第7話 転移後初の外交と燻る火種

父島北部小笠原村役場

 その一室にて、転移後初となる外国との話し合いが始まっていた。諸事情により本土で行うことができなかったため、外務省は父島に人員を派遣し、村役場に会場を設定する。

 まずお互いの紹介、そして現状を話し合う。外務省職員は天変地異で国ごと転移してしまったこと、現在半魚人に襲われていることを説明し、その話を聞いたセンジュウロウは日本国が目的の地であることを確信する。


 始まりは日本国が転移してきた日、倭国の神官が西の方角に不吉な妖気を感じ取る。まだ瘴気が強く、国内ではこれ以上の情報を入手できなかったため、倭国政府は軍の中から瘴気上空の飛行に長けた者に調査を命じようとしていた。だが、その場に意外な人物が現れる。


「300年前と同じ妖気です。また、新たな国が現れたのかもしれません。」


 現れたのは、上半身が人で下半身が蛇の最高権力者「フタラ」だった。不吉な妖気が以前感じたものと酷似していることに気付き、政府へ助言に来たのだ。

 フタラの言に政府の面々は困惑する。


「フタラ様、まさかジアゾのような大陸国が転移してきたと? 」


「わかりません、ただ、西へ人を出すなら文武に長けた外交官が良いかと・・・」


 思わぬ人物の助言に、倭国政府はセンジュウロウの派遣を決定するのであった。



小笠原村役場

 半日以上かかった話し合いの一日目が終了し、センジュウロウからもたらされた情報は日本側に大きな希望を与えることとなっていた。


倭国は妖怪と人間が共存する国で、日本と国交を結べる準備があること

黒霧が大幅に後退していて、間もなく新たな国家二ヶ国と接触できること

内、一国は石油が存在すること

黒霧が完全に晴れれば東西の大陸国と接触できること

黒霧は晴れれば数百年発生しないこと

魔法と魔石について・・・


 これら全ての情報が日本国の興亡に関わるものであり、転移してから怪物と戦い続けてきた日本国民にとって、この話し合いは未来への希望となるだろう。そして、地球国家との繋がりが断たれてしまった日本国は、新たな世界に多数の国が存在することを知り、準備を進めるのだった。



父島で会談が行われた同日、首都圏広域避難所

 黒霧から逃れるための避難所には、今も多くの人間が地上に出る事も無く地下で暮らしていた。日本上空を覆っていた黒霧が晴れた時点で、人々は地上に戻って生活を再開するはずだったのだが、怪物の出現によって未だに避難指示が解除されていなかったのだ。


「ねぇ、私達も外に出られないの? 」


「畑のアルバイトか? 中学生のバイトは禁止されているだろう。」


 人気のいない所で、男子高校生と女子中学生が何気ない会話をしている。子供たちにとって地下での生活は苦痛でしかなく、鬱憤は積りに積もっているのだろう。だが、この2人に関しては様子が異なっていた。


「妖魔の駆除に決まっているじゃない! 」


「大きな声を出すな。小百合、よく聞け、俺達はこの区画を任されているんだぞ。」


「私が、「いない」って言っているでしょう! これじゃ体の良い留守番じゃない! 」


 2人の学生は、退魔士という裏の顔を持っていた。正確には、ある宗教組織に属しており、組織の命令で避難所の警戒を任されていたのだが、小百合と呼ばれた中学生は非常時にもかかわらず、実質留守番されられている事に不満を漏らしている。それもそのはずで、外では自衛隊がものすごい勢いで妖魔を駆除し「自分達の仕事」を奪っていた。


「千年前はともかく、今は俺達に仕事なんてないさ。妖怪がいたとしても自衛隊が駆除するだろう。小百合もその方が良いんじゃないか? 」


「私を他のナギと勘違いしないで、妖怪を見つけたら、私の手で殺してやる。」


 白石しらいし小百合さゆりは兄役の男子高校生に殺気のこもった口調で答える。だが、数年後に妖怪の友人が出来るなど、この時は思ってもいなかった。

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