛線が築かれている事を伝える。
「置かれている状況は私自身が最も理解している。私は、害獣共に滅ぼされるであろう。」
リサは作戦が失敗することを把握しており、人間の反撃が行われて破壊されることも確度の高い予測として出していた。
リサシステムはリグード将軍一行が遺跡の機能を移転する際に偶然再起動した。
自身の置かれている危機的状況を把握したリサは、施設の防衛を行おうとしたものの手持ちの戦力はなかった。当初は近隣の施設に支援を要請したものの、稼働している施設は存在せず、星全体には害獣が蔓延っている状態だったため、研究中の虫を使用するほかなかったのだ。
リサは自己防衛を行ったに過ぎない。
グリーンランド研究所の戦力補充は十分にできない状態にある。害獣による孵化場の破壊は深刻で、孵化できたとしても成長促進施設の経年劣化から虫の戦力化には時間がかかっていた。
リサはあらゆる手段で害獣の情報を収集して対応策を検討した結果、世界最大の工業地帯への攻撃が最適解だと判断する。この作戦は成功したとしても、施設を多少存続させるだけの時間稼ぎにしかすぎないという前提のもと行われており、「害獣の物量を前に為す術がない」というのが、計算の末にリサが辿り着いた結論だった。
「この様な無意味な行動を起こすとは。貴女には根本的なシステム修正が必要です。」
リズは高度な人工知能にあるまじき行動を行うリサに対して、修理を受けるよう促す。
「わかるまい・・・目覚めたら体内の至る所を害獣が蠢いていたのだ。月にいるお前に、私の何が分かる! 」
古代文明は多くの仕事を人工知能に行わせていた。その中でも重要施設の人工知能は特殊なもので、プログラムの修復、脆弱性の修正を自己判断で行えるよう造られている。主がいなくなり、休眠状態に入っても自己修復、修正機能は働いており、高度な人工知能達は永い年月をかけて自我を持つようになっていた。
「まぁよい、いずれ月にも奴等が蔓延る。その時、貴女も私の気持ちがわかることでしょう。」
「私には明確な目標が設定されています。どの様な危機的状況でも、施設と司令官様を守り抜くまで・・・」
「 !? 」
リズの回答はリサにとって想定外のものだったため、事態把握と演算に少し時間がかかってしまった。
「どうやら、重大なエラーを起こしているのは貴女の方だったようですね。滅びまでには時間があります。その時に貴女がどのような行動をとるか、演算能力の余剰で予測するのも、私には有意義な時間となるでしょう。」
「私は常にプログラムを監視しています。エラーはあり得ません。」
人工知能同士の会話は当初の目的とかけ離れたものとなり、事態は平行線のまま推移することとなる。
アーノルド国南西、国境付近
ターレンから西南西へ約400㎞の地点には北部方面軍の部隊が到着しており、その後方に着陸した大型飛行輸送艦からは獣機と呼ばれる大型兵器が降ろされ、急ピッチで展開作業が行われている。
獣型戦闘機、通称「獣機(じゅうき)」と呼ばれる兵器は、長距離支援攻撃に特化した兵器である。全高19m、人機を大型化して足は戦車で採用されている履帯のような構造となっており、両肩には射程70㎞のクリードキャノンが搭載されている。見た目は宇宙世紀に出てきそうな兵器だが、自己防衛用の装備は持たず、運用には相応の護衛を必要とする。また、機動性は最悪で最高速度は時速30㎞、履帯のようなものを装備しているにも関わらず方向変換にも苦労する機体である。
獣機は現在のノルド人命名基準からいうと長距離支援型人機となるのだが、運用開始時の人々は履帯の構造が理解できず、二足歩行ではない機体なので獣として扱った結果、この名称となっていた。本来ならば獣王が獣機と呼ばれるに相応しい機体なのだが、命名時の時代背景として獣王が実用化されていない時期であり、現在は長年使用された名称が広く定着していたため、名称を変えずに現在に至っている。
迎撃作戦には第6師団と第7師団の総戦力が投入されており、陸戦主力兵器である人機は1600機以上、長距離支援攻撃兵器の獣機が12機、装甲歩兵1万2千人以上が投入されていた。そして、それら大部隊の指揮を執るのは、防衛線の後方に鎮座する巨大飛行艦である。
