第5話 日本国、異世界人と遭遇する

自衛隊が怪物駆除に参加して3カ月

 陸地に侵入した怪物はほぼ駆逐されたものの、次々と上陸してくる怪物に人々は悩まされていた。だが、混乱が収束しつつある現在、産学官が連携し怪物の本格的な調査が開始される。陸では生きた怪物を捕獲し、解剖や生態調査が行われ、海では水産庁と海上保安庁による怪物の侵入ルート、発生地点を割り出す試みが行われている。海上で怪物を捕獲し、発信機をつけては海に帰すを繰り返し、少しずつだが怪物の生態がわかり始めていた。


東京都、霞ヶ関

 環境省内で、ある男が別の省庁の人間から報告を受けていた。


「群司令が更迭されました。」

「予定どおりですね。あのような人材を確保しない手はありません。」

「あの、上杉さん。本当にこの世界には魔法があると考えているのですか? 」

「怪物駆除に彼等が大々的に動いています。これが何よりの証拠ですよ。」


 環境省の1職員でしかない上杉のもとへ報告に来た防衛省職員は、彼が何を知っているのか、何をしようとしているのか、まだ何も分からなかった。



東京都、小笠原諸島、父島

 その東、約300キロの海上に奇妙な飛行物体が西に向かって進んでいた。それは日本人が見れば空飛ぶ巨大な畳であり、空飛ぶ畳の上には屈強な一人の男と10メートルを超える蛇に羽の生えたような生物が乗っていた。


「最近瘴気が薄い。近いうちに大陸への航路ができるのやもしれぬな。航路ができれば外交担当のワシらの出番だ。チビよ、大陸は初めてであろう、大陸の飯は美味いぞ。」


「シャー」


 男は蛇のような生物に話しかけ、蛇のような生物は嬉しそうに応える。

 のんびりとした会話をしていると、急にチビが進行方向をじっくり見つめて警戒音を発しはじめる。相棒の異変に男は警戒レベルを一気に上げて同じ方角を凝視する。


「何かが来る・・・」


 男は強靭な視力を以てその正体を二つ見つける。最初は埃のように小さかった二つの点はあっという間に大きくなり、空飛ぶ畳付近を高速で通過してゆく。その圧倒的な速度と風圧に圧倒されながらも、男は未確認飛行物体を見続けた。


「属性竜! いやっ、鳥機か! 」


 通り過ぎる一瞬のできごとであったが、男は飛行物体の形状を頭に叩き込む。「あれは鳥型戦闘機」瘴気内国家で運用している国はないはずの航空機が目の前を飛行している事で、男は今回の任務が国運を左右するものであることを認識する。


 空飛ぶ畳の付近を通過したのは航空自衛隊のF-15Jであった。

 F-15Jのパイロットも未確認飛行物体を確認し、人間と巨大な蛇が搭乗していることを把握していた。無線が一切通じず、意思疎通ができなかったため、パイロットは空飛ぶ畳を近くの空港へとエスコートするように飛行する。

 F-15Jのパイロットは、事前に「相手から攻撃されない限り、警告を行って追い払う事はせず、可能な限り近くの飛行場へ誘導せよ」との命令を受けていた。


「ついてこい、というわけか・・・」


そのように解釈した男は心を決める。


「ゆくぞチビ、仕事の時間だ。」


 男は相棒に話しかけたが、相棒は畳の片隅で戦闘機を威嚇しながら震えていた。

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