第18話 頼らざるを得ない禁忌
日本国が転移して1年9ヶ月
ある極秘会議が開催される。この会議は性質上極秘とせざるをえず、特定の省庁幹部が中心となって活発に情報交換を行い、綿密に連携して臨んでいた。
総理大臣と各大臣へ重要な情報を事前に伝えていない省庁の幹部達は、ある提案を呑ませることが最大の目標だった。
「日本国に上陸する怪物を抜本的に駆除するための今後の方針を決める会議」そう書かれた会議資料を渡され、事前に目を通していた総理は各大臣とともに既定の時間に会議室に入る。会議は始まり、日本各地の怪物の情報が報告された。その情報は総理が毎日報告を受けていたものと同等のものであり、渡された資料にも目新しい情報はない。
「総理、ここからが本題となります。北海道北方海域に、怪物の巨大なコロニーが存在するのはご存知かと思います。資料にある「怪物の総数について(予測値)」欄は不明となっていますが・・・」
「1年にわたる調査により、およその数が判明しました。このコロニーには少なくとも6千万、最大1億を超える怪物がいます。小型のものを含めれば、さらにその数倍となります。」
驚愕の事実であった。
「なんて数だ・・・」
「おいっ! 私にはまだ報告されていないぞ。」
大臣達が声を上げるが、反応が一部だけであることを見て、総理は嫌な予感を感じる。根回しが相当進んでいると予想した総理は、そのまま説明を聞く。
「何らかの影響でコロニーの怪物全てが我が国へ移動してきた場合、これを防ぐ手立てはありません。」
職員の説明が終わると、大臣達が話し始める。
「開発が完了した嫌忌音波発生装置を全国に緊急配備しては? 」
「あれは嫌がるだけで、完全には追い払えるものではなかったはず。」
ざわつく会場で、総理が発言する。
「で、対応策は考えてあるのでしょうね? ただそれだけの情報を伝えるために、私達(政治家)を呼んだのではないでしょう? 」
総理の問いかけに文部科学省と防衛省の職員が説明を行う。
「現在、有効且つ確実な対応策が一つあります。」
「転移前、黒霧が我が国を包囲する直前に、地下原子力発電所で使われる燃料を米国から緊急輸入したのですが、その中に核兵器に使用される濃度のものがありました。」
「米国に問い合わせたところ「世界的な核燃料不足に自国用燃料が不足したため代用品を送った」との回答を得ましたが、その真意は確認できていません。」
当時の日本国は政治的に不安定な状態であった。国が分裂するかもしれない混乱の中で、この情報は政府に伝えられることなく関係省庁の一部幹部と職員の間で秘密にされていた。兵器転用可能な核燃料が悪用されることを危惧したためだ。
「核爆弾は半年以内に実戦投入可能です。」
文部科学省職員が発言する。
「それで、唯一の被爆国である我が国が核を使用すると? 国民の・・・被爆関係者の前で「日本国は核を使用します」と私に言えと? 」
総理は問いかけるが、文部科学省と防衛省の職員は「それ以外に日本を守る方法はありません」と答える。
「分をわきまえたまえ! 」
普段はあまり感情を表に出さない総理が声をあらげる。
「なぜ当時の政府に情報を伝えなかった! 国民に情報を公開するも、非公開とするも、国民に選ばれた
総理の言葉に会場は静まり返り、会議は平行線をたどって終了してしまう。
極秘会議が終了して2週間後
怪物と核燃料の情報がマスコミにリークされ、核使用の判断を巡って国を二分する大問題となっていた。
転移後から怪物に悩まされてきた国民世論は核使用に傾いており、核使用を頑なに反対していた「関係者」は不特定多数から誹謗中傷を受けることとなる。
その現状に心を痛めた総理は緊急会見を行い、怪物に対して核を使用することを発表する。そして、核議論で割れた国民の間に入るように、総理は反対する関係者の元を訪れ、罵倒されつつも核を使用することへの謝罪と理解を求めた。
日本国初の核使用から2年後、北海道の北方にある怪物のコロニーで6発の核が炸裂。その爆発は巨大な魔力嵐も併発させ、コロニー内の怪物を全滅させることに成功する。
日本国の核開発は止まることなく進み、後に強大な核戦力を保有するに至るが、核のボタンと責任は、核開発を行った者ではなく、総理が全て負うこととなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます