第5話 お揃いのマグカップを買った

 真昼が俺の家に来て最初の土曜日、俺は今一人でモールに来ている。

 お揃いの物って言ったらまずは雑貨屋か。

 しばらく雑貨を見ていると店員に声をかけられた。


 「なにか、お探しですか?」


 店員に聞いた方が早いだろうと思い、俺は店員にお揃いの雑貨がなにかないか聞くことにした。


 「もうすぐ高校生になる女の子がお揃いの物を欲しいって言うんですけど、そういうのってありますか?」


 店員は微笑ましいみたいな顔をした。絶対俺と真昼のことを彼氏彼女だと思っている。まあ、違うというのも面倒だし、訂正はしないでおくか。


 「でしたら、こちらです」

 「……」


 カップルコーナー。というポップが書かれた場所に案内された。お揃いの物がたくさん置いてあるのだが、居るのが気まずい。


 「あの子、彼女さんにお揃いの物なにかプレゼントしようとしているのかしら」

 「可愛い」


 と聞こえてきた。恥ずかしくてゆでダコになりそうだ。

 

 「あ、これ」


 俺は青と赤のペアカップの赤の方を取った。真昼が好きなふにゃんとしている猫のイラストレーターさんがしたであろうデザインのマグカップだ。

 値段を見る。

 四千七百円。……高い。

 でも、まあこんなもんか。


 「これにします」

 「では、こちらに」


 店員は俺を会計のところまで連れて行く。俺は会計を済ませると、モールから出ると、まっすぐ家に向かって帰った。


 「ただいま」

 「おかえりなさい」

 

 真昼は壁からひょこっと顔を出す。

 

 「どうかしたか?」

 「私以外の女の人とデートでもしてきたんですか?」


 行くときにどこに行くのか真昼に言わなかったから拗ねてしまったらしい。


 「デートしてたら午前に帰ってこない」

 「それもそうですね」


 納得したらしく、真昼は俺に姿を見せた。

 真昼は俺が手に持っている袋が気になるらしく、そっちに視線を向けていた。


 「なんですか。それ」

 「これ、真昼にプレゼント」

 「本当ですか!?嬉しいです」


 俺は真昼に袋を渡す。真昼は綺麗にラッピングされた箱を丁寧に剥がすとあらわになったマグカップを見ると、すぐさま俺の方に視線を移した。


 「これ……私が好きなイラストレーターさんの……」

 「真昼がこのイラストレーターさんの雑貨集めてたの知ってたから。それに、真昼が欲しいって言ってたお揃いの……だし」

 「ありがとうございます!」


 真昼は俺に抱きついてきた。何が起こっているのかが頭で理解出来ず、俺の思考はしばらく停止していた。


 「渚くん……?」


 真昼に名前を呼ばれてやっとこの状況を理解できた。

 琉斗と話した決まりを作るという話しを今した方がいいんじゃないかと思った。こんなこと毎日のように起こったら心臓が持たない。

 俺は真昼を引き剥がし、ペンと紙を棚から取り出した。

 

 バンっと俺は真昼に紙を見せる。


 「過度なスキンシップは禁止。俺のことは用事がある時にしか触らない。風呂に入る時と出る時はちゃんと報告する。なんですか?これ」

 「俺たちが一緒に生活するにあたっての決まりだ」

 「決まり……ですか?それが必要には思えませんけど」

 「俺には必要なんだよ」


 俺ははあとため息をついた。これで、真昼が納得してくれる気がしない。


 「分かりました」

 「やっぱ了承してくれないよな。うん。っていいのか!?」

 「ええ」


 これはなにか企んでいる時の笑顔だ。

 何をするつもりなんだ。


 

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