第19話 鼠人につて

 鼠人は鼠の亜人である。身長は成人で120cmから150cm、他の種族に比べ力はなく、魔力も乏しい。そのため、古くから多くの種に捕食の対象と見なされてきたが、鼠人達は永い歴史の中で鋭い危機感知能力を身につけ、誰にも負けない逃げ足と繁殖能力を持つようになっていった。


 だが、天から授かった能力は種族の繁栄には繋がらなかった。パンガイアでは、強く高度な知能を持った種族が土地を独占し、鼠人は搾取の対象となる。奴隷や戦竜の食糧、人体実験の材料に使用されるなど、その歴史は凄惨なものだった。

 近年は人権意識が高まり、国際機関が認める鼠人には人権が与えられるようになる。アーノルド国とスーノルド国が中心となって鼠人管理機関が設立され、大陸中から鼠人が特定地域に集められた。

 特定地域に鼠人を集めた理由は二つ。人口抑制と個体管理である。鼠人はその繁殖力から増え続け、伝染病の蔓延など、都市環境の悪化を招くことがしばしばあり、国を超えた対応が必要だった。また、鼠人管理機関は先進国が設立したものであるが、とても世界全土を管理できないため、地区を限定して鼠人を管理したのである。

 この特定地域で教育を受け、一定の成績を修めた者には、特定地域外でも居住と就業の権利を認められるのである。認められた鼠人達は各地へ派遣され、奴隷ではない労働力として活躍していた。しかし、仕事の実態は下水や煙突掃除など過酷で危険なものが主であった。



 倭国が建国される遥か昔。南海大島は名もなき島の一つであった。その島は無人島だったが、いつしか海を渡ってきた鼠人達が住みつき、集落を形成する。当初、魔物の襲撃に怯えるだけの鼠人達は日に日に数を増やし、知恵を出し合って大人数で魔物たちを駆逐していった。順調に繁栄を続ける鼠人であったが、彼らにはどうすることもできない天敵が存在した。妖怪といわれる魔族である。妖怪達は人間と違って食べ過ぎても全体数が減らない鼠人を好んで捕食していった。鼠人達は知恵と数の暴力で妖怪を撃退しようとしたが、実力差は歴然としており、手も足も出なかったのである。

 「妖怪には勝てない」それが鼠人達の共通認識となっていき、一時期鼠人達は抵抗を止めてしまう。しかし、世代が変わると妖怪に反抗する者たちが現れる。その世代は団結して妖怪の本拠地である本島へ討伐に旅立つ。本島では人間と妖怪との戦いが繰り広げられており、たどり着いた鼠人達は人間達に協力して種族の未来をかけ、妖怪と戦った。

 戦いは熾烈を極め、多くの死者を出した鼠人たちであったが、故郷からは勇気ある者たちの後を追って後続が続々到着していた。そして、本島でも世代交代が行われていく。

 人間側は世代が変わるにつれ、ある変化が起こり始める。身体能力が飛躍的に向上し、強大な魔力を持った新世代が生まれ始めたのだ。妖怪との戦闘と本島に豊富にある魔石鉱床が主な原因といわれているが、定かではない。

 新世代は妖怪と互角に戦い、次々に討伐していった。鼠人にも新世代が生まれたが、それを見た一部の鼠人は故郷へ引き返していき、以降、南海大島から鼠人の増援が来ることは無くなってしまう。

 人間と妖怪との戦いは、ある人間と妖怪の共同研究によって終わりを迎える。妖怪が人間を食べる理由は、栄養を得る他に人間の魔力を取り込むことが目的でもあった。新たな畜産技術により魔力の高い家畜が安定して供給できるようになったため、双方ともに戦う理由は薄れていき、共存の道を歩むようになったのである。

 本島で人間と妖怪の共存が実現する中、南海大島では妖怪の襲撃が続いていた。一部の妖怪は本能に従って鼠人を襲っていたのだ。故郷の危機に本島の鼠人達は救援に駆けつける。しかし、南海大島の鼠人達はあまりにも変化した新世代を受け入れることは無く、逆に島から追い出してしまった。彼らの目には新世代が妖怪と同じ怪物に見えたのだ。この一件で本島と南海大島の鼠人達は、まったく別の道を歩むことになる。

 本島の鼠人は本島鼠人として市民権を得て妖怪達と共存し、後に倭国が建国された時には倭国人として世界に認められる存在となる。これほどまでに社会的地位の高い鼠人は世界でも稀であった。一方、南海大島は本島の安定後、ある大妖怪の領地に組み込まれ、鼠人は南海鼠人として妖怪の食糧となっていた。建国の際に個人領から国管轄となるが、鼠人と妖怪の戦いは続いていた。


 南海鼠人は捕食される側であったが、ジアゾ国の転移により大きく変わることになる。ジアゾ国から高度な魔法具と火薬を使用した兵器が伝えられ、南海鼠人達はジアゾ製兵器を導入し300年かけ解析、改良を重ね、新たな戦術を導入し、遂に妖怪に対抗できるまでの力を手に入れる。

 南海鼠人は魔力封じの魔法具、結界、銃火器、強力な爆発物を使用し、南海大島の妖怪達を次々に爆殺していった。パワーバランスは崩れ、彼等の攻撃は本島へも向けられることとなる。

 現在、鼠人を捕食しようとしていた妖怪は駆逐され、南海大島には鼠人を抑え込むための軍が駐留していた。

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