第3話 幼馴染が作った手作り弁当を食べる

 「ちょっと待ってください!」


 大声で真昼が俺に声をかけた。俺はアパートの二階にいる真昼の方を見る。


 「!?」


 真昼の手には弁当箱があった。真昼は卒業式が終わってこっちに来たから今は春休みだ。真昼のでないとしたら……。


 「俺のか……?」

 「はい。どうせ、昼食は購買で買っているのだろうと思ったので」

 「よく分かったな」

 「渚くんのことはお見通しです」


 そうだった。真昼とは保育園の時からの仲で、俺の性格をよく知ってらっしゃる。だから、真昼に嘘をついてもすぐバレる。そう分かった時からは嘘をついたことはない。

 真昼は俺にお弁当箱を渡す。


 「ありがと」


 お礼の言葉を言って学校に行こうと思っていたが、真昼が俺に話しかけた。


 「渚くん。行ってらっしゃいは?」

 「……」


 なんだか新婚夫婦みたいで恥ずかしくてなかなか言えない。だけど、ここで言わないと遅刻決定になる。


 「い、行ってきます」

 「はい。行ってらっしゃい」


 「はあ」


 俺は友達の琉斗の前で溜息をつく。


 「なーに、溜息ついてんだよ」


 俺の方をちらりと見もせずに琉斗はスマホをいじくっている。


 「幼馴染と一緒に住むことになったんだよ」

 「あー、うん……って幼馴染と一緒に住むことになったあ!?」

 「ちょっと、声大きいって!」


 周りのやつらが俺らのことを一斉に見る。「新山、幼馴染と一緒に住んでるんだって」「えー。なんかそんなイメージなかった」とか聞こえる気がする。


 「俺、ちゃんとやっていけるか心配で……」

 「で、その幼馴染とやらは可愛いのか?」


 琉斗は俺の話なんか少しも気にせず、そう言う。少しぐらい気にして「なんで?」と聞き返してほしい。

 俺はスマホの写真から真昼の写真を見つけて琉斗に見せる。


 「奇跡の一枚みたいだな」


 ポーズをとったように見えるが、只単にいつもの様子を撮っただけだ。なのに、こんなに綺麗に写るなんてと真昼のことを撮る時にいつも思う。


 「一眼レフで撮ったやつじゃないぞ」

 「マジか」

 「マジだ」

 「で、その幼馴染の何が心配なんだ?」

 「一緒に住んで裸を見ちゃったり、間違いがあったりしたらさ……まずいじゃん」

 「……お前なあ」


 「そんなこと気にしていたらキリがねえよ」と言われると思ったら予想外の返答が返って来た。


 「最高だろ。美少女の幼馴染と一緒に同棲。そしてお前が言う、裸を間違えて見ちゃったりってそんなラノベの設定みたいなことが起こりうる可能性があるなんてそれ考えるだけで至福だわ」


 あー。相談する相手間違えた。コイツはラノベが大好きなんだった。こんなラノベの設定みたいなことが起こるなんて俺も思わなかった。でも、本当に起こると真昼を傷つけたくない方の気持ちの方が強い。だから本当に悩んでいる。


 「でも、本当に悩んでいるんだったら、本人に言ってみれば?こういう間違いが起こらないようになんか決まりを作るとか?」


 琉斗にしてはまともな案を出して来たので驚いた。


 「ありがと」

 「おう」





 昼休みになり、俺は教室の自席で真昼が作ってくれた弁当を鞄の中から出す。ランチバッグから弁当箱を出すと中学の時に使っていた俺の弁当箱が顔を出した。

 (懐かしい)


 「手作り愛妻弁当か?」


 琉斗が俺のことをからかう。


 「幼馴染が作ったんだから弁当じゃないだろ」

 「じゃあ、幼馴染が作った手作り弁当ってことになるのか」

 「長すぎだろ」


 と二人で笑い合う。

 弁当を開くとカラフルな色だなと思った。上の段にはおかずの唐揚げと鮭の塩焼き、ひじきの煮物、だし巻き卵、ブロッコリー、トマトが入っている。下の段はご飯で俺の好きな梅干しが一つ、ぽつんと真ん中に置かれている。

 食べてみるとどれも美味しくて流石真昼と思った。家に帰ったら美味しかったと言っておこう。

 そう考えているとふと疑問が浮かんできた。


 「こういう弁当とか作る人は何時に起きてるんだ?」

 「俺の母ちゃんは、五時だって言ってたな。全部手作りならそれより前に起きてるんじゃね。母ちゃん、洗濯物とかもやってるし」

 「六時半に起きたときはもう全部終わってたから……」

 「すごいよな。そんな朝早くからこんな弁当作るために頑張ってるって」


 ぱくっと琉斗は僕の唐揚げを一つ食べる。


 「ちょ」

 「なにこれ、めっちゃうま!昨日から仕込んでたやつじゃね。これ」


 そういえば、昨日寝る前に麦茶を飲んだ時に鶏肉が入っているフリーザーバッグが冷蔵庫にあった気がする。


 「すげえな。俺、唐揚げなんて作れる気がしない」

 「奇遇だな。俺もだ」


 そう言って琉斗は僕の弁当に入っている最後の唐揚げをぱくっと食べる。真昼が作った唐揚げだから美味いと思うが、最後の一つは食べたかった。


 「琉斗のおかず、何かくれよ」

 「あ、すまん。もうねえわ」


 琉斗は俺の前で手を合わせて謝った。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る