第10話 日本国、世界を考察する その2

東京都、霞ヶ関

 とある省庁の会議室にて、日本国が転移した未知の世界を各省庁の職員達が考察していた。


「妖術、魔術・・・さっぱりわからない。そもそもなんで言葉が通じるんだ? 」


「倭国の使者も困惑していましたね。魔法はこの世界の生物にとっては呼吸同然の当たり前のことらしいです。使者は魔法の無い世界を「信じられない」と言ってましたよ。」


「魔法については、省の施設で研究が始まっています。半魚人が使う衝撃波は生物学上不可能な現象でしたが、これで研究が進みそうです。」


「言葉の問題ですが、巻き込まれた米国軍人どころか北方領土に駐留するロシア軍とも言葉の壁がなくなっています・・・」


 ここは国の科学技術に関係する省庁であり、未知の世界における未知の作用に混乱しつつも、活き活きとして議論が行われていた。これも、倭国の使者が魔法を使用し、それを研究機関が録画して解析していたことと、空飛ぶ畳を調査したからである。衝撃を受けた職員や研究者達は、魔法に関して「絶対に解明する」と執念を燃やしていた。


「日本に上陸してくる怪物の件ですが、使者によると、これほどの頻度でまとまった数が上陸してくることは倭国でも無いそうです。やはり北海道の北にあるコロニーが怪物たちの発生地点で間違いないでしょう。また、新種の怪物の写真を使者に見せたところ、「ヌシ」と呼んでいました。倭国には数十年に一回の頻度でしか現れないそうです。」


「そのヌシとやらが北海道には10匹単位で連日上陸してくると・・・厄介だな。最近は二足歩行のカニ型も現れたらしいし、北海道は大丈夫なのか? 」


「カニではなく二足歩行のカブトガニです。道警からは銃が効かないと報告がありましたが、防衛省は問題ないと言っていますので大丈夫でしょう。」


「話は戻りますが、言葉の件で報告があります。この星では世界共通で言葉が通じます。ただし、日本語が共通語というわけではありません。国それぞれに違った言葉と文字が存在しているようなのです。このことについて、倭国の使者から興味深い情報が得られました。」


「使者の話では、この世界には超常的な存在が介入し、言葉の壁をなくしているそうです。詳細は不明ですが、発せられた言語を瞬時に翻訳し、相手に音声として伝えているようです。この世界では、その存在は遥か昔から「神」として崇められ、約300年前にパンガイアにある研究施設で、その存在が実証されたそうです。」


「将来、大陸へ行けるようになったら、世界最先端の研究施設で共同研究したいものです。それまでには時間があるので、我々は魔法についてできる限り知識を身に付けておくべきですね。」


 すでに言葉の壁がないこと自体が超常現象である。神が世界に介入していると言われても、反論する者はいなかった。


「みなさん、一つ宜しいですか? この世界の文明についてです。倭国の使者の見た目から、この世界の文明は中世程度との認識を持つ職員がいます。これは国会議員の先生方や国民もそのほとんどが誤解しています。」


「倭国の使者が乗ってきた航空機、見た目は空飛ぶ畳ですが、その装備に興味深いものがありました。地図と一体型の装置で、現在地を地図に自動で表示する機能を持っていました。使者に原理を聞いたところ、遥か上空に存在する幾つもの人工の星から情報を得て、自身の位置を地図に表示しているとのことです。」


「それってGPSじゃ・・・」


「はい、原理は同じようなものと考えられます。しかし、黒霧に囲まれてこの精度を発揮している。信じられない技術力です。」


「では、倭国には衛星打ち上げ施設があると? 」


「その件に関しては私が説明します。倭国には衛星打ち上げ施設は存在しません。この世界は地球とは違った文明の進歩を遂げています。遥か昔、この星には高度な魔法文明が栄えていたそうです。しかし、人間だけが突如として消えてしまい滅亡。そして、現在の人間が滅んだ古代文明の遺跡を発掘し、解析することで文明を進歩させてきたそうです。この世界の住人は古代文明が残した遺産を利用して生活しています。」


 この世界の文明レベルを推測しようとしていたが、地球の定規では測れない代物であった。


「ははは・・・凄い世界に来てしまったな。」


「来月には衛星の打ち上げを予定していますが、我々も各種衛星を揃えていかないと、この世界の国家に後れをとりかねないですからね。」


 ここは各自が持ち寄った情報を披露する場なので、ざっくばらんな雰囲気が漂っている。しかし、その中で深刻な表情を浮かべている集団があった。


「これは・・・まずいですね。」


「古代文明とやらは、地球の何世紀先を行っていたんだ? 現人類が古代文明を何処まで利用しているかにもよるが・・・」


 明らかに雰囲気の異なる集団の机には、地上から観測された宇宙のデータや、倭国の使者から得られた重要な証言録が置かれている。

 この星の衛星軌道上には多くの人工衛星と思しき物体が確認され、月面には建造物群も確認できていた。


「こんなものを利用している国と戦争にでもなったら・・・」


「幸いなことに、我が国は怪物の脅威にさらされています。怪物を口実に軍拡を進めるべきです。この際、生活水準の回復は諦めていいと思います。」


「いや、まだ時間はある。国民の生活水準向上を口実にして防衛力拡大の下地を作った方が良いだろう。」


 多国間外交において、国防は避けては通れないものであり、日本国が苦手とする分野であった。

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