第4話 半魚人の襲撃 その2

 日本国上空を覆っていた黒霧が完全に晴れた頃、日本国政府は混乱の最中にあった。

 地下に設置された内閣情報集約センター、そこには日本全国から情報が集約され、近くの会議室には総理大臣をはじめ、各大臣や省庁の幹部が集まっていた。

 日本全国に現れた怪物は、各都道府県の警察官と猟友会が共同で駆除しているものの、とても駆除しきれる量ではなかったため、各県の知事から自衛隊の出動要請が来ていた。農林水産省へは「広範囲の農地に被害あり」との報告があがり、魚の養殖場も甚大な被害を受けたことを確認し、食料生産の大幅な低下が危惧された。

 国土交通省と経済産業省もインフラの被害報告を受け、怪物の早期駆除を求める。全国の燃料備蓄基地や北海道に建設された生物精製燃料工場が破壊された場合、為す術が無くなってしまうのだ。

 最早、悠長に情報収集と分析を行っている場合ではなかった。総理大臣は直ちに防衛省へ自衛隊の出動を命じる。


だが、防衛省は自衛隊をすぐには出動できないと即答する。


話は遡り転移前

 日本国は自国民の海外避難を諦めるかわりに、世界から資源供給をしてもらう取り決めをした。このことにより、食糧以外の資源を黒霧の発生していない海路から輸入し、地下避難所の建設に全力を注ぐことになる。当時の政府は国民全員分の他、自衛隊専用の避難所も同時に建設し始めていた。隊員とその家族が避難する生活区画。陸空の兵器を全て収容できる巨大な格納施設を建設予定であった。しかし、この計画がマスコミにリークされると、「国民全員の収容が最優先だろう!」「人命よりも兵器が大切か!」との批判にさらされ、政権は交代。新たな政府は全国民の避難施設建設を最優先とし、兵器格納庫の建設は一時中断された。

 日本国周囲が黒霧に包囲され、資源の輸入ができなくなったころ、全国の避難所は8割以上完成し、後2年もあれば完成の予定であった。また、並行して全国各地に計画された資源保管施設が完成しており、日本国が干上がる心配は当分無い状態になっていた。しかし、兵器格納庫の建設は再開されることはなく、自衛隊は訓練名目で施設科を中心として格納庫の建設を細々と行っていただけだった。

 転移直前、黒霧が上空を覆い全国民に避難指示が出された時、全国の自衛隊は急いで兵器の避難を開始した。ほとんどの兵器は基地や駐屯地に置いていかなければならないため、残す兵器にある作業を施す。不届き者が乗り回せないよう、できるだけ固定し、バッテリーを外して別の場所に保管、更に燃料を抜いておいたのだ。


「陸上兵器を稼働状態に戻し、部隊編成を完了するまでには、どんなに早くてもあと1日必要です。」


防衛省幹部が総理に現状を説明し、さらに悪い情報を説明する。


「航空自衛隊の基地に新たな怪物が出現しました。」


 それは小型犬ほどの大きさがある白い生物であった。ダイオウグソクムシに似たその生物は滑走路に現れるだけでなく、戦闘機のエアインテークに潜り込んでいる個体まで確認された。その結果、地下格納庫に退避できなかった航空機は全てオーバーホールが必要と判断される。


「現在、航空自衛隊に稼働機はありません。」


「海上自衛隊は基地の奪還と停泊中の護衛艦内を点検中であり、すぐには出航できません。しかし、第一護衛隊群が東京湾に展開中です。」


「 !? 彼らは地下へ避難しなかったのか? 」


「まぁ、いいではないですか、動かせる人員を動かしましょう。」


会議室は混乱の中でも情報を精査し、今後の行動を決めて決断を下す作業が続く。



同時刻、東京湾

 第一護衛隊群は動かせる艦を東京湾に展開させていた。各艦のヘリ甲板では完全武装の隊員と積める限りの装備を搭載したSH-60Kが飛び発とうとしている。


「君の言う通りになったね、楠木3佐。部隊の案内を頼むよ。」


「はっ、必ず陸に物資を届けます。」


 群司令の寺田1佐は自身の責任の下、独断専行で陸自への支援を行おうとしていた。

 独断専行という言葉は悪い意味に捉えがちだが、上が混乱している現在、自分達が出来る最善を行うことこそ自身の地位に見合った行動であり、その判断と決断が出来ない者が就いて良い地位ではない。それと・・・


「奇襲にはくれぐれも気を付けてくれ。」


「心配はいりません。妖魔ようまの動きは分かりますので。」


 寺田の部下には専門の知識を持つ者がいた。

 楠木くすのき 日夜野ひよのは部下を引き連れ、SH-60Kは飛び立っていく。

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