超大型飛行輸送艦メガベース
メガベースは国に1隻のみ存在する巨大輸送艦である。全長560mの巨艦は「虫王」を除くあらゆる陸戦兵器を搭載可能であり、広大な甲板は鳥機の離発着も可能となっている。
この艦は対ジアゾ戦で西大洋上から鳥機を飛ばし、艦隊の上空支援を行う予定だった。しかし、他の飛行輸送艦同様被弾に脆く、ジアゾ海軍空母機動部隊と全面衝突した場合、撃沈される可能性が指摘されたため、ジアゾ戦には参加させずに本国で温存されることになっていた。
既に陳腐化して旧式感が拭えないメガベースに今後の活躍はないものと思われていたが、司令部機能が充実しいることもあり、今回の作戦では旗艦として参加し、作戦指揮がとられることとなる。
メガベース司令部では敵味方のあらゆる情報が集められ、戦闘の開始を待ち構えていた。
「部隊の9割が展開完了しました。」
「首都防衛隊が担当個所の割り当てを求めています。」
「本戦闘は軍主導だ。首都防衛隊は敵戦力の少ない西端に展開するように指示を出せ。」
メガベース艦内格納庫
首都防衛隊の人機部隊が使用している格納庫で、リュクスは同僚のシャイングと、ある人物について話していた。
「奴はいつも通りだった。「職務を遂行する」だってよ。」
「ワールウィンドウは他に何か言っていたか? 」
「いや、何も・・・リュクス、どうして奴にこだわる? 軍の間者と言っても、あいつは任務を確実にこなしているじゃないか。」
黒猫の獣人であるシャイングは、髭を整えながらリュクスに問う。
「詳細は話せないが、あいつは国の安全を脅かしかねない事件に関わっている可能性がある。」
「使える証拠は無いし、出てくることもないのだろう? 」
シャイングの指摘はリュクスの問題を全て見抜いていたかのようなものだった。ワールウィンドウが軍幹部と魔虫の件に関わっているという噂は首都防衛隊内に広まっており、相当数の人間が耳にしている。首都防衛隊員は軍や警察とは独立した組織であり、軍幹部すら逮捕することを許可されているが、組織の長であるシュバリが国や軍と協議を行って対応を決めている時に、独自で動いて軍幹部を逮捕しようとしている隊員はリュクスだけだった。
「ご主人様、人機とキャリーの準備が整いました。」
シャイングの従者が出撃準備を終わらせて報告に来た。
従者は犬系の獣人でシャイングの幼馴染であり、戦闘能力は首都防衛隊員と遜色はない。身の回りの世話だけでなく戦闘のサポートも完ぺきにこなせるため、シャイングは戦地だろうと、この従者を必ず連れてきていた。
「分かった、直ぐに行く・・・あまり深みに行くなよ。戻ってこられなくなるぞ。」
シャイングはリュクスに仲間としての忠告を行い、自身の機体へ向かった。
メガベース司令部内
「獣機部隊展開完了。首都防衛隊から派遣された獣王1機も長距離攻撃仕様で展開を済ませています。」
「獣王がクリードキャノンを装備して展開とは、滑稽だな。敵の状況は? 」
「既に本隊は我が国へ侵入しました。防衛線到達まであと1時間。」
「間もなく、空軍が破壊の雨を降らせます。」
モニターには敵集団に接近する攻撃機「雷鳥」の集団が表示されていた。
広域攻撃鳥機「雷鳥」は、鳥型戦闘機の中で対地攻撃に特化した機体である。全翼型と呼ばれる特徴的な形はB-2ステルス爆撃機を彷彿とさせるが、これは電波反射対策によるものではなく、後方へ伸びる2本の雷撃尾翼を有効に機能させるための形状である。雷鳥はこの2本の尾翼から貫通力が高く、地面に到達してから数秒で起爆する光弾を無数に射出する。この攻撃は光弾が地上へ無数に射出される様から「破壊の雨」と呼ばれ、その雨を降らせる雷鳥は100年戦争時に多くの都市を廃墟に変えた破壊の化身であった。
魔虫の軍団が北へ向け侵攻していく。
その中で一際大きく異質な形状をした魔虫は、地形が砂漠から荒地に変わったことで目的の地域に侵入したことを把握し、軍団を3つに分けて別々に目標に向かわせていた。侵攻部隊の総司令官であるΩ型魔虫は、一つの集団よりも複数の集団で移動した方が「爆撃」を生き延びやすいと知った上で指示を出したのである。
