第9話 日本国、世界を考察する

日本国が転移してから4ヶ月

 怪物と戦い続けていた国民は「この世界には怪物しかいないのでは?」と考えるようになり、国も未来への展望を描けずにいた。そんな中、黒霧の外から来た倭国の使者は日本に希望と活力を与える。


 倭国の使者が帰国した数日後、ある省庁の建物内で世界についての話し合いが行われていた。大臣が同席するような重要会議ではなく、各部署がそれぞれ集めた情報を共有していく場である。

 得られた情報はかなりの量であったため、一つずつ発表されていく。


「倭国ですが、人口の5割以上を妖怪が占めています。妖怪とは、この世界で魔族として分類されている種族です。魔族は高い魔力と知能を有し、人間に危害を加える存在と定義されています。ちなみに、半魚人は知能が低いので魔物に分類されます。」


「では、倭国は我が国に敵対する存在であると? 」


「倭国は魔族と人間が共存する、この世界でも珍しい国らしいですね。先日、我が国に来た倭国の使者は人間と妖怪のハーフだそうです。」


「妖怪と言っても、魔族に分類されるのは大妖怪のみだとか・・・大妖怪と妖怪の違いはまだ判明していません。」


「一つ宜しいですか? 「人間」の定義についてです。この世界で「人間」とはエルフ種やドワーフ種、獣や爬虫類の特徴を持つ亜人種、我々のように転移してきた異世界人も含めて「人間」と定義されているそうです。」


「政府はすでに方針を決めているようで、我が国もこの世界にならって「人間」という言葉を使っていくことになります。今後は言動に注意してください。」


各部署の発表は続く。


「倭国の使者によると、近く黒霧内にある二つの国家と接触できるそうです。」


「一国は沖縄の西にある「蜀」という国で、この国は人口の大部分を人間が占めます。使者の話から古代中国のような国との印象を持ちました。また、蜀は資源国で鉱物資源だけではなく、石油も豊富にあると予想されています。」


「生物石油工場が稼働しているとはいえ、石油の確保は国の最優先事項ですので、既に採掘へ向けた準備が進められています。」


「もう一国は小笠原諸島の南にある「ヴィクターランド」です。この国は群島国家で多民族国家でもあります。神竜が治める国で、国名もこの神竜の名からとられたものだそうですが、神竜については今判明していることはありません。」


各部署の職員が判明している情報を出していき、疑問点を聞いていく。


「先ほどの人間の定義ですが、誰が定義しているのでしょうか? 」


「それは私が説明しましょう。我が国の西、黒霧を超えた先にはユーラシア大陸とアフリカ大陸より大きな巨大大陸「パンガイア」が存在し、その大陸を実質的に統治している二つの国家が定義しているそうです。この二国が世界でのスタンダードを決めているようですね。国名はアーノルド帝国とスーノルド帝国です。」


「まずはこの二国に我が国を認めてもらわなければ、この世界で日本人が人間と定義されません。政府はこの二国との接触を将来の最重要事項と位置付けています。」


「大陸国との接触は当分先になりそうです。まずは倭国と正式に国交を結び、周辺国と接触することが当面の仕事になりそうですね。」


職員たちは情報共有し、今後の外交に備えるのであった。

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