第6話 日本国、異世界人と接触する
東京都、小笠原諸島、父島
黒霧によって本土よりも先に全住民の避難が行われた小笠原諸島では、ながらく人が住んでいなかったが、今は半魚人の駆除と離島防衛のため、少数の警察と自衛隊が駐留していた。
父島には転移前に飛行場が整備されていて、黒霧が日本国を包囲し始めた時には島民の避難と研究者の輸送に使われていたが、今、父島飛行場は重苦しい雰囲気に包まれている。
約10時間前、早期警戒管制機が父島の東、約1000キロにある黒霧から現れたと思われる飛行物体を感知した。防衛省は政府へ報告するとともに、この物体の調査に乗り出す。レーダーを解析し、未確認飛行物体は小型の旅客機ほどのサイズで、速度は最高でも時速200キロ程度、無線には応じず、黒霧を巧みに避けた飛行をしていることから、地球上には存在しない未知の大型生物か、相応の機能を有した航空機と判断する。
未知の生物であれば戦闘機が警告し、威嚇射撃で追い払い、反撃されれば撃墜する予定であったが、現実は畳型の航空機に未知の生物と人間が乗っていた。
政府から連絡を受けた外務省は外交官と言語学者、民俗学者を中心とした即席の外交団を結成し、自衛隊機で父島へ向かうのだった。
父島飛行場
飛行場では、畳から降りてきた男性と自衛隊員が対峙していた。なんとも重い雰囲気の中、男の口が開く。
「私は東にある島国、倭国の使者である。名はセンジュウロウと申す。そなたらの部族長に謁見を申しいれたい。」
一人の隊員が男の前に出ると、男の大声に怯むことなく返答する。
「自分の名は
周囲で待機している隊員は「えっ日本語?なんで?」「あんなに緊張している三佐を初めて見た」「あの蛇おとなしいな」など雑談をしているが、万が一に備えて銃は握ったままだ。
落合は右手を出して握手を求めると、センジュウロウがためらいの表情を浮かべる。
「我が国の挨拶です。出された手を握り返すことで成立となります。」
落合の説明にセンジュウロウは納得し、手を握り返す。
異世界に転移して4ヶ月になろうとしていた日本国は、初めて異界人と接触した。
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