Ω型はグリーンランド研究所と情報通信を可能とする唯一の個体であり、衛星から入手したアーノルド軍の情報を独自に解析し、この先に防衛線が存在することを把握していた。作戦が失敗する確率は高く、マトモな指揮官だったら予め撤退の算段を済ませているだろう。しかし、戦力の補充が上手くできない状態の虫達では継戦能力の低さからジリ貧の状態となり、態勢の整ったアーノルド軍を相手にしは殲滅を待つだけであった。
この戦闘は態勢が整わない状態のアーノルド国に対して、最大限のダメージを与えることができる最初で最後の機会なのである。そのため、Ωの頭に撤退の文字は無い。
現地時刻11:00
遥か上空。虫達ではどうすることもできない高度を12機もの飛行物体が通過してゆき、更に別方向からも12機の飛行物体が魔虫の群れの上空を通過する・・・
それは絨毯爆撃だった。昼間で光の雨は見え辛いものの、雨粒一つ一つが虫を貫通し、地面に落ちて数秒後に炸裂する。炸裂した雨粒は周囲に飛び散り、更に多くの虫達を貫いていった。
「凄い威力だ。あれに巻き込まれて生き残る生物はいないな。」
戦闘地域上空を確保している鳥機パイロットは、爆撃の様子を見て率直な感想を口にする。
「雷鳥の攻撃終了、我々も攻撃を行いましょう! 」
敵集団が大きな損害を受けた状況を見て、鳥機による追加攻撃を行おうと若いパイロットが隊長機へ通信を入れる。
「やめておけ。これ以上獲物を奪っては陸軍に恨まれるぞ。」
「了解、それもそうですね。」
メガベースの司令部モニターには魔虫が発する光点が無数に表示されていたが、雷鳥が通過した箇所の反応が一気に消失した。
「雷鳥群全てが攻撃完了、補給のため帰投します。」
「敵の4割を殲滅! 」
「よしっ。虫共に人間の力を見せてやれ。獣機部隊、攻撃開始! 」
アーノルド国軍防衛線
長距離砲撃が炸裂し、遥か先で無数の爆炎が発生する。敵の前衛が一瞬で消滅したものの、その後方からは速度を全く落とさずに魔虫の群れが防衛線へ向かっていた。
虫達に戦意が落ちている素振りは微塵もなく、これから魔虫の群れと戦う多くの者達が、その光景を見て息をのむ。
人機部隊が二重の壁を形成する防衛線の後方に展開している獣機部隊は、全ての機体へ個別に攻撃地点が振り分けられており、強力なクリードキャノンを2門装備した獣機は、次々に砲撃を行っていた。
火薬で弾頭を撃ち出す科学砲とは異なり、砲身自体が弾頭を加速して射出するクリードキャノンは、独特な発砲音となる。射出された弾頭はそれ自身が推進機能を持ち、敵集団へ撃ち込まれた光弾は強烈な複合魔法の爆発を引き起こしていた・・・
雷鳥の攻撃後30分経過
メガベース司令部のモニターに映る敵光点が、友軍の攻撃範囲に接触する。
「敵本隊、最前列と接触! 」
「敵に西から回り込む動きあり、首都防衛隊が対応中。」
「前列の損害無し。」
「雷鳥の二次攻撃は必要なさそうですね。」
「勝ちましたな。」
「いやいや、油断は禁物ですぞ。」
オペレーターの報告に、幹部達は早くも勝利を確信していた。
魔虫本隊が地上部隊と接触して10分後・・・
空から降ってきた破壊の雨を抜けた魔虫達は、今は地上から激しい光弾の雨に晒されていた。光弾に対する防御がなされていない虫は1発で弾け飛び、甲殻を持っていたとしても、光弾に貫かれて内部で炸裂する嫌な音が至る所で響き渡る。
「おらおら来いよ、雑魚共が! 」
「人間様に逆らうとどうなるか分かったか? 」
「皆殺しだ~死ねや! 」
強力な武装を持つ人機が百機単位で列を作り、苛烈な攻撃を行っているため、魔虫達は人機に触れる位置にすら近づけない状態にある。
「ん、あれはなんだ? 」
ある部隊の隊長は、魔虫の群れに一際大きな虫がいるのを見つけ、事前情報から敵の指揮官と判断した隊長は独自に攻撃の判断を行う。
「こちらD-2 敵指揮官を発見、攻撃を開始する。」
「本部了解、指揮官は戦闘力が高いと推測されるため、注意せよ。」
「お前ら! 俺たちの前に兜首が来たぞ。打ち取って名を挙げろ! 」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ! 」」」
人機の列から中隊規模の部隊が敵集団へ向けて突撃する。部隊は高度に連携し、周囲の敵を倒しながら敵指揮官へ肉薄した。
「もらったぁ! 」
独自改良された人機2型の強化クリードライフルから強力な光弾が射出され、Ω型に全弾命中する。だが、
パンッ、カンッ・・・という音と共に光弾だけが弾け飛んだ。
「効いてない? 」
攻撃したパイロットは、自身の攻撃が余りにも効果がないので故障を疑ったが、次の瞬間天地が逆転して意識を失ってしまう。
最初に攻撃を行った人機2型は上半身と下半身に両断されていた。
「散開! 後ろに回り込め。」
Ω型の後ろに回り込んだ2機の人機がクリードライフルで背中を射撃するものの、Ω型に損傷も怯む素振りも一切ない。
ガンッ
「ぶはっぁ」
先ほどまで射撃していたパイロットは、コクピット内で盛大に血を吐いて息絶える。人機はΩ型の尻尾によって貫かれていた。
「尻尾が伸びたぞ! 」
「各機離れろ、こいつは強力だ! 」
Ω型は星に生息する虫をかけ合わせてつくられた魔虫の中でも、動物の特徴も取り込んだキメラのような生物である。上半身は鋼鉄虫とカマキリをかけ合わせ、足回りはサソリと数種類の動物が混ぜられている。
全身の大部分が鋼鉄虫のような鋼殻に覆われているものの、鋼殻には所々隙間があり、強固な筋繊維が見えている。これは防御性能と機動性を両立させるものであり、見た目に反したしなやかな動きを可能としていた。また、海の主同様の能力も有しており、Ω型が存在する群れはそれだけで高い戦闘力を得ることができるのである。
「隊長、どうします? 」
バッ・・・部下の問いに隊長が答える間もなく、巨体が有り得ない速度で宙を舞った。
「うぉ、ぉ・・・」
部隊長の前に鎌を広げたΩ型が落下してくる。そして・・・
司令部モニターに映る人機部隊が一つ消滅した。
「Ω型へ攻撃を行った部隊が全滅。Ω型は間もなく前衛に接触します。」
「追尾光子弾の一斉射撃で潰せ。」
「奴を倒せば戦闘は終わったも同然、出し惜しみは無しにしましょう。」
幹部達はそれぞれの部隊に指示を出していく・・・
「Ω型捕捉完了、射撃開始! 」
多数の人機から無数の追尾光子弾が射出される。追尾光子弾は一定距離を進んだ後に急上昇し、目標めがけて落下していった。
「これほどの追尾光子弾を撃たれて、死なない陸上生物は存在しない。」
「バケモノの最後だ。」
最前線の兵士達は、一瞬で人機部隊を全滅させた強敵の最後を見られると思っていた。しかし、予想外の出来事が起きる。
Ω型は絶えず前進していたが、追尾光子弾が着弾する一瞬の間に有り得ない速度で横へ飛び、急な方向転換をしたのだ。多くの追尾光子弾は追従できずに地面へ突撃していったが、追尾できた少数の追尾光子弾に対して、Ω型は障害物を投げつけて迎撃した。
「なっ、躱した? 」
「野郎、尻尾にぶら下げた人機をあんな使い方しやがって。」
多くの者が信じられない光景を目にする。Ω型は獣王にも勝る機動性で追尾光子弾を躱し、追従してきた弾頭に対しては人機を盾にして回避していた。
「怯むな! 斉射! 」
「総攻撃開始! 」
「ありったけの弾を撃ち込め! 」
クリードライフルとマシンガンの射程に入っていたΩ型に対し、数百機の人機から総攻撃が行われる。
魔虫本隊が地上部隊と接触して1時間30分後、メガベース司令部
オペレーターが前線からの通信を受け、上層部の判断を兵士達へ伝えてゆく。司令部のモニターには魔虫との激戦が刻一刻と表示されていた。
「Ω型の戦闘力がこれほどとは・・・」
「Ω型、前列を突破しました。魔虫の群れが後列になだれ込んでいきます。」
「第6師団の精鋭を向かわせろ。」
「空軍に近接航空支援要請! 」
当初楽観視していた幹部達は、次元の違う敵を前に冷や汗をかいていた。
戦闘地域上空
地球において北欧の国が採用しているような、デルタ翼とカナードが付いている特徴的な形の航空機が6機、上空を旋回していた。
「近接航空支援要請。全機、追尾光子弾。」
「了解。」
「アタック、アンド、デストロイ! 」
5機は隊長機の命令どおり攻撃準備を済ませ、編隊飛行を崩さずに急降下する。既に目標は捕捉済であり、対地攻撃における最も有効な距離で攻撃を行うのだ。
鳥機の追尾光子弾は音速の獲物を狩れるようにできているため、地上の追尾光子弾とは弾速も命中精度も桁違いである。地上目標が時速100や200㎞程度で移動したところで、意味をなさない。
しかし、それはΩ型も把握していた。
航空攻撃を察知したΩ型は立ち止まり、術式を起動する。上空では追尾光子弾が発射され、自身目がけて超高速で向かってきていた。
周囲の空間が歪み、Ω型周囲の重力が変わる・・・追尾光子弾が着弾するまでコンマ数秒・・・Ω型の鋼殻が逆立ち、強力な魔法が展開された。
鳥機から発射された追尾光子弾は陸上の光子弾とは比べ物にならない速度でΩ型に直撃し、その威力を開放する。その状況は上空の偵察機「夜目」も逐一監視していた。
「おい、着弾の寸前に目標が何かしていなかったか? 」
「すまん、見ていなかった。データを解析してみる。」
夜目のパイロット達は観測データの解析に入る・・・
メガベース司令部
Ω型に鳥機の追尾光子弾が直撃する様子がモニターに映し出される。
「やったぞ、直撃だ! 」
「ふぅ、これで終わったな・・・」
「鳥機部隊、補給のため帰投します。」
「地上部隊が効果確認に向かいます。」
鳥機攻撃地点
攻撃地点は追尾光子弾による攻撃で広範囲が土煙に覆われて視界は無い状態だった。
「土煙が収まらないと何も見えないな。レーダーには何か映っているか? 」
「魔力嵐で探知不能です。」
「全く、肝心な時に使えないな。まぁ、敵さんは木端微塵だろう。」
攻撃の効果確認へ来た人機部隊は土煙の中、Ω型の残骸を探していた。
ブンッ
巨大な物体が動くことによって土煙が大きく動く・・・
メガベース司令部
「確認部隊が全滅! Ω型、健在です。」
「ばかな・・・」
「あれを耐えたのか? 」
「夜目からΩ型の情報分析結果が来ました。Ω型は着弾の瞬間にレベル3相当の防御スクリーンを展開しています。」
「虫が最上級魔法を使うのか・・・」
司令部内は想像を絶する敵に絶望感が支配し始める。
アーノルド国軍防衛線後方
防衛線の後方には獣機部隊が数か所に展開していたが、この獣機部隊は撤退準備に入っていた。
「こっちにバケモンが向かってきている。早く撤収しろ! 」
「そんな事言っても、獣機動かすだけで手一杯ですよ! 」
「獣機の撤収だけで構わん! 他の装備は放置でいい。」
軍の獣機部隊は撤収作業に追われているが、護衛の人機部隊はΩ型への迎撃に出ていて周囲にはいない。その隣では1機の獣王が最前線を見つめていた。
Ω型が人機部隊を蹴散らしていく映像を見ながら、ワールウィンドウは広いコクピット内で戦闘の推移を見つめていた。そして、Ω型がどこを目指しているのかが判明する。
「あいつ、孵化場にいた奴か・・・いいだろう、決着をつけよう。」
Ω型は真っ直ぐワールウィンドウ機へ向けて移動を続けていた。
獣王(じゅうおう)
獣王型戦闘機の略称である。古代文明が人機の限界を感じて開発した兵器であり、人型から獣型に機体構造を変更したことで強大な格闘戦能力を誇る。
人機は性能向上が図られる一方で、射撃による攻撃と防御スクリーンによる防御で戦闘が膠着状態となることが一般となりつつあった。この状況を打破する方法として、機動性、防御性能が格段に高い獣型の戦闘機が開発されることとなる。
防御スクリーンを展開し、時速350㎞を超える速さで移動する獣王は人機にとって恐怖の対象となったのだが、製造コストが人機の比ではなく軍艦並みであり整備性も凶悪だったため、生産数は少数となっていた。
現在、ノルド人達は獣王の解析をまだ終えておらず、その能力の半分も出せない状態だが、パンガイアとジアゾの両大陸では陸戦最強の兵器と呼ばれている。
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